秋風ノ~So.Na.Ta~ｼﾅﾘｵ制作中ｵﾘｼﾞﾅﾙｽﾄｰﾘｰ...

「…冗談だよ～だっ！」
「…で、どうなんだよ？つくらないのか？」
　また頬張ろうとした手をとめた。
「…あたしの恋は、叶わないから…♪頑張っても絶対に叶わない恋だからさ…♪だから、その人が幸せになってくれればあたしはそれで満足だもん」
　瀬衣菜はおかしのパックを輪ゴムで密封にして、それを持ち出す。
「兄貴も探せよっ！♪あたしは寂しくないからさ♪……もう寝るよ…♪おやすみ…」
　何故か、いつもの瀬衣菜とは違う感じだ。覇気が感じられない。それどころか悲しげにぽつりと呟くその言葉。兄としては気になる一方だ。
　暁もテレビを消し、居間をあとにした。
　あの質問をしなければ、まだテレビを見て笑っていただろう。そう思うと罪悪感に包まれた。

　夜中、いきなり目が覚める。喉が渇いて仕方がなかった。
　そういえば、今日そんなに水分をとってなかった。原因はそこからだろう。
　寝ぼけ眼で階段をおりる。廊下を少し進み居間に入る。しんっ、としていて不気味だった。
　すぐ近くが台所なので、暗いなかふらふらと冷蔵庫に歩み寄り、中を開けるが何も飲物がなかった。そういえば、飲物を切らして明日買ってこいと言われたことを思い出した。
　しょうがなく、水道水を飲もうとしたが、どうにもイマイチしっくり来ない。
　目も覚めたので散歩がてらに、近くの自販機で飲物を買うことにした。

　外は冷たいそよ風が吹いている。さすがに秋となれば寒さが増すわけだ。
　近くと言っても結構離れている。ここから約５分ぐらい先だ。
　家を出てから、道なりに真っ直ぐ進む。夜中なので人も誰もいなかった。まぁ、いるわけがないだろう。
　江原の家は住宅街にある。この道を通っていくけど、どの家も明かりを消していた。就寝時間はみんな同じころだろう。
　歩いているうちに、いつの間にか自販機の光が見えてきた。
　だが、その光に照らされてる人影が見える。
　自販機で飲物を買っているのだろうか。とりあえず歩みよる。目的は飲物を買う、ただそれだけなんだから。
　自販機に近寄るにつれ、その人の姿がはっきりと見える。

「……羽瀬…さん…？」
「………江原君…」
　自販機の光に照らされて、羽瀬の姿が目に映る。
「こんな遅くに、どうしたの…？」
「……散歩の帰りに、飲物を買いにきたんです…」
「僕も何ですよ♪家に飲物がなくて……」
「そうですか……」
　そっけない反応だ。それもそうか、昨日の昼に逃げられてしまうぐらい嫌われてしまったのだから。…いや嫌われてるわけではないだろう。ふてくされてるだけだ。
「……あの帰りの時、なんて言ったんですか？」
　今なら聞ける気がする。ここには江原と羽瀬以外誰もいないのだから。
「…な、なんでもないですぅっ！」
「本当に…？なんで先に行ったりしたの…？……気になるよ…」
「……だって…」
　羽瀬はもじもじしながら、江原を見つめる。
「…正直と言ってはなんですけど……、ちょ、ちょっとヤキモチ…妬きまして……」
「香音のこと？」
　羽瀬は恥ずかしそうに一度だけ頷く。首をしたにさげたまま、江原と顔を向けなくさせた。

「……でも久しぶりに会えたら、香音はいつも甘えてくるから、よくわかるでしょう？」
「で、でも！…私は何もしなかったですよ…？私は……抱き付いたり、泣いたりしませんでしたよ…？」
「…うん。偉かったね♪」
「…私、…ずっと……我慢してましたよ？…昔みたいに……したいよ…」
「…香音みたいですよ？」
「…だ、だって！ずっとだまってたけど、本当にずっとずっと…寂しかった………。転校したあの日から…ずっと………ずっ……」
　羽瀬は声をあげて泣き出してしまった。今までみたことがないほどの涙をこぼしていた。
　ついには、その場に座り込んで泣いてしまう。
「羽瀬さん………」
　江原はただそう呟くと、そっと羽瀬のことを抱いた。華奢なその小さな体を壊さないように、そっと両手で包み込む。
「…あっ……」
　小さく声を漏らす羽瀬。涙は流したままだけど、しっかり江原の両手を受け入れた。拒否もせず、ありのままの羽瀬の気持ちごと受け入れた。

「まだ…いってなかったね…」
「え…？」
「……ただいま♪」
「…はい…♪……お帰りなさい…♪」
　やっと笑顔が戻った。涙は少し出たままだが、確かに笑顔をつくってくれた。
　それは、まだちゃんと言っていなかった言葉であって、すごく大切な言葉である。
　何で言ってあげなかったんだろう。もっとはやく言っておけばよかったのに、と、自分を責めるが、今言えたことに感謝しよう。
「…江原君……、くすぐったいですよぉ…♪」
「ご、…ごめんねっ！」
　江原は羽瀬から離れ、慌てて謝った。
「……ううん…。嬉しいです…♪…本当に…ありがとうございました♪」
　羽瀬はすっかりご機嫌になってしまった。いつもの羽瀬に戻り、にっこり笑顔を向けられる。
「…ごめんなさい…。いうのが遅くなってしまって……」
　羽瀬は少し顔を赤く染まらせた。
「い、いえ……♪………わ、わわわわ、私、も、もう行きますねっ！」
　何を慌てているのだろう。その言葉を残し、去っていってしまった。
　今日の出来事は夢じゃないと思いたい。
　また羽瀬のこと気にかけてしまう自分が、少しだけ恥ずかしかった。
　本来の目的である飲物を買い、また自宅へと足を運んだ。