幸せな家族

「週刊誌に書かれてある内容は
すべて事実です。」

テレビの前でも凛とした表情で
私の長男”歩”（あゆむ）は
そう言った。

俺には罪はないって…

あなたたちいくつ？
21歳の男がそんなこと言える？
誰一人
そんなこと言ってくれなかった。
20年間、俺は生きてて
誰もそんなこと言ってはくれなかった。

こんないい男に好かれて母をうらやましいと思う。

涙ながらに訴えた歩の会見は
泣いている声で終わりました。
私も涙を流していました。
歩のそばにいたい。
今すぐ抱きしめたい。
でも
近くに歩はいない。
私は千春と瑞樹と抱き合いました。

瑞樹、千春は自分の部屋に向かいました。
私は夫と一緒に歩に電話しました。

30分後
歩から電話がきました。

「今からそっちに行ってもいい？」
私がそう聞いたのですが歩は
断固、そうさせてくれませんでした。

「俺はもう20歳なんだ。
　父さんの子供なら
　もっとしっかりしていると思うし。」

「えっ？」
「大人扱いしてくれよ。
　俺を。
　父さんは21才であの言葉を発せたんだよ？
俺だってなんかしたいじゃん。
じゃなきゃ
かっこつかないじゃん」

「それとこれとは話は別よ」

「それを一緒にさせてくれよ」

「本当に頑固。
　あなた父ちゃんの子よ。
　最愛なる歩へ。」

歩のすすり泣きが聞こえました。
夫に電話を代わり、
夫が一言、二言を発したと思ったら
電話を切りました。

あの事件から20年しかたっていません。
歩はまだ20歳です。

幸せな家族
そう呼べるのは
つらい経験を乗り越えたからこそ
言えると思います。

悔しい、悲しい経験がなければ
安易に幸せとは感じないと思います。

だから本気になってください。
本気になればそのような感情になれるでしょう。
本気で愛して下さい。
そうすればいずれ
幸せな家族が作れると思います。

fin