ｒｉｏ

目を開くと、半透明な緑色の液体が目の粘膜に触れた。生ぬるさも冷たささえ感じない。体を動かそうとしても、指一本動かすことができなかった。

目しか動かせない、そう知ると眼球をぐるぐると動かした。

そうしてやっと、私がどんな状況でいるのか分かった。

………………

爆発が聞こえる。だがそんなこと、もうどうでもいいのだ。

目の前にいるのは、翼が生えた美しい妹だった。瓦礫がどこかで崩れる音が聞こえる。ただ口と目をポカリと開くだけの私を妹はどんな目で見ていたのだろう。

この愚かな兄を。いつ、どこで、自分の選択肢が間違ったのか。記憶を辿ってみてもどうしても思い出せない。ただ目の前にいる天使ともとらえられる人は、自分の妹だということだけはっきりしている。

爆発の振動のせいで埃やら、天井のもろい部分が落ちていく。その埃が舞うところをかすかな光がとらえ、時折目の中に入ってくるその景色が、妹をさらに美しく見せた。爆発音さえ、交響曲のように聞こえてしまう…。何を思うか、感動というものなのか？私は気がついたら声をあげて、馬鹿みたいに両手を真っ黒な天井に向けていた。

君がいればそれでいい。君の世界が輝くならこの身が、心がどんなことがあっても動くのだ。顔が濡れている。私は涙を流し鼻水をたらし、妹の新たな誕生を喜んでいた。

しかしそれと同時に悲しみが、憎しみが、理解できぬ怒りがこみ上げてきた。妹は、私だけの天使は翼をバタバタと羽ばたかせ液体を散らしながら、暗闇に消えていってしまったのだ。

｢……だっ｣

妹との記憶が脳内に映像化される、泣き、笑い、私の手を握りながら怒る妹

二人でみた夕焼け

潮風が肌をくすぐる

『大好き』
そう言ってたじゃないか

｢ｯ…なぜだぁあああっ｣

追いかけようにも足がいうことをきかない。なぜだろうと見てみると私の足は片方しかなかった。

膝の下から誰かに食いちぎられたかのように肉ははみ出て白い骨が尖って見えた。

そうだった、爆発で足をやられたことを忘れていた。

血はきっと大量に流れているはずだ。だが痛みなど感じない。それよりも妹だ。なぜ？なぜこの兄に声をかけずとんでしまった？

妹の声が聞きたい、聞きたいだけなのに。手にも触れず、あの優しい笑顔を見せずどうしていなくなったのだ。

喜びの声は、怒りの声となって、女の名を何度も何度も叫んでいる男の声が響き、絶望が始まったかのようにガラガラと瓦礫が落ちていった。

……………

今日も同じ夢をみそうな気がする。そう思いながらベッドに入り目を閉じた。知らないうちに意識がなくなり、気がつくと同じ夢の中にいた。
また、あの女の子がいる。ゆらゆら動く緑色の髪が俺を手招きしている。

｢どうしたの｣

｢………たいの……でたいの…でたいの、でたいの!ここから｣

いつもと違う。震えていた弱々しい口調からだんだんと強い口調になっていく女の子に恐怖を感じた。

そして俺は夢の中なのに本当に驚いてしまった。ひっという叫び声が喉の奥に引っ込む。

いつも目を閉じていた女の子が今回は、パチリと目を開けたからだ。

目と目が合う。
女の子の目は髪の色と同じ目だった。

｢ここからでるの｣

いつもだったら、おいでと言うのに。
言えない、おいでという前に、目を覚ましたいのに。緑色の目がぎょろりと色んな方向に動いて最後に俺をまたとらえた。

｢連れてって｣

女の子は無表情で俺を見る。見てる。見ている。手を伸ばしたら目を覚ましてこの夢が終わるんだ。そう思ってすっと手を出した。

瞬間、皮と骨しかないやせ細った手が俺の手首をガシリと掴んでいた。

目を見開き女の子を見ると心底嬉しそうな笑顔を向けられた。

｢…ありがとう｣

………
夢で見たときと同じくらい目を見開いて上半身だけ起こした。反射的に。

気のせい。でありたいが俺は心臓の音を聞いて気のせいではないことに気がついた。掴まれた左手を握る。

黒井柊……高２で夢に現れる女の子に恋をしました。多分。