Traumerei‐トロイメライ‐
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#2 [moeco◆eedZl7e0Rw]
【目醒め】

⏰:10/03/31 18:52 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#3 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「谷川さーん、もうお昼休憩入りましたよー。弁当食べましょー」

「あっ……、ハイ! すぐ行きますからー!」



とある国立病院の看護師、谷川は昼休みになると真っ先に黒木の病室へ向かった。


やわらかな陽射しのさし込む白い廊下を、両手に持つ小さな包みを潰さないように揺らさないように大切にしながら歩いた。



ふと横を見るとちょうど壁にかかった大きな鏡に、少女のように顔を赤らめる自分がいて……谷川はさらに顔を赤く染めた。

⏰:10/03/31 18:53 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#4 [moeco◆eedZl7e0Rw]
病室への道のりは長い。


黒木の病室はナースステーションからもっとも遠い病棟のすみにあった。



「ついちゃった……」

通いなれた道のりのはて、目的の病室前へ来ると谷川は立ち止まり、長く深い深呼吸をした。


無駄なことと知りつつドアをノックする。

⏰:10/03/31 18:55 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#5 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「し、失礼します。谷川です」

もちろん返事はない。


あたりまえだった。



病室に入るとまずカーテンと窓を開けて新鮮な空気を入れた。

窓から入る生ぬるい風が頬を撫でていき、気持ちがいい。


「とってもいい天気ですよ、黒木さん……」

谷川は黒木をみた。

⏰:10/03/31 18:58 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#6 [moeco◆eedZl7e0Rw]
黒木は眠っていた。

谷川は悲しげに眉根にしわを寄せ、目を細めてふせた。



「黒木さんわたし、イイモノ持ってきたんですよー。何だと思います?」

谷川は持ってきた箱から中身を取り出した。


それはケーキだった。

⏰:10/03/31 19:02 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#7 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「ハッピーバースデーです、黒木さん。お誕生日おめでとうございますっ! ぱ、ぱんぱかぱーん、ぱっぱーん! イエーイ!」

静かな病室に谷川の陽気な声が響いた。



「あー……。ちょっと恥ずかしいかも……」

谷川は手に持ったケーキを見て、ため息をついた。


「美味しいって有名な店の、ケーキなんだけどなー。起きないならわたし、食べちゃいますから」

⏰:10/03/31 19:03 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#8 [moeco◆eedZl7e0Rw]
返事はない。


谷川は黒木の眠るベッドの脇に椅子を持ってくると、座って黒木のあお白く安らかな寝顔を眺めた。



どんな夢を見ているんだろう。

幸せな夢ですか?

そう願ってます。


けれど、そろそろ起きてわたしに笑いかけてください……。

⏰:10/03/31 20:07 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#9 [moeco◆eedZl7e0Rw]
閉じられたまぶたが開くことを、谷川は黒木と出会ってからの一年間、願い続けてきた。

それなのに……。


谷川は悔しさに、膝の上にのせたこぶしをかたく握った。



「黒木、さん……」


谷川は二年前、院長から黒木の担当を任命されたときの言葉を思い出していた。

⏰:10/03/31 20:12 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#10 [moeco◆eedZl7e0Rw]
>>9

×谷川は二年前、……
谷川は一年前、……

の間違いでした><
すみません

⏰:10/03/31 20:17 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#11 [moeco◆eedZl7e0Rw]
かれこれ黒木は六年ものあいだ昏睡状態からさめていない。

回復は絶望的。


しかし生かし続ける。



この一年、わたしは黒木さんの治療費を払っている人が見舞いにきたのを見たことがない。


金だけ払ってあとはほったらかしなんて……ひどい。


あんまりだ。

⏰:10/03/31 20:23 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


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