三題噺『雨、恋、盆栽』(短編)
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#1 [タカムラ] 10/12/31 02:14
#18 [タカムラ]
麻衣は苛立ちと訝しさとを混ぜたような視線を英輔に向けた。相変わらず、英輔は安っぽい笑顔を浮かべている。
そして、唐突に、
「結婚しよう」
そう言ったのだ。
からん、とグラスの中で氷が音を立てた。その拍子に、グラスの側面に浮いていた汗の玉の一つが雫となって、ガラスの表面を滑り落ちていく。
ああ、そうだったのか。
不意に麻衣は理解した。
:10/12/31 02:32 :N04A :JVDhwPNA
#19 [タカムラ]
麻衣が、何故、どの男にも心を惹かれるものを見付けられなかったのか。何故、“彼女”のことを考えると胸の中がモヤモヤするのか。何故、英輔と過ごす雨の日を待ち遠しく感じていたのか――その事に、漸く、答えが出せた。
雫はテーブルに溜まった小さな水溜まりに混ざり、その一員となって目には見えなくなっていった。
「…………読まないの?」
麻衣はテーブルの上のブックカバーを掛けられた文庫本を、人差し指でとん、と叩いた。
:10/12/31 02:33 :N04A :JVDhwPNA
#20 [タカムラ]
「え? ああ、読むよ。久しぶりにシートン動物記を持って来たんだ」
「そう。懐かしいわね」
そう言って麻衣はページに視線を落とした。
「あれ? 佐々木、返事は?」
「返事?」
質問には答えず逆に英輔に問い掛ける。丁度、ページの最後を読み終わったところだったので、麻衣はページを繰る為にのその端に指を掛けた。
「いや、だから……」
言葉を濁した英輔にちらと目だけで先を促す。真剣味のなかった彼に初めて焦りのようなものが見えた。
:10/12/31 02:33 :N04A :JVDhwPNA
#21 [タカムラ]
「俺、一応プロポーズしたんだけど」
「冗談でしょ?」
一言の元に斬って捨てた麻衣はページを捲る。
「あー……、えっと……」
言葉を失ったのか、英輔はもともとぐしゃぐしゃだった髪の毛に右手をやり、更に無造作に掻き回す。
「そ、そうだよな。ははっ! 何だ、ばれていたのか……そう、冗談なんだ……はは、は……」
英輔の乾いた笑いが虚しく店内に響く。
麻衣はページを繰った最初の一文を視界に入れる。だが、言葉が入って来なかった――この後の彼の間抜けな顔を想像していたのだ。
:10/12/31 02:34 :N04A :JVDhwPNA
#22 [タカムラ]
「佐々木、さっきのは――」
「いいよ」
麻衣は英輔の言葉を遮った。顔を上げて正面から彼の顔を捉える。
「…………え?」
想像通り、英輔は口をぽかんと開けて、締まりのないとても間抜けな顔をしている。
麻衣は笑った。
「いいよ」
「え……、佐々木? え?」
現状が理解できずに狼狽えたままの英輔に、麻衣はその微笑みを深くして、言った。
「結婚しよう、英輔」
佐々木麻衣は、ずっと、木戸英輔のことが好きだったのだ。
了
:10/12/31 02:35 :N04A :JVDhwPNA
#23 [タカムラ]
以上です。
読んで下さいまして、ありがとうございましたm(__)m
:10/12/31 02:36 :N04A :JVDhwPNA
#24 [我輩は匿名である]
あげ(ノ><)ノ
:10/12/31 23:15 :SH902iS :Fm7F/02.
#25 [タカムラ]
主ですが、もう一度上げさせてもらいます。
#24さん
上げありがとうございます。
:11/01/04 18:58 :N04A :uj/bpcK2
#26 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a
:22/10/04 23:27 :Android :nH.OoPsQ
#27 [○○&◆.x/9qDRof2]
:22/10/04 23:55 :Android :nH.OoPsQ
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