無題
最新 最初 🆕
#1 [無名] 09/11/13 22:52
初めてですが宜しくお願い致します。
稚拙な文になるかと存じては居りますが、読んで頂ければ幸いです。

#2 [無名]
プロローグ


帰宅途中であった。
労働基準法を嘲笑うかの如く課長が私を酷使するので疲労が限界に達しようとしていた。脚が痛い、腰がいたい、目の奥からくる疲労による肩こりが痛い。こんな状態で、歩道も碌に無いような狭い道路を歩いて帰るのは非常に危険だと常々思っているのだが、しかしながらだいたい、というか毎日、きちんと家に着いている。あるいは帰巣本能のようなもなのかも知れない、非常に便利だ。人間のカルマのような汚い部分を憎んでいる私も、そういう便利な本能には感謝したい。

⏰:09/11/13 23:08 📱:SO903iTV 🆔:rwO0fG7g


#3 [無名]
ふと空を見上げると満月が夜空にぶらさがっていた。綺麗だ。視力の悪い私には尚更美しく見える。皮肉だが、視力が悪くてよかった。
月明かりに照らされた電柱の高い所では、私の親指程のクモが巣をはっていた。彼の背中は黄色と黒のマダラで、顔に見えなくもない。怒っている、もしくは悲しんでいる。そんな顔をして新居を建てなくてもいいではないか、私は思わず微笑んでしまった。
巣は直径で一メートルになろうかという大きなもので、月光が白く映し出していた。綺麗なシルクだった。シルクのベッドは、獲物に対するせめてもの配慮なのかも知れない。私も捕食されるならシルクがいい。

⏰:09/11/13 23:18 📱:SO903iTV 🆔:rwO0fG7g


#4 [無名]
次の日も、そのクモの巣の下を通った。
モンキチョウがかかっていた。まだ生きているのだろう、微妙に腹が膨らんだり縮んだりしているように見える。しかし、死を覚悟したのか暴れる様子は見せなかった。暴れ疲れたのかもしれない。
しかしながら、肝心なはずの巣の主人は不在であった。近くのコンビニに買い物でも行っているのか、回りを見回してもクモはいなかった。なんとタイミングの悪いヤツだ、そういう意味では私に似ている。

⏰:09/11/13 23:26 📱:SO903iTV 🆔:rwO0fG7g


#5 [無名]
日曜であった。息子とキャッチボールをする約束があったので近くの市民公園に向かっていたのだが、一昨日のクモが何故か気になったので、遠回りをしてクモの巣の下を通ってみることにした。
巣に辿りついた。私は愕然とせずにはいられなかった。依然としてチョウがかかったままだったのだ。
「何でだ?」
思わず口をついて出る。
「どうしたのお父さん?」
息子が聞いた。
「ああ、あそこの巣にチョウがかかっているだろ、あのチョウはずっと食べられないままなんだよ。」

⏰:09/11/13 23:34 📱:SO903iTV 🆔:rwO0fG7g


#6 [無名]
息子は先ほどから、何かを考えこむようにしてずっと黙っていた。普段は快活な子供なのだ。珍しいことだった。
「どうしたんだ?」
息子ははっとしてこちらを見た。
「さっきのクモいなくなっちゃたんでしょ?」
「そうだよ。」
「友達の飼ってたクモも一昨日くらいからいなくなっちゃったんだって、しかも二匹ともだよ。」
私は驚いた。おそらく偶然にすぎないのだろう、偶然にすぎないはずだ。しかし、胸騒ぎはおさまらなかった。

⏰:09/11/13 23:59 📱:SO903iTV 🆔:rwO0fG7g


#7 [無名]
キャッチボールを終えたその足でペットショップに行くことにした。クモの失踪は偶然だ、偶然だが調べてみたかった。
店に着くと店員が恭しく近づいてきた。
「いらっしゃいませ、どちらをお探しでしょうか?」
「クモを見に来たのですが。」
「申し訳ないのですが、クモは現在お見せ出来ない状況でして…」
心臓が早鐘を打っている。偶然なのだ、ありえない、嫌だ、あってはならない。
「何故…です?」
私は恐る恐る聞いてみた。
「実は、一昨日の夜の内に一匹残らずいなくなってしまいまして…警察に調べて頂いてるのですが。」

⏰:09/11/14 00:17 📱:SO903iTV 🆔:3E7SRBMo


#8 [無名]
最早、偶然と考えるのは逃げでしかなかった。必然なのだ。ある目的の過程でクモがいなくなる必要があるのだろう。しかし、分からない、私の周りだけなのかも知れない。いずれにせよ、その目的はなんなのだろう。
不思議だった。恐怖というよりは、ただただ理由が知りたかった。何故、というクウォーテーションだけが飛び交っている。しかし、明日からまた仕事が始まるのだ、とりあえず寝ることにした。

⏰:09/11/14 00:33 📱:SO903iTV 🆔:3E7SRBMo


#9 [無名]
クモの失踪から五日目の新聞にこんな記事があった。

クモ、姿を消す
13日(金)未明から日本全国のクモが姿を消していることが分かった。
14日(土)に全国のペットショップから警察にクモ失踪の通報が寄せられた。その内容は「クモが一匹残らず消えた」、「朝来たらゲージが空だった」というものが大半で、警察も手をこまねいている。…

⏰:09/11/14 00:47 📱:SO903iTV 🆔:3E7SRBMo


#10 [無名]
あの日以来、すでに半月がたった。街を見回してもクモは、あの八本足の虫はいない。だんだんとだが、クモという生物は私が脳内に作りだした虚構で実際には存在しないものなのだ、とも思えてきた。そうなのかも知れない。クモなんていないのだ、その方が自然である。
しかし、電柱には今もクモの巣がかかり、シルクのベッドの上にはモンキチョウが生々しくしく横たわっていた。クモは存在した。確かにこの地球にいたのだ。悔しいが、認めるしかないようだ。
新月の暗闇の中で、クモの巣はゆらゆらと妖しく揺れていた。不在の主人を顧みることなく。

⏰:09/11/14 00:59 📱:SO903iTV 🆔:3E7SRBMo


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194