赤く染まる君の唇。
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#1 [のの児] 11/05/31 01:45
「あ、伏見先輩だ。」
友達の視線の先を見ると欠伸をしながらフラフラと歩く伏見先輩の姿が見えた。
「カッコイイ〜♪‥けど今日も危なかっしいね。」
苦笑いする友達を横に
「そりゃ【病弱王子】ですからねぇ。」
私も伏見先輩を見つめて笑った。
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#497 [のの児]
「蒼真だって‥?お前の主君は勝則様だろーが。蒼真なんかの許しなんか意味ねぇ。」
朱汰の雰囲気が変わった事に陽向も気づく。
「意味ならあります‥蒼真さんは緋護誓の中で【監理官】の名を持っています。則ち監理官である蒼真さんの許しを貰えれば―」
「そういう事じゃねぇだろっ!!」
怒鳴り声をあげた朱汰の瞳が赤く染まっていく。
「俺が言いたいのはお前の勝則様への、伏見家への忠誠心はそんなもんなのかって話なんだよっ!蒼真なんかに聞いてっ‥、勝則様に許しを得てないってのは伏見家を裏切ったも―」
「止めてくださいっ!!」
陽向がテーブルを叩くとティーセットが揺れた。
朱汰だけでなく譲も陽向を見つめる。
「霧島先輩、それ以上言ったら怒りますよ?」
朱汰を睨みつける陽向の姿に二人共驚きのあまり言葉をなくす。
「譲さんは私の事を心配して契約を結んでくれたんです。その譲さんに酷い事言わないで下さいっ‥」
「いやっでも‥!」
「『でも』も無しですっ!」
陽向が立ち上がり朱汰に近寄ると
「いいですねっ?!」
顔面間近で力強く指を振り回した。
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:12/06/22 18:26 :SH06A3 :☆☆☆
#498 [のの児]
「そんな‥ってか陽向ちゃんがそんな怒らなくても‥」
陽向ちゃんに怒られた、とシュンと小さくなる朱汰の瞳の色が元の色へ戻っていく。
「怒りますよっ!譲さんは私の‥私の〜‥」
「【緋義誓】です。」
譲が陽向に耳打ちする。
「あ、私の【緋義誓】なんですからねっ!」
「あんま意味わかってないっしょ!‥ったくもう〜っ。」
朱汰がため息を吐きながら座り込む。
「二人共本当にわかってんの?ブラックストーンの譲が【普通の人間】の陽向ちゃんと【主従契約】を結んだって事は、‥あまり良い事じゃないんだよ。」
【主従契約】とは個人で主を選び主従関係を結ぶもので、例え子供や権力のない者など誰であろうと各々で選ぶ事ができる。
契約を結び、主に従う者を【緋義誓】と呼ぶ。個人ではなく家業で受け継ぐ者もいる【緋護誓】とは違い、自身の意志、【義】を通し主に忠誠を誓う。
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:12/06/23 11:05 :SH06A3 :☆☆☆
#499 [のの児]
だが個人で契約を交わすのはその主の【従僕】になるようなものだ、【誇り】がないと世では否定的なのだ。
その為【主従契約】を結んだ者は決してそれを口にせず、ひっそりと主に尽くす‥
それをこうも堂々と公言し、更に【普通の人間】の陽向と契約を交わしている。
これがバレたら二人は必ず大きな批判を受ける。
「私も、覚悟の上で契約しております‥それにこれは私からの申し出なんです。陽向様は悪くありません。」
それを聞いても朱汰は髪をクシャリと掴む。
「‥お前が陽向ちゃんを選んだ事は別にいいよ。ただ、‥なんで?」
朱汰がここまでイラつくのは自分達がいながらも相談も無しにそこまでする二人の身勝手さにだった。
「私は陽向様をお護りしたい、‥それだけです。」
そう言って譲は深く頭を下げた。
「申し訳ありませんっ‥!」
そんな譲を見て陽向も目を伏せる。
譲さん、‥やっぱり気にしてるんだ‥
千早が帰った次の日、譲からの【主従契約】の申し出に陽向は一度断っていた。
そこまでしなくても大丈夫だと言う陽向に譲は何度も言うのだ。
『陽向様のお傍にいさせて下さい。』
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:12/06/23 17:07 :SH06A3 :☆☆☆
#500 [のの児]
そう言って必死に縋り付くような表情をするので結局折れてしまった。
『ありがとうございます。これから何があろうと、私が陽向様をお護り致します。』
その時の譲の笑顔に陽向もつられて微笑んだ。
―‥でも譲のその決意の裏に、自分に対して後ろめたさがある事に陽向も気づいていた。
問真会の事や、術を解けない事‥譲も一人悩んで責任を感じているのだろう。
『これからは何でも言ってください。私は何があっても陽向様の味方ですから。絶対です。』
それでも笑ってそう言ってくれた譲に、陽向は心底感謝の気持ちと安心感を貰えたのだ。
だが何も知らない朱汰からしてみれば突然の事に怒る事も当然で、譲の謝罪の本当の意味を知る陽向はただ複雑な表情を浮かべた。
「‥もう契約しちゃったんなら仕方がない。紅には言ったの?」
朱汰が陽向へ顔を向ける。
「言ってません‥」
「だよねぇ‥陽向ちゃんに【契約印】がつくのとか許さなそうだし。‥【契約印】は?」
「‥ここです。」
陽向は着ていたブラウスの裾をめくり、右の腰辺りににできた印の痕を見せてきた。そこには蚯蚓腫れのように赤い十字架があった。
「そんなとこに‥なんかエロい―」
「朱汰様っ。」
陽向の腰を見つめる朱汰に譲が一睨みし、直ぐさま陽向に服を元に戻させた。
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:12/06/24 23:30 :SH06A3 :☆☆☆
#501 [のの児]
「あらら、早速緋義誓パワー発揮っすか?」
朱汰が肩を竦め立ち上がる。
主従契約を交わした者達はその証にお互いの身体に【契約印】を印す。
主従契約を結んだ事をむやみに明かさないよう見えない部分に印すため、陽向は右腰に、譲は左胸に契約印を押した。
「はぁ‥ったく、とりあえずこの事は自分達で報告しなよ?あと陽向ちゃんを護る為って言ったって紅が怒る事は覚悟しときな。」
「はい‥」
「朱汰様、御迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「もういいよ‥じゃ。」
結局朱汰は譲に話し合いに加わる事を許し部屋を後にしていった。
「――覚悟はしてましたがこれから色々大変そうですね‥」
譲がティーセットをテーブルに並べながら陽向に苦笑してみせる。
「ははっそうですねぇ。霧島先輩でさえあんなに怒るなんて‥私達凄い事しちゃったんですね。」
陽向は目の前に並べられたカップを見つめた。
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:12/06/25 15:04 :SH06A3 :☆☆☆
#502 [のの児]
「私の我が儘のせいで‥申し訳ありません。陽向様にも契約印をつけさせてしまいました‥」
「えっやだなぁ、謝らないで下さい。私後悔してませんよ?これちょっとカッコイイし。」
右腰を撫でながら笑う陽向の首筋にある赤い二つの痕が目にとまる。
「ですが朱汰様の言う通り、紅様はきっとお怒りになられるでしょうね‥ご自身でつけた痕でさえ気にしていらっしゃいますし‥」
「んー、でもこの身体は私の身体です。私が望んでつけたものなんですから大丈夫ですよ。」
陽向がカップを手にとり温かいミルクティーを一口飲む。
「‥それに、もし譲さんの事を悪く言うようなら私がまた怒ってあげます。何てったって私は譲さんのご主人様ですからねっ。だから大丈夫ですよ。」
譲は自身が護るべきはずの陽向にいつの間にか励まされている事に気づく。
「ははっ、‥ありがとうございます。」
あ、笑ってくれた‥
少し照れ臭そうに笑う譲を見て、陽向も嬉しそうに笑った。
―――――――――
「ちょっ、お待ち下さい!困ります!」
外の騒がしさに蒼真が怪訝な表情を浮かべた瞬間、ドアが勢いよく開く。
「蒼真っっ‥!」
「これは朱汰様‥ノックも無しとはお行儀が悪いですねぇ。驚きましたよ。」
そうは言ってもいつもと変わらない不気味な笑みが朱汰のイラつきを増幅させる。
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:12/06/26 11:01 :SH06A3 :☆☆☆
#503 [のの児]
「申し訳ありませんっ!朱汰さ―」
朱汰を止めようとした臣下らに譲は部屋を出るよう目配せすると、臣下らは戸惑いながらも静かに出ていった。
二人だけになり腰をかけるようソファーに手を翳したが、朱汰はそれを無視し蒼真を睨みつける。
「‥はぁ、‥何かお怒りのようですが私が何かしましたか?」
「っ!‥譲と陽向ちゃんの契約の事聞いたっ‥お前は何様のつもりなんだよっ!?」
今にでも飛び掛かってきそうな朱汰の瞳は赤い。
「あぁ、それですか。その事でしたら何ら問題はないのでは?譲は私からちゃんと許しを貰っています。」
蒼真の瞳は黒いまま。
「そうじゃないっ!これがバレたら人間と契約を交わすなんて血への冒涜だって非難の嵐が起きるっ!こんな状況下でそんな事が起きたら如月家にそこを付け込まれる事ぐらいお前ならわかるだろうがっ!違うかっ!?」
朱汰の握り拳がワナワナと震えるのを見ても蒼真は笑みを絶やさない。
「冷静な分析ですね。」
その笑みに朱汰の我慢の限界がきた。
「ふざけんじゃねぇっ!!お前はいつもその笑った顔の下で何か企んでやがって‥俺はお前が嫌いだっ!見るだけでイラついてお前の声を聞くだけで虫ずが走るっ!お前のっ、お前のその笑った顔を見ると殺したくなるんだよっ!」
朱汰の怒りが爆発し罵声が響き渡る。
「それは、残念ですね。」
それでも蒼真は困ったように笑う。
「っ、‥俺は知ってるんだ‥お前が【あの日】、母さんと珠里を見捨てた事をっ!!」
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:12/06/27 10:13 :SH06A3 :☆☆☆
#504 [のの児]
蒼真の目つきが変わると
「なんで、なんで助けてくれなかったんだ‥」
朱汰の赤い瞳から涙がこぼれ落ちた。
「母さんは死んでっ、生き残ってた珠里は夜光側についてる‥なんでっ―」
「貴方が今ここに来たのは譲と婚約者様の主従契約の件でしたよね?何やら話がズレてはいらっしゃいませんか?」
蒼真が朱汰へ厳しい目を向ける。
「っ、それ――」
「個人的な恨みを吐かれても困ります。」
蒼真の瞳が黒と赤の色で渦巻き、その顔から笑みが消える。
「‥私はあの日勝則様の指示により襲撃された霧島家の加勢に行きました。確かに朱汰様達とはぐれたあのお二人を見ましたが‥そこまで恨まれる事をした覚えはありません。」
くすんで見える蒼真の赤い瞳は冷たく、その瞳に朱汰は覚えがあった。
「お前は‥あの日もその瞳で俺達に言った‥」
――‥『お二人を見かけましたが霧島家の【当主】玄様と【次期当主】の朱汰様の身を案じその場を後にしたので、私もその後については解りかねます。』‥――
それを聞いた俺達がどんな気持ちだったか‥
朱汰が涙のたまった瞳で蒼真を睨み据えると
「それの何が悪いのですか?当主をお護りするのが私達緋護誓の役目です。違いますか?」
蒼真が朱汰へ笑いかけた。
っっ‥!!
「蒼真ぁあぁーっ!!」
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:12/06/27 10:45 :SH06A3 :☆☆☆
#505 [のの児]
怒りの叫びと共に朱汰は右足に力を入れ、蒼真へ飛び掛かる。
咄嗟に両腕で身体をガードした蒼真に朱汰の拳が入ると、勢いに押され二人は共に窓硝子を突き破った。
「蒼真さんっ?!何が‥っこ、これは‥」
幾人かの臣下らがその衝撃音に慌ててドアを開け呆然とする。
「―‥全く‥腕がへし折れるかと思いましたよ。」
蒼真が服についた硝子の破片を払いながら今だに立ちはだかる朱汰に笑いかける。
「殺してやる、」
怒りのあまり周りが見えなくなった朱汰は硝子で傷ついた頬の傷も気にせず爪を噛み蒼真だけを睨みつける。
「‥殺してやるっ!!」
再び蒼真へ飛び掛かろうとした時、
「―‥何をしてる。」
朱汰の首根っこを掴み止めたのは紫乃だった。
「紫乃っ?‥っ、離せっ!邪魔すんな!」
「断る。」
「なっ、離せって言ってんだろぉがっ!!あいつはっ―」
「黙れっ!」
紫乃が蒼真を睨み据える。
スーツ下の腰に手を当てていた蒼真がにんまりと笑い返す。
‥隠し刀か。
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:12/06/28 09:39 :SH06A3 :☆☆☆
#506 [のの児]
「はぁ‥窓硝子の修理代はこちら側が出す。迷惑をかけた。」
「おいっ離せよっ!紫乃っ!」
わめき立てる朱汰を無視して紫乃は朱汰を引きずり歩き出した。
「おや、終わりですか?」
「まだ―」
「あぁ終わりだっ!」
蒼真は肩を竦め笑った。
「‥‥朱汰様っ、」
呼び止められ紫乃が足を止めると一緒に朱汰が蒼真を睨みつけた。その瞳はまだ赤く燃えている。
「珠里様はもう覚悟を決めていらっしゃる。私などと遊ぶよりも先に、貴方も覚悟を決めるべきだ。」
真剣な表情の蒼真に
「お前に一々言われる筋合いねぇし、指図なんか受けるかよっ‥!」
朱汰はただ有り余る怒りを沸き立たせた。
「そうですか‥では、私も失礼致します。」
二人に一礼をし背を向け反対方向へ歩き去っていく蒼真を朱汰はずっと睨み続けていた。
――――――――――
「蒼真と朱汰が?うわー、面白そうなの見逃しちゃったな。」
紅が頬杖をつきながら笑う。
「何が面白そうだ。朱汰は止めてやった俺に文句だけ言って部屋に閉じこもってるよ。あのまま続けてたら蒼真の隠し刀で死んでたぞ。」
紫乃がイライラしながら茶を飲む姿に紅はまた笑った。
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:12/06/29 10:07 :SH06A3 :☆☆☆
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