Traumerei‐トロイメライ‐
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#7 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「ハッピーバースデーです、黒木さん。お誕生日おめでとうございますっ! ぱ、ぱんぱかぱーん、ぱっぱーん! イエーイ!」

静かな病室に谷川の陽気な声が響いた。



「あー……。ちょっと恥ずかしいかも……」

谷川は手に持ったケーキを見て、ため息をついた。


「美味しいって有名な店の、ケーキなんだけどなー。起きないならわたし、食べちゃいますから」

⏰:10/03/31 19:03 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#8 [moeco◆eedZl7e0Rw]
返事はない。


谷川は黒木の眠るベッドの脇に椅子を持ってくると、座って黒木のあお白く安らかな寝顔を眺めた。



どんな夢を見ているんだろう。

幸せな夢ですか?

そう願ってます。


けれど、そろそろ起きてわたしに笑いかけてください……。

⏰:10/03/31 20:07 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#9 [moeco◆eedZl7e0Rw]
閉じられたまぶたが開くことを、谷川は黒木と出会ってからの一年間、願い続けてきた。

それなのに……。


谷川は悔しさに、膝の上にのせたこぶしをかたく握った。



「黒木、さん……」


谷川は二年前、院長から黒木の担当を任命されたときの言葉を思い出していた。

⏰:10/03/31 20:12 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#10 [moeco◆eedZl7e0Rw]
>>9

×谷川は二年前、……
谷川は一年前、……

の間違いでした><
すみません

⏰:10/03/31 20:17 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#11 [moeco◆eedZl7e0Rw]
かれこれ黒木は六年ものあいだ昏睡状態からさめていない。

回復は絶望的。


しかし生かし続ける。



この一年、わたしは黒木さんの治療費を払っている人が見舞いにきたのを見たことがない。


金だけ払ってあとはほったらかしなんて……ひどい。


あんまりだ。

⏰:10/03/31 20:23 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#12 [moeco◆eedZl7e0Rw]
そんな残酷な人よりも親身にわたしは黒木さんのことを想ってる。


でも……黒木さんはわたしを知らない。

さびしいな……。




谷川は黒木の頬に手をそえた。
温かい。


黒木の無造作に伸びた黒く艶のある髪が、谷川の手に当たった。


髪を軽くすくと指のあいだを冷たい髪が擦り抜けて、谷川の胸を締めつけるような感情が込み上げてきた。

⏰:10/03/31 20:26 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#13 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「髪……伸びましたね。また近いうちに切らなくちゃ」



その時、谷川の言葉にこたえるように黒木の唇がかすかに動いた。


谷川はきつく唇を噛んだ。

どうしようもなく高鳴る胸をおさえることができなかった。



「黒木さん……ごめんなさい……。……好きなんです」

⏰:10/03/31 21:48 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#14 [moeco◆eedZl7e0Rw]
黒木のどこか冷たさを感じる整った顔が近づいていく。


黒木の小さな吐息を頬に受けて、谷川は身震いをした。

谷川はそっと目を閉じた。




二人の唇がもう少しで重なる直前に、病室のドアがばぁん、と勢いよくスライドされて開いた。


開けたのは青いパジャマ姿の少年だった。

⏰:10/03/31 21:50 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#15 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「タニタニみーつけたー!」

「ふぎゃぁぁっ」


谷川は素早く黒木から離れると、勢いに乗って椅子から転がり落ちて派手にしりもちをついた。


少年はそれをみて笑った。

⏰:10/03/31 21:53 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#16 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「やっぱりクロキさんのとこにいたねータニタニ。他の看護師さんが探してたよ」



谷川はお尻をはたきながら照れくさそうにため息をついた。


「ユータ君さー、そのタニタニっていうあだ名いい加減止めてよねー。もっとプリティーでキュートなのにして」


「えー。タニタニはタニタニだよ。タニタニタニタニタニタニ」


「わーっ止めてよ! そう感情込めずに連呼するとなんだか呪われてる気分になるからぁ!」

⏰:10/03/31 23:22 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


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