太陽と夏の空

『逃げるな。お前は一人じゃない。』

よく聞けばヒロキの声だ…。

『オレがついてる。大丈夫だから。達矢が投げたいように投げてみろ。』

次の瞬間、ヒロキの笑顔が浮かんだ。

達矢「ヒロキ…。」

俺はついに、振りかぶってボールを投げた。

俺の右肩についた黒いリボンがゆらゆらと揺れた。

…スパーン！！

思いを込めて投げつけたストレート。

画面に表示された速度は

“１４８”

「ストライク！！バッターアウト！！」

わあああああああああああああああ…

ものすごい歓声。

…勝った。

選手たちは飛び跳ねながら喜んでいる。

俺達は勝ったんだ…。

俺達は…

“日本一”だ。

わあああああああああああああああ…

皆涙を流して喜んでいる。

「やったな達矢！！」

俺も泣きながらみんなと抱き合った。

実況「ついに…ついに日本一が決まりました！！日本一の座を手にしたのは“愛川高校”。10年間の思いはついに実を結びました！！」

歓声が止まない中

俺はフラッシュを浴びていた。

「それでは優勝しました愛川高校のキャンプテン、そして最後に１４８キロを記録したエース、坂本達矢くんに、話を聞きたいと思います」

俺は台の上へ上がる。

まぶしいくらいのフラッシュが俺を照らす。

「坂本くん、今の気持ちを誰に伝えたいですか？」

俺にマイクがあてられる。

…誰に伝えたいかって？

決まってんだろ…。

達矢「僕は、本当は愛川高校のキャプテンでもエースでもありません。

本当のキャプテン…。彼は、甲子園に出発する４日前に倒れ、帰らぬ人となりました。

甲子園に立つことを夢見ながら、立つことが出来なかった…彼、宮本ヒロキに思いを伝えたいです。…」

球場内はシーンと静まり、観客全員が俺の声に耳をかたむけている。

アナウンサーは意外な発言に驚いたのか、言葉につまっている。

俺は話を続けた。

達矢「…ヒロキ…お前はこの空から俺達が見えてるのか？ヒロキ、俺達は勝ったぞ…優勝したぞ！！

俺とお前は、ずっと一緒に野球をやってきた。ツラいことも一緒に乗り越えて、愛川高校で甲子園に行くことを夢見て、この日まで頑張ってきたんだ。」

達矢「お前が死んだとき…俺は何もかもやる気が出なかった。野球でさえもやりたいと思わなかったんだ。

でもな…ヒロキ。お前が残してくれた愛川高校の野球は…今日本一になったんだ。

本当はここにお前がいてほしかった。

ヒロキ…！野球は最高だ！！」

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…

球場が揺れるほどの歓声。

愛川の選手たちは涙を流している。

達矢「最後に、今まで応援・支えになってくれた皆さんに気持ちを伝えたいです！本当にありがとうございました！！」

わあああああああああああああああ…

「坂本くん、ありがとうございました。」

俺は頭をさげて台を降りた。