　　‥― 星空の下の人形劇

いつものように彼女は

少し栗色がかった
絹のような髪をとかし
真っ白のワンピース一枚に
真っ赤なパンプスを履いて

外に出た｡

‥― 冬の冷たい空気が
星空を一層美しく見せていた

彼女は
町の少しはずれの
河原を好み

そこをひとり
時々星空を見上げながら
歩いていた｡

‥それが彼女の日課だった
唯一の楽しみ｡

彼女を見て人々は
ヒソヒソと眉間にしわを寄せ

―‥ 変な子ね｡

そう言っている

真冬の夜に
真っ白な腕と足を出し
マフラーやコートも身につけず‥

まるで真夏のようであった｡

しかし
彼女は気にも止めない｡
見向きもしない｡

ただひたすらに
星を眺めては
口角をあげて目尻をさげていた

白くなる吐息は
どこにも見当たらない‥

しばしば彼女は
土手にしゃがみこむのだ｡

そして
茶色がかった芝生を
そっと撫でる

小さな水音が響く｡
ふと､
寂しそうな顔をして

｢ヒトリ｣
消えそうに呟いていた

‥― 彼女は恋をしなかった

正しくは
できなかった｡

彼女は感情を持つことを
生まれながらに許されなかったい

"人形" なのだ

｢ヒトリ｣
と言う言葉は

どこかで見たテレビ番組の
悲劇のヒロインが口にしていた

彼女はそれを
真似してみたのだ｡
表情も声質もすべて‥

彼女は
"人間になりたい"
そう思っているのか ‥?

いや‥彼女に感情はない

何度か呟き

｢ナミダ､トマラナイ｣
彼女は悲劇のヒロインになった
しかし頬を伝うものは流せない｡

そんなことお構いなしに
涙を拭う仕草をする

そしてそれから満足そうに
すくっと立ち上がり
また歩き出すのだ｡

それが日課

少しだけ口角を上げて
独特な笑みを浮かべ
足早に向かう先は

‥― 漫画喫茶

彼女はここで
言葉を学ぶのだ｡

ページの隅々まで目を通し
ぶつぶつと暗記するように呟く
そこに書かれた効果音でさえも
ばか丁寧に呟きながら
表情の真似をしてみる｡