愛しい、なんて言葉軽々しく言えないし。ましてやそんな言葉言い慣れてないし。

弱虫なんだ、俺。

「キリくんが好きだよ」
今だってほら、
大切な人が泣いているのに涙ひとつ拭えない

　
「桐谷ー!湯野ちゃんが呼んでるぞー」

机に突っ伏していた顔を上げ、俺を呼ぶ方に目を向ける

「んー、今行く」
気怠そうに返事をして。ぐん、っと腕を伸ばしながら廊下に出ると、俺を待っていたであろう人物がバツ悪そうな表情で立っていた
　

　
「ユノ。どうした？」
「ごめんキリくん、現国の教科書貸してくれないかな」

忘れちゃったんだよね、と申し訳なさそうに笑う。真面目な彼女にしたら珍しい光景で

「…貸してやってもいいけど?」

何だか初めて彼女より優位に立ってる気がして、悪い気はしない。