僕のものがたり(^ω^)
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#1 [ばららいか]
:11/04/18 19:14 :P01B :KeC.1MnE
#2 [ばららいか]
夏休み、半ばだった。
今日は学校のプール解放の日だ。
暇をもて余していた僕は落ちていた木の枝を振り回しながらそこへ向かう最中であった。
友達の大半は家族と旅行へ行ったり、海へ行ったり親の実家へ帰省したりしていて、わざわざ自分の学校のプール解放に行く者は少ない。
僕の家は両親が不仲で旅行どころではなかった。
:11/04/18 19:16 :P01B :KeC.1MnE
#3 [ばららいか]
顔を合わせる度に喧嘩が始まった。
詳細はよく解らない。しかし原因は父にあることくらいは大体察しがついた。母親は毎晩のようにヒステリーを起こし、泣き叫び、物を叩き壊した。離婚は秒読みだな、と幼いながらに僕は悟っていた。
:11/04/18 19:17 :P01B :KeC.1MnE
#4 [ばららいか]
真夏の道路は太陽の熱を吸収してジリジリと熱をもっていた。
横断歩道に差し掛かり、黒の部分だけを歩いていた時だった。
横断歩道の「白」に「黒」があった。ポツンと小さな黒だ。
近くへ寄ればそれが猫であることがわかった。
真っ黒な猫だった。
:11/04/18 19:18 :P01B :KeC.1MnE
#5 [ばららいか]
車にひかれたせいか、顔が大きくひしゃげいて片目が飛び出している。
真っ黒な毛並みを、そっと右手で撫でてみた。
温かい。
恐らく、太陽の熱のせいではないだろう。
車にひかれてから、あまり時間がたっていないのだと思う。
なぜなら猫はまだ生きていたからだ。
:11/04/18 19:20 :P01B :KeC.1MnE
#6 [ばららいか]
ずれた顎から、かすかに息がもれて、呼吸の音が聞こえる。
猫は小さくか細い声で鳴いた。
どのみちこの猫は助からない。
放っておけば、いずれ死ぬだろう。
猫を抱き抱え、近くの草むらに置いた。
僕はプールへ行くのを諦め、その猫が死ぬまで、その様子をじっと観察することにした。
猫は15分程で死んだ。
:11/04/18 19:22 :P01B :KeC.1MnE
#7 [ばららいか]
僕にとって憂鬱なのは、夏休み明け友達同士で繰り広げられる夏休みの思い出話やおみやげ交換だった。
勿論僕の分のおみやげはない。
基本的におみやげ交換とは、貰った相手にあげるというスタンスであるため、夏休み中この町から一歩も出なかった僕に貰えるおみやげはなかった。
「どうして夏生くんは夏休みどこへも行かないの?」 という悪気のない無神経な友達の発言は、いつも僕を傷つけた。
:11/04/18 19:27 :P01B :KeC.1MnE
#8 [ばららいか]
家に帰ると母は居間の机に顔を突っ伏していた。
「ただいま」
声を掛けたが、返事はない。
机の上には一枚の紙が置かれている。
読まなくてもそれがなんの用紙であるかは容易く想像できた。
:11/04/18 19:29 :P01B :KeC.1MnE
#9 [ばららいか]
問題はその横にあるメモ用紙である。
そこには母の字で「ごめんなさい」と書かれていた。母の簾のように伸びた髪をそっとかき分け、その隙間から恐る恐る顔を覗き込む。
母の白い肌が血で赤く汚れていた。
:11/04/18 19:29 :P01B :KeC.1MnE
#10 [ばららいか]
一瞬なにが起こったのかわからず頭の中がぐちゃぐちゃになった。
よく見ると母の座る椅子の下にも赤い水溜まりができている。
この大量の血はどこから流れ出たものなのだろう。
母は死んでいるのだろうか。
それともまだ生きているのだろうか。
:11/04/18 19:31 :P01B :KeC.1MnE
#11 [ばららいか]
生きているにせよ、傷を探して止血しなくては出血多量でどのみち母は死んでしまうだろう。
母の体をおこし、「傷」を探した。
「傷」はすぐ見つかった。
母の手にはカッターナイフが握りしめられていて反対の手首がパックリと開いている。
そこから赤黒い血が多量に流れ出ていた。
:11/04/18 19:32 :P01B :KeC.1MnE
#12 [ばららいか]
プール鞄からタオルをとりだして母の手首にきつく巻き付け止血するという措置をとった。
救急車を呼び、父の携帯に電話をかけたが、なかなか出ないので何回もかけていると電源を切られてしまった。
救急車はすぐに到着した。
:11/04/18 19:32 :P01B :KeC.1MnE
#13 [ばららいか]
待合室では僕と、何故か僕のクラスの担任の湊川先生がいた。
その頃には僕もすっかり落ち着きを取り戻していて、呑気にココアなどすすっていると男の先生が出てきて母の無事を告げた。
息を切らした父が病院の入り口を抜けて僕たちの前に現れるのを心のどこかで期待していた。しかし父は最後まで現れなかった。
:11/04/18 19:33 :P01B :KeC.1MnE
#14 [ばららいか]
時計を見ると午後8時をまわっていたので今日は湊川先生のお家に泊まらせていただくことになった。
ファミレスで夕飯をご馳走になった。
このファミレスには、小さい頃来た記憶がある。
まだ両親の仲がよかった頃だ。
僕はあの日と同じハンバーグセットを頼んだ。
:11/04/18 19:34 :P01B :KeC.1MnE
#15 [ばららいか]
「お母さんご無事でよかったねぇ。
発見が早かったのと、応急措置のお陰だと先生が感心なさっていたわよ?」
湊川先生は若くて可愛らしい顔立ちをしていた。
生徒からの人気はダントツの1位だ。
湊川先生の家に泊まったなんて言ったらみんな羨ましがるだろうな、と思った。
:11/04/18 19:35 :P01B :KeC.1MnE
#16 [ばららいか]
「僕、本当は今日プールにいくはずだったんだ。」
「学校の?」
「うん、けど行かなかった。すぐ帰ったんだ。」
「何故?」
「それは・・ええと、つまり面白いものが落ちてたんだ。それをずっと観察してた。」
「あら、なにが落ちていたの?」
「それは内緒だよ。」
湊川先生は首を傾げながらオムライスを口にはこぶ。あの日母もオムライスを食べていた。
:11/04/18 19:36 :P01B :KeC.1MnE
#17 [ばららいか]
あの猫の事を思い出した。飛び出した猫の目に僕はうつっていただろうか。
弱々しい鳴き声はなにを伝えたかったのだろうか。
僕に助けを乞うようにも聞こえたし、もういっそ殺してくれと悲願しているようにも聞こえた。
僕は助けることもしなかったしとどめをさすこともしなかった。
ただ見ていただけである。母はどうだろう。
どうしてほしかったのだろう。
余計なことをしてくれたと僕を恨んでいるだろうか。
:11/04/18 19:38 :P01B :KeC.1MnE
#18 [ばららいか]
父と連絡がついたのは翌日の朝だった。
父は仕事を休み僕を迎えにくるとそのまま病院へと向かった。
母は目を覚ましていて、僕の顔を見ると涙を溢れさせながら嗚咽まじりに言った。
「ありがとう・・・ごめんね、ごめんね・・・」
僕は母を助けて良かったのだ、と思えた。
:11/04/18 19:41 :P01B :KeC.1MnE
#19 [ばららいか]
一週間後、母は退院してきた。
同時に、両親から離婚を告げられた。
今まで父は離婚を拒否し続けてきたが、今回の母の自殺未遂がきっかけとなりついに離婚を決意したようだ。
僕は母に引き取られることになり、夏休み中にもこの町を出て母の田舎へ引っ越すことが決まった。
:11/04/18 19:43 :P01B :KeC.1MnE
#20 [ばららいか]
一通り話を聞き終えると湊川先生は今にも泣き出しそうな悲しそうな顔で「そうなの・・・元気でね、クラスのみんなでお手紙書くからね・・・」
と言いながら僕の手を優しく握り、包み込んだ。
僕は
「いらないよ。」
と言って先生の手を振りほどきその場を後にした。
:11/04/18 19:43 :P01B :KeC.1MnE
#21 [ばららいか]
母の田舎は遠い。
恐らくこの町に戻って来ることは二度とないだろう。その前に僕は、やらなきゃいけない事がある。
:11/04/18 19:44 :P01B :KeC.1MnE
#22 [ばららいか]
横断歩道の近くにあるガードレールの裏側で、青々としげっている草むらの中に猫を隠していた。
夏なので、腐敗の進行がはやい。
そこに持ってきた農作業用の大きなスコップで穴を掘った。
穴に猫を入れ、優しく土をかぶせ葬った。
:11/04/18 19:45 :P01B :KeC.1MnE
#23 [ばららいか]
作業が終わる頃には、汗だくで体中薮蚊に刺されていて痒かった。
きっとこの猫も生きたかったのだと思う。
「ごめんね」
と呟いて僕はその場を後にした。
:11/04/18 19:46 :P01B :KeC.1MnE
#24 [ばららいか]
離婚の原因は父の浮気だった。
母は最後まで気づかなかったようなので、僕も黙っていようと思う。
:11/04/18 19:47 :P01B :KeC.1MnE
#25 [ばららいか]
湊川先生の部屋には見覚えのあるネクタイが落ちていた。
あの日両親とファミレスに行ったとき、父がしていたものと同じものだ。
そのネクタイは結婚記念日に母がプレゼントしたものだった。
ネクタイの端には父のイニシャルが刺繍されている。
その他に2人の写真を見つけた。
家では見せたことのない父の幸せそうな笑顔がその写真の中にはあった。
:11/04/18 19:47 :P01B :KeC.1MnE
#26 [ばららいか]
これは仕方のないことなのだろう。
抗うことのできない運命なのだ。
きっと男女の間には言葉では表現できないような問題があるのだろう。
それは理屈ではないのだ。僕のような子供には到底理解できないようななにかがあるのだ。
そしてそれは子供の僕にとってはどうでもいいことだった。
:11/04/18 19:49 :P01B :KeC.1MnE
#27 [ばららいか]
母の田舎へ向かう新幹線の中でココアをすすりながらぼんやりとそんなことを考えていた。
:11/04/18 19:50 :P01B :KeC.1MnE
#28 [ばららいか]
end(^ω^)
:11/04/18 19:50 :P01B :KeC.1MnE
#29 [ばららいか]
:11/04/18 21:14 :P01B :KeC.1MnE
#30 [○○&◆.x/9qDRof2]
↑(*゚∀゚*)
:22/10/18 00:28 :Android :h3l12Mig
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