【一緒に】球体関節人形【つくろう】
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#16 [七氏]
「いや、この家に入ってきたのは俺一人だけだよ?」「ウソ。さっきあんたの後から部屋に入ってきて、あんたが出て行ったあとも部屋の中でグルグル歩き回ってたの、誰よ?」「・・・何だそれ?気味が悪い事言うなよ・・・。」寒気を覚えながらも、やがて夜が明けた。すると稲川さんの元にTV局から一本の電話が入った。東さんである。「おぉ、昨日はどうもね!」「・・・淳二さぁ、昨日は悪いと思って言わなかったんだけど・・・。」「何の事?」「昨日・・・誰かと一緒に車を降りたよな?」「・・・何それ?」「いや、隠さなくてもいいよ。分かってるから。」「・・・ちょっと待ってくれ、隠してるわけじゃないよ。・・・今から局に行くからそこで話すよ。」局に着いた稲川さんは、さっそく東さんに事情を聞いてみた。「・・・俺は実際に何か見えたわけじゃないんだけど、気配で感じてたんだよ。俺と淳二の他に、車の中に誰かが居たんだ。そいつが、淳二が車を降りたら一緒に降りたんだよ。」「・・・実はさ・・・。俺も昨日こういう事があって・・・。」稲川さんは昨夜目撃した少女の事について詳しく東さんに話した。7 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:35
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#17 [七氏]
東さんとの話も終わり、仕事も終えて帰宅すると稲川さんに電話がかかってきた。人形使いの前野さんという人物からであった。「うわ〜、久しぶりだね〜!元気?」二人は懐かしい話しで盛り上がったのだが、前野さんが稲川さんにこんな事を言ってきた。「稲川ちゃん、また今度舞台やるんだけど、そこに座長として出てくれないかな?」聞けば、新しく手に入れる人形と一緒にお芝居をやるという企画の事だった。前野さんという人はこの道ではかなり著名な職人で、評判の良い人形師の人だった。今回のそのお芝居も大勢の有能なスタッフ、魅力的な俳優や女優、声優を用意した大掛かりな物になるとの事。以前から演劇や戯曲等に興味があった稲川さんは、親しい前野さんからの頼み事ということもあって快く承諾した。「いいねぇ、やろうよ。」やがて段取りも順調に進み、出演者やスタッフ一同で顔合わせがあった。「どうもはじめまして。」「よろしくお願い致します。」自己紹介で一人一人が挨拶をして行く。一通り済んだ頃、前野さんが今回使用する人形についての説明を始めた。話しによるとその少女人形は、身長が125cm、かなり大きい。
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#18 [七氏]
普通の子供とさほど変わらない大きさで重量もある。よって操作は黒子さんに扮する男性が3人がかりで動かすのだ。黒子Aは頭と両腕、Bは胴体、Cは両足。といった具合の役割である。すると前野さんが、申し訳無さそうに室内の関係者に向かって口を開いた。「え〜、皆さん。大変申し訳無いんですが、肝心の人形はまだ出来ていないのです。ですが、今日皆さんにご説明するという事で、絵図面ですが持ってまいりました。」8 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:36稲川さんも含めた関係者達の視線が前野さんに集まる。「こちらです。」ピラッと図面を関係者達に見せるように両手で広げる。それを見て稲川さんは驚いた。以前稲川さんが中央高速道路で見た少女とまったく同じ顔形なのである。ふいに、イヤな感じがした稲川さんだったが、余計な事は言うまい・・・と思い黙っていたそうだ。それからしばらくして、人形が出来あがってきた。「へ〜、良く出来てるじゃない?」稲川さんも変な事は考えないようにと思い、その人形について前野さんと色々な話をしていた。すると前野さんが、思い出したように不思議な顔をして稲川さんにこんな事を言って来たのだ。
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#19 [七氏]
「でもね〜、稲川ちゃん。この人形ちょっとおかしいんだよ。見てみな、ほら、右手と右足がねじれちゃうんだよ。」人形であるから操作しやすいように、関節の部分は丈夫な糸で連結してはいるが隙間は十分に空けてあるはずなのに、である。しかも放っておけばダラ〜ン、となって自然にまっすぐになるはずなのだが右手と右足だけがまったくいう事をきかないのだ。「前野さん、俺が直してあげようか?そういうの出来るからさ。」「う〜ん・・・。いや、やっぱり作った人がいいから、先生のところに持っていくよ。悪いからさ。」「それもそうだね。」こうして初稽古の日は終わった。自宅に帰った稲川さんは、人形の事を聞いてみようと思い前野さんに電話をかけた。すると前野さんも丁度良かった、といった口ぶりで稲川さんに話してきた。「おかしいんだよ、稲川ちゃん。人形を作ってくれた先生なんだけどさ。」「うん、どうしたの?」「行方不明なんだって。」「え?何それ?」「うん、こっちから先生のところにはどうしても連絡がつかないから、色々な人に聞いてみたんだよね。そしたら’あの人今は行方不明なんだって’って言うんだよ。」「なんだ・・・しょうがないね・・・。」
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#20 [七氏]
9 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:37人形の修理は出来なかったが、そうこうしているうちに今度は台本が出来てきた。文学座関係の作家で、純文学家の斉秀一さんという人物である。さっそく稲川さんや演出家の人達と共に原宿で打ち合わせが行なわれた。「先生、ここどうしましょうか?」「あぁ、ここは稲川ちゃんがアドリブでやってよ。その方が面白いからさ。」「アハハ。はい、分かりました。」打ち合わせは順調に進み、その場はお開きとなった。「僕は今日これから、帰ったら台本仕上げちゃうよ。」「あ、どうもすいません。よろしくお願い致します。」その日の夜。稲川さんの元に前野さんから電話があった。「やあ、前野さん。どうしたの?」受話器の向こうで表情は分からなかったが、前野さんの様子は只事ではなかった。「稲川ちゃん大変だよ・・・!」「・・どうしたの?」「先生の家、火事で全焼しちゃったんだよ・・・。」「えぇっ!?」「さっき僕が電話したときは燃えてる途中だったみたいなんだけど、今さっき連絡が取れたんだよ。・・・全焼なんだって。」「原因は何なの!?」
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#21 [七氏]
「分からない・・・でも先生が書いてた台本の原稿、書斎から出火したもんだから全部燃えちゃったって・・・。」
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#22 [七氏]
しかし舞台の稽古は続けなくてはならない。仕方が無いので台本無しという緊急事態のまま稽古は本格的に始まった。稽古が行なわれていたある日の事。突然前野さんが稲川さんに「稲川ちゃん、ちょっとごめん。電話してきていい?」と尋ねてきた。稽古熱心で途中で席を外したりする事が普段はほとんど無いという前野さんだった為に稲川さんは不思議に思ったが、「あぁ、いいよ?行って来なよ?」「うん、ごめんね。」そして階段脇の公衆電話に向かった前野さん。しばらくすると、通路の方からタッタッタッタッタ!と、駆け足の音が聞こえてきた。前野さんだった。大柄な人のため足音も大きいのだ。「ごめん、稲川ちゃん。帰らなくちゃ・・・。」「どうしたの、前野さん。何があったの?」当時前野さんは家庭的にもめてる事があった。兄弟同士でみにくい争いがあったのだが、前野さんは普段そういった事には無関心な純粋な人であった。前野さんを含む兄弟には中野に住む年老いたお父さんが居た。しかし親をそんな争い事に巻き込んでは可愛そうだという事で、稲毛にある自分の家に引き取り、当時45歳になる従兄弟の男の人に面倒を見てもらっていたのである。
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#23 [七氏]
この時前野さんは自分の家に電話をかけたのだが、出たのは警察の人だったという。前野さんのお父さんの面倒を見てくれていた45歳の従兄弟の人。この人が急死したのである。原因は警察が調べているところなのだが不明らしい。とにかく帰ってきてくれ、と警察に言われたのである。10 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:37「イヤな事が続くねぇ・・・。」稲川さんは思わずつぶやいた。そして、色々とゴタゴタが続いたが舞台はいよいよ公演の日を迎える事が出来た。評判は上々で、稲川さんや他の出演者達がTVに出演する事もあった。そんなある日の公演。朝、稲川さんが現場に出向くとその場所にいる人達の様子がおかしい。気が付くと、美術さん、照明さん・・・ありとあらゆるスタッフや出演者達が怪我をしているのだ。包帯を巻いたり湿布を貼ったり・・・。「ガラスで切った。」「包丁をすべらせて刺してしまった。」理由は人によって色々あるのだが、怪我の場所は全員が同じ「右手と右足」。そして、その日の公演「昼の部」直前の事である。稲川さん以外の出演者が全員倒れてしまったのである。熱を出したり下痢を起こしたり・・・。とにかくお昼の公演は無理である。
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#24 [七氏]
お客さんには事情を説明して、お昼の部のチケットでも、その日最後の「夜の部」を見られるように、見ない人にはチケットを買い戻すという措置が取られた。そして稲川さんの発案で、大変ご利益があるというお寺に行って関係者一同御払いをしてもらう事にした。夜になる頃には具合の悪かった出演者達もいくらか回復し、夜の公演が無事に行なわれる事となった。お昼の部のチケットを持っている人は、ほとんどが帰らずに夜の公演を見ることにしたらしく、会場は立ち見客を含めて満員だった。そろそろ暖かくなってくる時期だしそれほどまでに人が大勢集まっているにもかかわらず、客たちは声を揃えた。「この会場寒いよね・・・。」11 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:38稲川さんは舞台の袖で待機していた。そこへ、稲川さんの家に居候していた人がやって来た。何とも奇妙な顔をしている。「稲川、おかしいよ・・・。」「何が?」「黒子さんの衣装を着た出演者は何人居る?」「えーと、そうだなあ。少女人形3人、少年人形3人、それと舞台監督さんだから全部で7人だろ?」「・・・8人居るんだ。」「・・・ウソつけ!」
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#25 [七氏]
舞台の背面にある壁には、ホリゾントという幕が天井から舞台の床まで垂れ下がっている。その幕に色々な光を当てたり影を投影させたり、特殊効果を与えて演出して行くのだが、そのホリゾントと壁の間のわずかな隙間に人が立っているというのだ。「・・・お前それ誰かに言ったか?」「いや、言ってないよ。」「言うんじゃないよ?・・・皆気にするからさ。」とは言ったものの稲川さん自身も気になって当たり前である。目は自然とその「誰かが立っている辺り」を見てしまう。すると、小さな明かりが2つ見えた。(あぁ、なんだ。舞台監督さんか。メガネに光が反射してるんだな?)と思って少し安心した。しかし、しばらく見ているとその小さな光2つが、ゆっくりと稲川さんの方を見るように角度を変えてきたのだ。(そんなはずって・・・ないんだよね・・・。)この時の様子を、稲川さんは思い出すとゾッとするという。それもそうである。もしメガネに光が反射しているのであれば、角度を変えた瞬間光を反射させている「光源」からメガネまで光が届かなくなり、消えるはずだからだ。しかしこの時点では稲川さんは気が付かなかった。舞台監督さんの声が聞こえて来たからだ。
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