｢はーい次の方｣



褐色肌の鬼がカルテのような物を見ながら叫んだ。


立派な椅子には、貧弱そうな男が座り、頭には｢閻魔｣と書いた冠を被っていた。

｢あなたは…天国ね。｣


そう、此処はあの世なのだ。この世の役目を果し、果たした先の行方を求めて、人、人、人。
閻魔の導く運命を聞くため、大きな扉の前には長く列が連なっていた。



続

｢こんにちは｣



一人の男が挨拶をした。

よんでいた資料から顔を上げて声の主を見る。


｢嗚呼…これはこれは｣


眼の前には青いジャージを着、烏帽子を被る男が微笑んでいた。


｢ここまで来るのに何時間も並んだ気がするな｣


疲れちゃったよ、と男はぼやき、また笑った。


｢初めまして。閻魔大王。噂はかねがね。｣

男はそういって手を差し伸べた。
その手を握り返すと、

｢初めまして聖徳太子。此処にまでも貴方の噂は届いているよ。｣

ひとしきり自己紹介が終わったところで、本題を持ち出す。


｢心残りは？｣


表情こそ笑っているものの、男は何かを心配している。

…天国へは不安を持ち込んではいけない。
そのシキタリは時に残酷だ。不安を取る為に、生前の愛しい物達の記憶を全て奪い去る。
地獄と同等に恐ろしい物だ。


男は口を開いた


｢私の…部下が心配かな｣

｢部下？あの赤い子？｣


｢そう、芋男。｣


｢何が心残りなの？｣



君達を見ていたよ。

羨ましく成る程にお互いを信頼しあっていた。

ねぇ、今、あの子何してると思う？

君の躰の頬を必死でつねったり、ゆすったりしているよ。

わかっているのに
わかっているのに




｢心残りって訳じゃないかな｣

ふいに男が口を開く

｢大切な人が泣いてくれたんだよ。それ以上の嬉しい事なんて無いよ。｣


男は口元に笑みを溢しながら言う。



｢でもね｣

一生分の涙を流し尽くした小野妹子は、静かに横たわる人の胸につっぷしていた。


｢…僕の事守る言ったじゃないですか…｣


顔をあげれば、尽きたはずの涙が頬を伝う


｢嘘…ついたんですか？｣



横たわる聖徳太子の顔を覗き込み、尋ねる。


｢ねぇ、答えて下さいよ。どうせ冗談でしょう？｣


口を開かず黙りこくる屍をみて、叫ぶ


｢嘘吐きっ…好きだって言ったじゃないですか！！守るって言ったじゃないですか！！何があっても一緒に居るって言ったのは太子じゃないですかっ……｣


ぼろぼろと零れる涙は正装した服に静かにしみ込んでいく。


｢……太子っ…｣

｢｢じゃ……5分だけね｣｣


そういってしまった。
大王失格だ。





今から三分前――――…


｢でもね、私の為に泣き続ける妹子は見たくないんだ。｣

そういうとポケットをごそごそと探して、


一本のクローバーを出した。


｢四つ葉は見つけられなかったんだけどね、妹子の家には沢山クローバーがあって……これを見たら泣かないかなって思ったんだ｣



泣きそうな表情なのに、なお笑おうと口元を引きつらせる。


｢だから、5分だけ会わせて欲しい。｣