私の小悪魔王子様
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#1 [霰] 11/08/30 02:23


「ほら、早くちゅーして?」

>>2-3

#60 [霰]
 
「ま、本物だったんだし、メイドとか何か楽しそうでいいじゃん」


いっちゃんがにっこり笑った。
だが、雫は顔を曇らせたままだった。


「そいつが本当にイヤになったら辞めちゃえ」


雫の気持ちを察したのか、いっちゃんは真っ直ぐな目をしてそんなことを言った。
その言葉に、雫はピクッと反応して、心のどこかで何かが燃え上がるような、そんな感覚がした。


「辞めない!負けたくないもん!」


そう、雫は負けず嫌いであった。
蒼空と雫の間にあるものは、勝ち負けと違う気がするが、
辞めるということは逃げるということで、逃げるということは負けるということ。
雫の中では、そんな方程式が成り立っていた。


「絶対ぎゃふんと言わせてやるんだから!」

(私がした思い、ソックリそのまま返してやる!!)



雫を燃え上がらせた張本人である和泉は、そんなつもりは無かったと言いたげに苦笑いをつくっていた。

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⏰:11/11/15 17:36 📱:D705i 🆔:6/xYPdkM


#61 [霰]
 
退屈な授業中は、蒼空をどうやってこらしめてやろうかと考えていた。

(パンツ一丁にして私に土下座とか……ふんどし姿でショッピングとか……)

蒼空のそんな姿を想像して、授業中にも関わらず吹き出しそうになった。
そんな至らぬ事を考えている雫の顔は黒い笑顔で歪んでいる。


「嘆いたり、燃えたり、悪役みてーな顔したり、忙しいやつだな」

呆れを含んだ綾介の呟きに、和泉も頷き答えた。


「何だかんだ言って、バイト楽しかったみたいね……もう雫、素直じゃないんだから!」

近くでそんな会話が繰り広げられているにも関わらず、完全に自分の世界に入っている雫にはこれっぽっちも聞こえていなかった。

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⏰:11/11/15 17:55 📱:D705i 🆔:6/xYPdkM


#62 [霰]
 
放課後になり、昨日と同じく和泉と綾介と別れた雫は邸宅へと向かった。
慣れない道を抜けて、あの高い白塗りの壁が見えると門まで走った。


昨日の松山さんの話によると、今日は蒼空が19時の便でニューヨークへ発つらしいので、雫の仕事は18時まで。

ちなみに明日からは蒼空が居ないので3日間休みで、次の勤務は土、日だ。
平日の曜日はまだ詳しく決まっていないが、土、日は1日勤務。

退屈な土、日は今まで、綾介の家で暇を潰すだけだったので、丁度いい。
ハードな勤務に心の中でウゲッと変な声が出たが、休みを入れて欲しければいつでも入れてやるからね、という松山さんの声に頷かざるをえなかった。



昨日貰ったカードを、インターホンの下にある青い光を放つ部分に翳すと重たい音を立てて門が開いた。
玄関までの長い距離を突っ走ると、庭の隅っこで花に水やりをする松山さんを見つけた。

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⏰:11/11/15 23:18 📱:D705i 🆔:6/xYPdkM


#63 [霰]
 
松山さんと話し終えると衣装部屋で着替え、昨日メモした仕事に取りかかる。

まずは蒼空に挨拶。


広間にかかる真っ赤なカーペットが敷かれた階段を上り、右奥の部屋の前で足を止めた。
室内からピアノの音がする。

雫はノックせずに、気付かれないよう少しだけドアを開けると中を覗いた。



ピアノを弾いているのは蒼空だ。

オレンジ色の艶やかな髪、耳元で光る複数のピアス、ペダルを踏む黒い編み上げブーツ。
鍵盤を滑る指の深爪ぎみの爪は、黒や赤のマニキュアが塗られている。
パンク歌手のような蒼空の奇抜な格好と、真っ白なグランドピアノはあまりに不釣り合いだった。


しかし、その白い指から紡がれる音楽は柔らかで優しく、時に力強い。
彼の世界に引き込まれる錯覚に陥るほど、魅力的だった。

だが、音楽に関して全くの初心者である雫にも分かるほど、その完璧な音色の中に寂しさが混じっていた。

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⏰:11/11/16 02:29 📱:D705i 🆔:OepogqWg


#64 [霰]
 
胸の奥から何かが溢れ出るような、そんな感情。
これが“感動した”というやつか。

瞳を閉じて聴き入っていると、美しいメロディーは突然ピタリと止まった。
違和感のある終わり方に、雫は再び室内の様子を伺う。


指を鍵盤に置いたまま、蒼空はぼんやりと窓の外を見つめていた。
何の面白みもない、ハッキリしない曇り空を、ただじっと。
瞬きすることも、息をすることさえも忘れているかのように。



そこに居た蒼空に、昨日のような余裕や明るさが見受けられなかった。
美しい顔に影が落ち、栗色の瞳は悲哀で揺れているようだった。
まるで、別人。



雫は胸が締め付けられ、ドアノブを握る手にも力が入った。

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⏰:11/11/17 01:12 📱:D705i 🆔:B44NK4ZQ


#65 [霰]
 
後ろ手にドアを閉めると、音に気付いた蒼空がこちらに視線を寄越した。


「……こんにちは」

何と声を掛けていいか分からず、取り敢えず挨拶してみる。
予想以上にぶっきらぼうな言い方になり、自分でも驚いた。


蒼空は影を振り払うかのようにキレイに笑うと、椅子から立ち上がった。
一瞬のうちに腰へと手を回され、ぎゅっと抱き締められる。

しばらくすると、肩口に顎を乗せた蒼空が口を開いた。


「……早く雫に会いたかった」


ぶわっと体温が一気に上昇したのが分かった。
行き場に迷う両手が強張る。

抱き締められているので、蒼空の表情が伺えない。


先程の光景を思い出し、拒むことができない。
雫の視線が艶やかな大理石の床を彷徨った。

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⏰:11/11/17 01:28 📱:D705i 🆔:B44NK4ZQ


#66 [霰]
 
ドクドク、と心臓の動きが増す。
こんなに密着すれば、相手に簡単に伝わってしまうだろう。

現に、雫には一定のリズムを刻む蒼空の心臓の音が聞こえる。

ドキドキしているんだ、と蒼空に気付かれるのが恥ずかしくて、雫はぎゅっと目を瞑った。



「あ、あの、どうし……」

雫が言いかけたところで、蒼空は体を離した。


「雫、顔赤いよ?」

蒼空に至近距離で見つめられ、そんなことを言われてしまえば、雫には俯くという手段しかなかった。
それに、と続けた蒼空の声も、もう雫には届かない。


「ドキドキしてるの?」

上目遣いであの栗色の瞳に捕らえられた所為で気付かなかった。
左胸に感じる、違和感を。

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⏰:11/11/17 01:51 📱:D705i 🆔:B44NK4ZQ


#67 [霰]
 
恐る恐る胸へと視線を移すと、蒼空の形の良い手が雫の左胸に重なっていた。


「あれ?意外とあるね!」

Cぐらい?と無邪気な子供のように笑う蒼空。
表情とやっていることがマッチしていない。


雫は信じられない、と言ったように青ざめ、高速で後退りした。
蒼空の右手から逃れ、透かさず両腕をクロスして隠すように胸を覆う。


「……最低…最低最低最ッ低!!」

雫が半泣きになりながら叫ぶのに対し、蒼空は反省する素振りも見せず、一歩また一歩と雫に近付く。


「いいじゃん、減るもんでもないのに……」

「減る!私のココロが!!」

「あ、そう。ごめんね?」


くすっと笑って、首を傾げて謝る蒼空を雫は涙の浮かぶ瞳で睨んだ。


明らかにおかしかった蒼空を少しでも心配した自分を呪う雫であった。

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⏰:11/11/17 02:10 📱:D705i 🆔:B44NK4ZQ


#68 [霰]
 
ドアの向こうから足音が聞こえると、蒼空は何事も無かったかのように雫から離れた。


「お坊ちゃん、荷物の準備が出来ました」

足音の主は松山さん。
蒼空は「今行く」と短く返事をするとベッドの上に置いてあったハットを深々被り、再び雫に近付いた。



「じゃあ、またね、雫」


耳元で甘く囁かれたかと思うと、ちゅっ、と小さなリップ音が聞こえた。
一瞬、頬から伝わった柔らかな感触。

雫は目を丸くして固まってしまった。


そんな雫を余所に蒼空はにっこりと笑うと、部屋を後にした。



嵐のように去っていった蒼空に、未だ雫の脳内は置いてきぼり。
立つ力さえ無くなった雫はその場にすとんと座り込んだ。


「また……っ」

だだっ広い部屋にたった一人。
キスされた左頬を手で抑え、赤面させて俯く雫であった。
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⏰:11/12/11 19:40 📱:D705i 🆔:tu4BN5no


#69 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100

⏰:12/06/27 17:28 📱:S003 🆔:4hjpZdag


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