【一緒に】球体関節人形【つくろう】
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#32 [七氏]
そういった混乱がありながらもTV局も今度は強行日程である。全員で到着するなり京都にいる人形の製作者にインタビューをして、日帰りで東京まで帰ってきたそうだ。ところが、東京に戻った彼らを恐ろしい出来事が待ち構えていた。自宅に戻ったこのTV番組のディレクターの奥さんの、首から下が真っ赤に腫れ上がっていた。原因は不明。そして新幹線の切符を手配した女性の息子さんが交通事故に遭って入院していた。更に脚本の構成家、彼の家で飼っている犬が、前足がガクガクになってしまってまったく立てない。同じく原因は不明。誰ともなしにそれらの出来事が起きた時刻を話してみると顔色が変わった。ほぼ同じ時刻だったのだ。稲川さんも含めたTVスタッフ達の間にも重苦しい雰囲気が立ち込めていた。しかし撮影は進んでしまっているし番組も放送の構成をされてしまっている以上続行しなくてはならない。稲川さんの家にもカメラは入って少し撮影して行ったそうだ。そしていよいよ、今度はTV局のスタジオ収録の日がやって来た。収録はそのTV局の最上階にあるリハーサル室で行われる事となった。15 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:42

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#33 [七氏]
スタジオ内のほぼ中央にあるイスに腰掛けて合図を待つ。目の前のカメラを操作している人や照明さんは、稲川さんとは旧知の間柄。和やかに準備は進む。やがて開始の合図が出て収録が始まった。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」「ごめ〜ん。カメラ止まっちゃった。」仕方なく別のカメラを持ってきて撮影は再開された。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」「・・・また止まっちゃった・・・。」故障が立て続けに起きてしまったのだ。今現在使えるカメラがここには無い、という状況になった為、倉庫においてある古いカメラを持ってくる事となった。用意されたカメラは、太いワイヤーの付いた巨大なカメラ。今から20〜30年前くらいに使われていたようなカメラである。しばらくのセッティングの後、撮影は再び始まった。しかし、この頃になると稲川さんを含めたその場にいる人間たちの間にいいじれぬ恐怖が漂っている。そうでなくても色々な事故や不吉な出来事が起きているお芝居の話であり、今はその話を扱うTV局にも降りかかってきているのだ。

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#34 [七氏]
しかし稲川さんは恐怖を我慢して気分を落ち着かせ、冷静に話し始めた。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!突然リハーサル室の扉を叩く音がスタジオ中に響き渡った。カメラは回っている。外の壁には「本番収録中」を知らせる赤いランプが点灯している。それにそもそもここはTV局である。そんな事をする人間はTV局内には一人もいない。しかし扉を叩く音は段々と大きくなって行く。ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!16 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:43稲川さんもその音のあまりの大きさに驚きながらも、カメラは回り、本番の撮影中であったため話を続けた。しかし、ふと稲川さんは視線を感じた。番組のディレクターである。彼は稲川さんの様子を見て、観客を見て、スタッフを見た。明らかに困惑しているのである。尚も扉を叩く音は鳴り止まない。ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!するとディレクターが真っ青な顔をしながら扉の方に向かって走って行き、扉を勢いよく開けた。バーン!!!誰も居ないのである。

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#35 [七氏]
現在稲川さんたちが居るここのスタジオは通称「Aリハーサル室」と呼ばれており、廊下を挟んだ向かい側にもう一つ「Bリハーサル室」がある。しかしこの時「Bリハーサル室」は使用されておらず、扉には鍵がかかっていた。さらに、この階は廊下が1本道で、奥の突き当たりにエレベーター、そしてエレベーターの横に階段が一つあるだけで他に隠れるような部屋は無いのである。それにも関わらず誰も居ないのだ。パタパタパタッ・・・!と走り去るような音が聞こえるのであればまだ、いい。そんな音すら何も無かったのだ。結果的にこの番組は、その後関係者達やTV局に事故があまりにも多発したために収録は中止。放送もされる事は無かった。しかししばらくすると、今度は東京にあるもっと大きなTV局から稲川さんの元に依頼があった。その少女人形にまつわる色々な怪奇な出来事を、紹介してくれというこの前のTV局とほとんど同じような内容であった。当時稲川さんはこのTV局で放送されていた芸能人の私生活追跡!みたいな番組で突撃レポーターといった役で出演していた。そして時期も丁度夏場であった為、この番組のディレクターが稲川さんに声をかけたのだ。

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#36 [七氏]
稲川さんもあまり深く考え無いようにしていたため、これを承諾した。17 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:45そして収録の日、TV局に着いた稲川さんが楽屋で休んでいると前野さんが例の人形を大事そうに抱えて到着した。その人形を見たとき、稲川さんはある事に気が付いた。人形の髪が伸びているのである。以前稲川さんがその人形を見た時には、おかっぱのセミロングであった髪が、この時点では完全に肩にかかっているのである。一瞬自分の気のせいかとも思った稲川さんだったが、どうにも釈然としなかったらしい。やがて前野さんは、楽屋にいるメイクさんからクシを借りて人形の髪をとかし始めた。その様子をなにか背筋に寒い物を感じながら見ていた稲川さんに、前野さんが話しかけてきた。前野さんは当時51歳であった。「他の人形は売ったっていいんだけど、この人形とだけは絶対に別れられないからね・・・。」尚も前野さんは笑顔で人形の髪をとかしている。その後リハーサルが行なわれ、45分後に本番が始まった。

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#37 [七氏]
この番組は生放送である。しかし本番が始まったとたん、停電になってしまった。他のスタジオや調整ルームに連絡してみると、不思議な事に他の場所は停電になっていなかった。やがて電力も回復し、あらためて本番が始まる事となった。人形には紙風船が付けられてイスに置かれ、床には玉ジャリが敷かれ、背後に黒い大きな幕が垂れ下がっている。そして番組司会の野村さんという人物が「次は火曜日に出演している稲川さんのお話による、人形にまつわる怪奇なお話です。」といった紹介をした後に人形が映り、CMに入る・・・という段取りであったのだが、人形が映った瞬間に背後に下げてあった幕を天井につないでいる何本ものヒモがスパッ!!!と音を立てて一斉に切れ、幕が床に落ちてきたのだ。1本1本、プツンプツンと切れるのではなく、同時に切れたのである。そして落ちてきた幕が人形に当たり、人形はあたかも人間が床に崩れ落ちるかのようにガクガクッと体中の間接を動かしながら床に落ちた。そして次の瞬間、TV局においては絶対に起きてはいけない、というよりは起きないはずの事が起きてしまった。天井に設置してある照明が落ちてきたのだ。

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#38 [七氏]
照明一基とはいえ、一つ一つは大変な重さである。それ故落ちてきたらこれほど危険な物は無いため、絶対に落ちないように鎖で何重にもつなぎ、固定してあるのだ。落とそうにもなかなか落ちない物なのである。それが落ちてきてしまった。さらに、照明が落ちてきた地点とは離れた場所にあったカメラが壊れてしまったのだ。そして、この時スタジオに居たスタッフが一人、後日亡くなったそうだ。原因は不明。この番組にアシスタントとして出演していた女性のタレントも、後日交通事故を起こし、雑誌で一斉に騒がれた為に、その後芸能界から完全に引退してしまった。18 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:46こういった事件が次から次へと起きる事を知った稲川さんは、前野さんに相談を持ちかけた。「もう、この人形を人目にさらすのはやめよう。舞台の事もその後の事件の事も、この人形にまつわる色々な不幸を番組で話すのも、いい加減にやめよう。」という事であった。それほどまでに色々な事が起きすぎていたのだ。

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#39 [七氏]
前野さんも稲川さんの話に納得し、稲川さんと前野さんは2人でこの人形を、久慈玲雲さんという有名な霊能者の方が居る事務所に持っていき、供養をしてもらう事にした。その後はお寺に納めてもらおうと思ったのだが、久慈玲雲さんは「イヤだ。その人形は見たくない。」と言って稲川さん達の申し出に応じないのである。久慈玲雲さんはこの人形を今まで一度も見たことが無いのだが、まるで全てを知っているかのように2人に説明してきた。「こういうのは怖い。人間には魂があるけれど、人形には当然魂は無い、だから色々な念が入りやすい。もし動物や子供の霊が入ってきたらたまらない、私にも手に負えない。」しかし2人も必死にお願いして、結局久慈玲雲さんもしぶしぶではあるが供養してくれる事となった。2日後。稲川さんと前野さんの2人は人形に宿っているかもしれない得体の知れない何かが成仏してくれたという事を話題にしながら久慈玲雲さんの事務所を訪れた。お礼を言いに来たのである。しかし、事務所は閉っていた。「あれ・・・?おかしいな。」19 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:47

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#40 [七氏]
仕方が無いので電話で連絡を取ってみてもつながらない。仕方が無いのでこの日はあきらめる事とした。やがて1週間後に、今度は稲川さんが1人で事務所を訪れたが、やはり閉っている。しかしいつの間にか事務所の看板は無くなっていた。それっきりであった。稲川さんは久慈玲雲さんとまったくの音信不通となり、完全に行方不明となってしまった。それから随分と経った頃の話である。稲川さんが、久慈玲雲さんが亡くなっていた事を知ったのは。稲川さんの知り合いで、雑誌記者の人物がおり、この人も久慈玲雲さんの事を探していたらしいのだ。この人が久慈玲雲さんの様子を克明に調べ、雑誌に掲載したのである。それによれば、稲川さんと前野さんの2人が人形を持って訪ねた日の夜、突如倒れたのだ。しかしその場に居た人にも原因が分からなかったために病院に運んで行ったのだという。久慈玲雲さんというのはかなり大柄な、体重も80kgを超える太った女性の方であったのだが、3日でガリガリにやせ細ってしまったそうだ。死亡時の体重、なんと30kg台。首を傾げ、不可解な笑みを浮かべた死に顔だったという。「・・・そんな事あるの・・・?」とても信じられない話に稲川さんも驚いたという。

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#41 [七氏]
その後稲川さんは前野さんに、この人形は写真を撮って、その写真だけ大事に持ち歩いているようにして、人形はお寺に預けようともう一度持ちかけた。前野さんも納得し、稲川さんは知り合いのカメラマンの方に相談してキレイな写真を撮影してもらう事にした。久慈玲雲さんの事務所から引き取った人形を前野さんが撮影スタジオに持って行き、撮影は行なわれた。稲川さんと前野さんの2人は建物にある休憩所で待っていたのだが、写真を現像し終わったカメラマンが、悲鳴を上げながら暗室から飛び出してきた。

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