Traumerei‐トロイメライ‐
最新 最初 🆕
#1 [moeco◆eedZl7e0Rw]
世界はすべてお芝居だ。
男と女、とりどりに、すべて役者にすぎぬのだ。
[ウィリアム・シェイクスピア、シェークスピア]

>>1-200
>>201-400
>>401-600
>>601-800
>>801-1000
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4736/

⏰:10/03/31 18:49 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#2 [moeco◆eedZl7e0Rw]
【目醒め】

⏰:10/03/31 18:52 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#3 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「谷川さーん、もうお昼休憩入りましたよー。弁当食べましょー」

「あっ……、ハイ! すぐ行きますからー!」



とある国立病院の看護師、谷川は昼休みになると真っ先に黒木の病室へ向かった。


やわらかな陽射しのさし込む白い廊下を、両手に持つ小さな包みを潰さないように揺らさないように大切にしながら歩いた。



ふと横を見るとちょうど壁にかかった大きな鏡に、少女のように顔を赤らめる自分がいて……谷川はさらに顔を赤く染めた。

⏰:10/03/31 18:53 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#4 [moeco◆eedZl7e0Rw]
病室への道のりは長い。


黒木の病室はナースステーションからもっとも遠い病棟のすみにあった。



「ついちゃった……」

通いなれた道のりのはて、目的の病室前へ来ると谷川は立ち止まり、長く深い深呼吸をした。


無駄なことと知りつつドアをノックする。

⏰:10/03/31 18:55 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#5 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「し、失礼します。谷川です」

もちろん返事はない。


あたりまえだった。



病室に入るとまずカーテンと窓を開けて新鮮な空気を入れた。

窓から入る生ぬるい風が頬を撫でていき、気持ちがいい。


「とってもいい天気ですよ、黒木さん……」

谷川は黒木をみた。

⏰:10/03/31 18:58 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#6 [moeco◆eedZl7e0Rw]
黒木は眠っていた。

谷川は悲しげに眉根にしわを寄せ、目を細めてふせた。



「黒木さんわたし、イイモノ持ってきたんですよー。何だと思います?」

谷川は持ってきた箱から中身を取り出した。


それはケーキだった。

⏰:10/03/31 19:02 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#7 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「ハッピーバースデーです、黒木さん。お誕生日おめでとうございますっ! ぱ、ぱんぱかぱーん、ぱっぱーん! イエーイ!」

静かな病室に谷川の陽気な声が響いた。



「あー……。ちょっと恥ずかしいかも……」

谷川は手に持ったケーキを見て、ため息をついた。


「美味しいって有名な店の、ケーキなんだけどなー。起きないならわたし、食べちゃいますから」

⏰:10/03/31 19:03 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#8 [moeco◆eedZl7e0Rw]
返事はない。


谷川は黒木の眠るベッドの脇に椅子を持ってくると、座って黒木のあお白く安らかな寝顔を眺めた。



どんな夢を見ているんだろう。

幸せな夢ですか?

そう願ってます。


けれど、そろそろ起きてわたしに笑いかけてください……。

⏰:10/03/31 20:07 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#9 [moeco◆eedZl7e0Rw]
閉じられたまぶたが開くことを、谷川は黒木と出会ってからの一年間、願い続けてきた。

それなのに……。


谷川は悔しさに、膝の上にのせたこぶしをかたく握った。



「黒木、さん……」


谷川は二年前、院長から黒木の担当を任命されたときの言葉を思い出していた。

⏰:10/03/31 20:12 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#10 [moeco◆eedZl7e0Rw]
>>9

×谷川は二年前、……
谷川は一年前、……

の間違いでした><
すみません

⏰:10/03/31 20:17 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#11 [moeco◆eedZl7e0Rw]
かれこれ黒木は六年ものあいだ昏睡状態からさめていない。

回復は絶望的。


しかし生かし続ける。



この一年、わたしは黒木さんの治療費を払っている人が見舞いにきたのを見たことがない。


金だけ払ってあとはほったらかしなんて……ひどい。


あんまりだ。

⏰:10/03/31 20:23 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#12 [moeco◆eedZl7e0Rw]
そんな残酷な人よりも親身にわたしは黒木さんのことを想ってる。


でも……黒木さんはわたしを知らない。

さびしいな……。




谷川は黒木の頬に手をそえた。
温かい。


黒木の無造作に伸びた黒く艶のある髪が、谷川の手に当たった。


髪を軽くすくと指のあいだを冷たい髪が擦り抜けて、谷川の胸を締めつけるような感情が込み上げてきた。

⏰:10/03/31 20:26 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#13 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「髪……伸びましたね。また近いうちに切らなくちゃ」



その時、谷川の言葉にこたえるように黒木の唇がかすかに動いた。


谷川はきつく唇を噛んだ。

どうしようもなく高鳴る胸をおさえることができなかった。



「黒木さん……ごめんなさい……。……好きなんです」

⏰:10/03/31 21:48 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#14 [moeco◆eedZl7e0Rw]
黒木のどこか冷たさを感じる整った顔が近づいていく。


黒木の小さな吐息を頬に受けて、谷川は身震いをした。

谷川はそっと目を閉じた。




二人の唇がもう少しで重なる直前に、病室のドアがばぁん、と勢いよくスライドされて開いた。


開けたのは青いパジャマ姿の少年だった。

⏰:10/03/31 21:50 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#15 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「タニタニみーつけたー!」

「ふぎゃぁぁっ」


谷川は素早く黒木から離れると、勢いに乗って椅子から転がり落ちて派手にしりもちをついた。


少年はそれをみて笑った。

⏰:10/03/31 21:53 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#16 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「やっぱりクロキさんのとこにいたねータニタニ。他の看護師さんが探してたよ」



谷川はお尻をはたきながら照れくさそうにため息をついた。


「ユータ君さー、そのタニタニっていうあだ名いい加減止めてよねー。もっとプリティーでキュートなのにして」


「えー。タニタニはタニタニだよ。タニタニタニタニタニタニ」


「わーっ止めてよ! そう感情込めずに連呼するとなんだか呪われてる気分になるからぁ!」

⏰:10/03/31 23:22 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#17 [moeco◆eedZl7e0Rw]
悠太は黒木に近づき、ベッドに乗って顔を覗き込んだ。


「クロキさん起きないかなー」

「ちょ……ユータ君!」


あわてて谷川は悠太を抱えてベッドから下ろした。


とたんに悠太は不機嫌そうに口をとがらせて谷川を睨んだ。


「ベッドに乗っちゃダメでしょーユータ君。失礼よ」


悠太はきょとんとしていたが、しばらくするとニヤニヤと笑いながら谷川を見上げた。

⏰:10/03/31 23:23 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#18 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「ぼくは勝手にチューしようとするほーが失礼だと思うなー」


谷川は目にも止まらぬ速さで悠太の両肩を鷹のように力強くがっしり掴んだ。



や、ヤバイ。

まさかバレたなんてぇ……!


スーッと背中に嫌な汗が伝った。

「やっぱり見てたのね……」

「誰にも言わないからそのかわり……」

⏰:10/03/31 23:25 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#19 [moeco◆eedZl7e0Rw]
谷川はいったいどんな恐ろしい交換条件がでるかと固唾をのんだ。

悠太は指を二本、谷川に向けて立ててみせた。


「アイス二本買ってね!」




谷川は無表情のまま病室の隅に行くと、……壁に向かって渾身のガッツポーズをした。

⏰:10/03/31 23:26 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#20 [moeco◆eedZl7e0Rw]
よし、よし、よぉぉし!


しょせんはお子さま!

かわいいもんよー。
あードキドキしたー。


もしオッパイ揉ませてとか体重教えてとか言いだしたらどーしようかと思った……!



谷川は内心のほくそ笑みを隠しながら悠太と指切りをした。

⏰:10/03/31 23:27 📱:N03A 🆔:MBZotWpg


#21 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「あ……いけない、昼休み終わっちゃう……。ユータ君、一緒に病室戻ろうか」

「うんっ」


二人は黒木の病室をあとにして廊下を歩き出したが、ふと谷川が足を止めた。


「どーしたの?」

⏰:10/04/01 12:08 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#22 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「黒木さんとこの窓閉め忘れてたぁ……。雨が降ったら大変だから、……ごめんなさい、ちょっと閉めてくるね」

「タニタニってほんっとドジだなー。フチョーさんに叱られてばっかりだもんねー」


悪態をつきながらも悠太は谷川のあとをついていく。


谷川は小さく笑った。


「んもー、止めてよね」

⏰:10/04/01 14:22 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#23 [ゆっちゃん]
すごくおもしろいです
頑張って下さい

⏰:10/04/01 15:46 📱:D705i 🆔:mmq1ec2g


#24 [moeco◆eedZl7e0Rw]
ドアをスライドさせて中に入ろうとしたとたん、二人の顔からぴたりと表情が消えた。


それは――

信じられない光景だった。





黒木が立っていたのだ。


ベッドの近くにあった点滴バーをつかみもたれかかって、ずるずるとこちらへ歩んできていた。

息が激しく、いつ倒れてもおかしくない足取りで。

⏰:10/04/01 17:15 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#25 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「う……動いてる……クロキさんが……わぁぁ」


悠太がへなへなと座り込んだ。



あまりの驚きに我を忘れていた谷川は、あわてて黒木にかけよった。


谷川に支えられると、黒木は力尽きしなだれてきた。



「黒木さん!」


こんな奇跡が……。


ああ、神様!

⏰:10/04/01 17:16 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#26 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「……ユータ君っ、急いでナースステーションに行って看護師さん連れてきてっ! お願い!」


「わ、わかった!」


悠太は弾けるようにかけだした。


黒木の息がますます荒くなる。

胸を押さえていた。



「胸が痛いですか?」


谷川が黒木を寝かせようとしたときだった。

⏰:10/04/01 17:18 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#27 [moeco◆eedZl7e0Rw]
突然、黒木は谷川の右肩を凄まじい力で掴んだ。


谷川のきゃしゃな肩がギリギリとひねりあげられ軋んだ。


「い……痛い! は、放してくださ……」

「純は……どこだ……」


うなるように低い声で黒木が呟いた。


谷川が黒木の手から逃げようと暴れるほど、黒木はさらに強く肩を握りしめた。

⏰:10/04/01 18:11 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#28 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「じゅ、ジュン? 落ち着いてください! 大丈夫ですから……大丈夫ですからっ……い……痛い!」

「純はどこなんだ……!」



あわただしくバタバタと、血相をかえた数人の看護師たちが廊下をかけてきた。


その誰もが黒木の姿を見るなり驚きの声や表情をあらわにした。


まさか、こんなことが……!

⏰:10/04/01 19:13 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#29 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「黒木さん、落ち着いてください! じっとしていてください」


看護師長が黒木に近づき、谷川の肩を今にも潰す勢いで掴む黒木の手をどかそうとした。


しかし剥がれない。


黒木は苦しげに歯ぎしりをしながら、鋭いギラギラとした目で看護師長をみていた。


まるで捕えた獲物を逃がすまいとする飢えた獣のようだった。



看護師長はそのあまりにも本能的な恐ろしさに思わず身震いをした。

⏰:10/04/01 19:52 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#30 [moeco◆eedZl7e0Rw]
看護師の一人が呼び出した院長が黒木の病室に飛び込むなり、彼もまた絶句した。


はっきりとした意識をもって、黒木が動いている。



これは日本の――いや、もはや世界を揺るがす回復劇だった。

遷延性意識障害、いわゆる植物状態に陥ると脳幹以外の脳機能は動かなくなるか死滅する。


一概には言えないが、三ヶ月を目安に回復率は下降する。


回復例はいくらかあるが黒木のように昏睡状態から六年経ち、なおかつ目覚めしなにこれだけ動けるとは……。

黒木に奇跡の神が加担したとしか考えられない。

⏰:10/04/01 23:19 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#31 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「彼をICU(集中治療室)へ運びなさい。私もすぐ行く」

院長は言った。


担架に乗せられて病室から運びだされる黒木は、まだ暴れていた。

同じ名前を繰り返しながら。


黒木は暴れる彼をなだめようとした看護師の一人の腕に噛みつき、あらんかぎり吠えた。





「純はどこだぁぁっ! そこにいるはずだろぉぉ……出てこい、出てこないかっ……純んん!」


黒木の声はむなしく響いた。

⏰:10/04/01 23:27 📱:N03A 🆔:XtlM9Yjo


#32 [moeco◆eedZl7e0Rw]
第一部
第一章【出会い】

⏰:10/04/02 12:46 📱:N03A 🆔:vPG502HI


#33 [moeco◆eedZl7e0Rw]
真夏日。


とにかく暑い。


騒がしいセミの鳴き声が、いよいよ夏のうだってしまいそうな暑さをかきたてる。


太陽が駐車場のアスファルトを照りつけて蜃気楼が揺れていた。

⏰:10/04/04 19:34 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#34 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「おい、宇佐美」


ゴミ箱の分別をしていると店長がずかずかと近くへやってきた。


顔を見るかぎり僕に良くないことだと今までの経験による直感で知って、気分がますます下がった。



店長は汚いものを見るような目で僕をにらみつける。


僕も黙ってにらみつけた。


「お前昨日ゴミ箱の口、ちゃんと縛ってなかったろ」

⏰:10/04/04 19:35 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#35 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「縛りましたよ」


「ウソつけ。昨日オレが倉庫にゴミ袋移動しようとしたとき持ち上げただけで中身が出ちまったんだよ。お前の縛りが緩かったからじゃねーかコラ」


店長は握りこぶしを僕の胸にぐいっと押しあてた。



またいつものいちゃもんづけが始まった。

毎日やっててよく飽きないよな。


僕はため息をついた。

⏰:10/04/04 20:37 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#36 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「カラスが空に群がってましたから、あいつらがつついて破ったんでしょ。なんなら」


僕は店長の毛深い握りこぶしをつかみ、強く押し返した。



「僕が確かめてきますよ。倉庫」


「……ああ? ……めんどくさいからよけいなことすんじゃねぇ。それよりお前、なに襟のボタンあけてんだ。バイトのくせして……最近のガキ(高校生)は制服もきちんと切れねーのか」

⏰:10/04/04 20:39 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#37 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「クールビズです」


「……ナメてんのか? 目上に向かって生意気なんだよ気に入らねー。クビにされてーかこの野郎」


店長が握りこぶしを振り上げたとき、花さんがストップーと叫びながら走ってきて段ボールで店長の頭をたたいた。



うお。


いつもながら……

間近でみると圧巻だ。

[jpg/27KB]
⏰:10/04/04 20:41 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#38 [moeco◆eedZl7e0Rw]
たたいたときの尋常ならない音からして中身が相当重いらしく、すごく痛そうだった。


目を丸くする店長をよそに、花さんはさわやかな笑顔で「一件落着だね」と言った。



いやにはつらつとしてるな。

いつもだけど。


高い位置で束ねてある髪についた、ひまわりの髪飾りがゆらゆら風になびいていた。


なにも終わってないと思うけどそこはあえて突っ込まない。

⏰:10/04/04 20:44 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#39 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「いつもケンカばっかりしてー、止めに入るあたしの気持ちも察してよね。店長もなんで毎日宇佐美クンにつっかかるんですかー?」


「あのな、オレじゃねぇよ。」


「かわいそうじゃないですか。マジメな若いコいじめるなんてカッコ悪いですよー」


花さんと店長がもめ始めた。

これも日常茶飯事だ。

⏰:10/04/04 21:43 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#40 [moeco◆eedZl7e0Rw]
二人の騒がしい声を背にして、僕は空いたレジへ向かった。


店内は冷房がきいていて涼しい。


くそ暑い外とはまるで別世界だった。




一人っきりの涼しい店内。

ようやくリラックスできた。


「はあ……しんどー」

⏰:10/04/04 21:44 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#41 [moeco◆eedZl7e0Rw]
このコンビニで働き始めて二年たつけど、僕はいまだにあのおっさん(店長)に慣れない。


向こうも僕のことをしゃくにさわる奴だと思ってるみたいだけど、それはお互い様だった。


僕も嫌いだった。



ただ単に性格が悪いから嫌いってのもあるけど、それとはまたすこし違うかもしれない。

⏰:10/04/04 21:52 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#42 [moeco◆eedZl7e0Rw]
よく考えてみると……あいつに似てるからかもしれないな。



花さんはいい人なんだけど。


僕を店長からかばってくれるし。

明るいし、いつも笑顔だし。


おしゃべりで行動的だし……まるで僕とは正反対な人間だった。


ちょっとうらやましい。
僕なんて妹にイメージが糸引いたなめくじなんて言われたからな。立ち直れそうにない。

⏰:10/04/04 21:53 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#43 [moeco◆eedZl7e0Rw]
店長と花さん、二人がしゃべりながら入ってきた。




しかし、よく見ると店長の後ろから女の子がぴったりくっついてスルッと入ってきた。



どきっとした。

その子を見たとき、時間が止まったような錯覚におちいった。

⏰:10/04/04 21:54 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#44 [moeco◆eedZl7e0Rw]
普通の人とは違う、説明しがたい違和感を感じた。


並外れて美しいというのもあった。


うるんだおおきい瞳。

真っ赤な唇。

幼さの残る整った顔立ちにすらりと伸びた細い手足。


黒いワンピース姿の、たぶん中学生くらいの女の子だった。

⏰:10/04/04 22:03 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#45 [moeco◆eedZl7e0Rw]
遠目でもわかるくらいなめらかな肌が透けるように白い。



それよりびっくりしたのは、腰まで伸びた髪が雪みたいに真っ白だったことだった。


まさか白髪じゃないだろうし。

カツラ……だろうか。



白い。

とにかく雰囲気まで白かった。

⏰:10/04/04 22:06 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#46 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「天使……」


無意識に口にしていた。


あまりに小声で誰にも聞こえなかったようだが、言ってから僕は恥ずかしくて口を片手で押さえた。



天使?


確かにそんな感じがするけど……さすがに口に出すとめちゃくちゃ恥ずかしいな。


本当に小声でよかった。

⏰:10/04/04 22:12 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#47 [moeco◆eedZl7e0Rw]
――目があった。



「いらっしゃいませ」


気まずくて、頭を下げてお決まりの挨拶をした。



ふと顔を上げてぎょっとした。

女の子は立ちどまったまま、不思議そうにぽかんと口を開けて僕をずっと見ていた。


そらさずに、ずっと。

なんだろう。

[jpg/27KB]
⏰:10/04/04 22:14 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#48 [moeco◆eedZl7e0Rw]
しばらくすると女の子はにぃ、と八重歯をみせて無邪気に笑った。


女の子は僕を見つめたまま近くの棚にあったお菓子を手に取ると――そのまま背を向けて外へ出ていった。



突然の出来事。


僕は口を開けたまま外にでた女の子をただ見ていた。


こんな経験ははじめてだった。

⏰:10/04/04 22:17 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#49 [moeco◆eedZl7e0Rw]
お客が金を払わずに出ていった。


レジを通さずに出ていった。


逃げた。



あれ……これってまさか。

まさか。



「ま、万引きだ!」

僕は叫んだ。

となりでレジの計算をしていた花さんが小さな悲鳴を上げた。

⏰:10/04/04 22:41 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#50 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「なによいきなり……」


「万引きです! 僕つかまえてきますから、花さんは店長に知らせておいてください」


急いで外に出ると、女の子はのうのうと歩いて逃げていた。


しかも万引きしたお菓子を食べながら。



店員の見てるなかで万引きしておいてこの余裕しゃくしゃくっぷりはほめてやりたいとこだ。

ほめないけど。

⏰:10/04/04 22:42 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#51 [moeco◆eedZl7e0Rw]
「ちょっと待って」


僕は女の子の肩をつかんだ。

と、思っていた。
確信していた。

というより、そうなるはずだった。



「え……え?」

しかしそうならなかった。




つかんだはずの僕の手が『そこになにもなかったように』女の子の肩をすりぬけた。

⏰:10/04/04 23:10 📱:N03A 🆔:fRcR2/pM


#52 [ん◇◇]
(´∀`∩)↑age↑

⏰:22/11/02 18:33 📱:Android 🆔:v6aTTZj2


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194