【一緒に】球体関節人形【つくろう】
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#12 [七氏]
というのも、稲川さんは当時国立に住んでおり東さんは小平の辺りに住んでいたので方角はほぼ同じだったのである。そして車は当時開通したばかりの中央高速道路に向かって走っていた。高速道路に乗っても、深夜なので行き交う車はほとんどいない。道路灯も完備されていなくて辺りはほとんど真っ暗だった。稲川さん達の車の、前にも後ろにも車はいない。二人は普段から気の合う友達ということもあり、雑談に花を咲かせていた。「淳二、油揚げはな、こうやって食うとうまいんだぞ。」「やだな〜、東さんは。アハハ。」しばらく走っていた頃だ。三鷹を少し過ぎた辺りだろうか、道路脇の塀の上に道路標識らしい丸い物が立っていた。(あれ?珍しいな・・・。)その頃中央高速には標識はほとんど立てられていなかったのである。しかし稲川さんは特に気にも止めず、標識は遥か後方へと過ぎて行った。東さんは相変わらず面白い話をして稲川さんを笑わせている。しばらく走っていると、また同じような丸いものが見えてきた。再びその標識らしき物を通りすぎたのだが、人間というのは面白いもので、同じ出来事が複数回続くと「またあるんじゃないか?」
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#13 [七氏]
と思うものである。多くは偶然なのだが、稲川さんはさらに同じような物をはるか前方に発見した。しかし、形が先ほどまで見ていた物と違うのである。距離はかなりあるはずなのだ。しかし稲川さんはそれが、「人の形をした物」だと、すぐに気づいたそうだ。人間の目というのは曖昧なのか正確なのか、良くわからない点がいくつかある。信じられない程遠くにある「なにか見なれた物の形」、この場合は人の形なのだが、「あっ、○○○だ。」とすぐに認識できる場合がある。例えば東京タワーのような高い建物の頂上に人が立っていれば、「人間が立っている!」と下から見上げる人達で大騒ぎになるであろう。5 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:33しかしその時は深夜、辺りは真っ暗である。なのに稲川さんは、その人間が「黒い着物を着た、黒髪の少女」だという事が分かったそうだ。その少女が真夜中の高速道路の塀に立っているのだ。道路の方ではなく外の方を向いて腰を少しかがめながらである。(うわっ、自殺だ・・・!)とっさにそんな事を思ったそうだ。しかし、その少女の周辺には車やバイクを停めている様子は無い。(どうやってここまで来たんだろう・・・?)
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#14 [七氏]
そう不思議に思ったが、車はだんだんとその少女が立っている辺りに向かって走り続けている。ガーーーーーー!!!稲川さんも東さんも冷房が苦手だということもあって、窓は全開にしてある。その為風の音や車の走行音でものすごくうるさい。まるで吸い込まれるかのようにその少女を見ていた稲川さんだったが、そのうちその少女の首から下が風景と溶け合うようにしてス〜ッと消えて行き首だけが残った。その首がカクッ、カクッ、とぎこちなく角度を変えて稲川さん達の方を向いてくるのだ。人間が首を横に回すときのように「スーッ。」といった感じではなく、ぜんまい仕掛けで首を変に規則的に回す人形のような、そんな感じであったという。そしてさらに近づいた頃だ。稲川さんはその「首」が、明らかに「半透明」である事に気づいた。透けて向こうの景色が見えるのである。しかし顔は確かに存在している。おかっぱ頭、目は切れ長で口も横に長くて、気味が悪いほど肌は真っ白。それでいて無表情。その「首」が、気がつくと稲川さん達の車のすぐ前方に浮かんでいたのだ。そうかと思うと首はフロントガラスをすり抜けて車内に入ってきた。そしてスポーン!と後ろに抜けて行ったのである。
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#15 [七氏]
6 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:34(うわーっ!な、何だ!?今の・・・。)しかし稲川さんは東さんにはその事は言わなかった。不思議な事だが気づいていない様子だったし、稲川さんを降ろした後は東さん一人で自宅に帰らなくてはならない為、変に怖がらせては申し訳無い、と思ったからだそうだ。(疲れてるのかもしれない・・。)そう思って着を落ち着かせようと努めた。やがて車は稲川さんの家に到着した。「どうもありがとうね、おやすみー。御疲れさ〜ん。」わざと明るく挨拶をして稲川さんは東さんと別れた。しかし、何となく肩が重いのである。(あぁ・・・疲れた。)2階に上がってみると奥さんが寝ていた。疲れているはずなのに眠たくは無い。稲川さんは下の部屋のソファーの上で横になっていた。しばらくすると稲川さんの耳にミシッ・・・ミシッ・・・という階段を降りる音が聞こえてきた。見てみると奥さんが下に降りてきたのだが、稲川さんの顔を見るなりこんな事を口にした。「お帰り・・・。お友達は・・・?」「友達?そんなのいないよ。」「もう帰ったの?さっきあたしが寝てるときにあんたと一緒に入ってきた人だよ。」
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#16 [七氏]
「いや、この家に入ってきたのは俺一人だけだよ?」「ウソ。さっきあんたの後から部屋に入ってきて、あんたが出て行ったあとも部屋の中でグルグル歩き回ってたの、誰よ?」「・・・何だそれ?気味が悪い事言うなよ・・・。」寒気を覚えながらも、やがて夜が明けた。すると稲川さんの元にTV局から一本の電話が入った。東さんである。「おぉ、昨日はどうもね!」「・・・淳二さぁ、昨日は悪いと思って言わなかったんだけど・・・。」「何の事?」「昨日・・・誰かと一緒に車を降りたよな?」「・・・何それ?」「いや、隠さなくてもいいよ。分かってるから。」「・・・ちょっと待ってくれ、隠してるわけじゃないよ。・・・今から局に行くからそこで話すよ。」局に着いた稲川さんは、さっそく東さんに事情を聞いてみた。「・・・俺は実際に何か見えたわけじゃないんだけど、気配で感じてたんだよ。俺と淳二の他に、車の中に誰かが居たんだ。そいつが、淳二が車を降りたら一緒に降りたんだよ。」「・・・実はさ・・・。俺も昨日こういう事があって・・・。」稲川さんは昨夜目撃した少女の事について詳しく東さんに話した。7 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:35
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#17 [七氏]
東さんとの話も終わり、仕事も終えて帰宅すると稲川さんに電話がかかってきた。人形使いの前野さんという人物からであった。「うわ〜、久しぶりだね〜!元気?」二人は懐かしい話しで盛り上がったのだが、前野さんが稲川さんにこんな事を言ってきた。「稲川ちゃん、また今度舞台やるんだけど、そこに座長として出てくれないかな?」聞けば、新しく手に入れる人形と一緒にお芝居をやるという企画の事だった。前野さんという人はこの道ではかなり著名な職人で、評判の良い人形師の人だった。今回のそのお芝居も大勢の有能なスタッフ、魅力的な俳優や女優、声優を用意した大掛かりな物になるとの事。以前から演劇や戯曲等に興味があった稲川さんは、親しい前野さんからの頼み事ということもあって快く承諾した。「いいねぇ、やろうよ。」やがて段取りも順調に進み、出演者やスタッフ一同で顔合わせがあった。「どうもはじめまして。」「よろしくお願い致します。」自己紹介で一人一人が挨拶をして行く。一通り済んだ頃、前野さんが今回使用する人形についての説明を始めた。話しによるとその少女人形は、身長が125cm、かなり大きい。
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#18 [七氏]
普通の子供とさほど変わらない大きさで重量もある。よって操作は黒子さんに扮する男性が3人がかりで動かすのだ。黒子Aは頭と両腕、Bは胴体、Cは両足。といった具合の役割である。すると前野さんが、申し訳無さそうに室内の関係者に向かって口を開いた。「え〜、皆さん。大変申し訳無いんですが、肝心の人形はまだ出来ていないのです。ですが、今日皆さんにご説明するという事で、絵図面ですが持ってまいりました。」8 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:36稲川さんも含めた関係者達の視線が前野さんに集まる。「こちらです。」ピラッと図面を関係者達に見せるように両手で広げる。それを見て稲川さんは驚いた。以前稲川さんが中央高速道路で見た少女とまったく同じ顔形なのである。ふいに、イヤな感じがした稲川さんだったが、余計な事は言うまい・・・と思い黙っていたそうだ。それからしばらくして、人形が出来あがってきた。「へ〜、良く出来てるじゃない?」稲川さんも変な事は考えないようにと思い、その人形について前野さんと色々な話をしていた。すると前野さんが、思い出したように不思議な顔をして稲川さんにこんな事を言って来たのだ。
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#19 [七氏]
「でもね〜、稲川ちゃん。この人形ちょっとおかしいんだよ。見てみな、ほら、右手と右足がねじれちゃうんだよ。」人形であるから操作しやすいように、関節の部分は丈夫な糸で連結してはいるが隙間は十分に空けてあるはずなのに、である。しかも放っておけばダラ〜ン、となって自然にまっすぐになるはずなのだが右手と右足だけがまったくいう事をきかないのだ。「前野さん、俺が直してあげようか?そういうの出来るからさ。」「う〜ん・・・。いや、やっぱり作った人がいいから、先生のところに持っていくよ。悪いからさ。」「それもそうだね。」こうして初稽古の日は終わった。自宅に帰った稲川さんは、人形の事を聞いてみようと思い前野さんに電話をかけた。すると前野さんも丁度良かった、といった口ぶりで稲川さんに話してきた。「おかしいんだよ、稲川ちゃん。人形を作ってくれた先生なんだけどさ。」「うん、どうしたの?」「行方不明なんだって。」「え?何それ?」「うん、こっちから先生のところにはどうしても連絡がつかないから、色々な人に聞いてみたんだよね。そしたら’あの人今は行方不明なんだって’って言うんだよ。」「なんだ・・・しょうがないね・・・。」
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#20 [七氏]
9 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:37人形の修理は出来なかったが、そうこうしているうちに今度は台本が出来てきた。文学座関係の作家で、純文学家の斉秀一さんという人物である。さっそく稲川さんや演出家の人達と共に原宿で打ち合わせが行なわれた。「先生、ここどうしましょうか?」「あぁ、ここは稲川ちゃんがアドリブでやってよ。その方が面白いからさ。」「アハハ。はい、分かりました。」打ち合わせは順調に進み、その場はお開きとなった。「僕は今日これから、帰ったら台本仕上げちゃうよ。」「あ、どうもすいません。よろしくお願い致します。」その日の夜。稲川さんの元に前野さんから電話があった。「やあ、前野さん。どうしたの?」受話器の向こうで表情は分からなかったが、前野さんの様子は只事ではなかった。「稲川ちゃん大変だよ・・・!」「・・どうしたの?」「先生の家、火事で全焼しちゃったんだよ・・・。」「えぇっ!?」「さっき僕が電話したときは燃えてる途中だったみたいなんだけど、今さっき連絡が取れたんだよ。・・・全焼なんだって。」「原因は何なの!?」
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#21 [七氏]
「分からない・・・でも先生が書いてた台本の原稿、書斎から出火したもんだから全部燃えちゃったって・・・。」
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