人喰い山-秘密基地の思い出-
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#1 [直人] 12/01/23 06:41
あの夏、友達は山から帰らなかった
#2 [直人]
1986年8月。
H県K市に鉄拐山(テッカイサン)という山があり、その山の中腹にある田中産業という生コンクリート工場が最後の製造を行っていた。鉄拐山の麓に広がるニュータウンは開発がピークを迎え、田中の社長は生コンの需要が低下することを見込み工場を閉鎖することにしたのだ。田中があっさりと生コン工場を閉鎖すると決めたのには他に大きな理由がある。2年前、跡取りである長男が工場の敷地内にある貯水槽で変死体となって発見されたのだ。そして更に半年後、次男も相次いで行方不明となったのだ。田中は家の者以外に会社を継がす気は無く、悲しい気持ちを整理するためにも工場を閉鎖することにしたのだ。
そして今日、最後の出荷日を迎えた。生コンの納入先はニュータウンの戸建の基礎だ。田中産業の製造する最後の生コンが、新しく建つ家の基礎になるのだ。田中は製造と出荷を社員に任し、応接間で無事に1日が終わることを祈っていた。
:12/01/23 07:06 :K006 :3c5k0U.Q
#3 [直人]
「子どもだけで馬の背に行っては行けません」この台詞はユウキやタカシの母親が口を揃えて言う言葉だ。《馬の背》というのは鉄拐山の別名である。山頂が草木の生えない山肌になっておりその形が馬の背中に似ていることからこう呼ばれている。ユウキたちが住むニュータウンは公園などが美しく整備されてはいるが、子どもの好奇心や冒険心は、そんな整備された町では満たされなかった。「馬の背に行こうぜ」ニュータウンに引っ越して来たばかりの子どもには、仲間になるためのキーワードになっていた。
ユウキは小学3年生の元気な男の子だ。相棒のタカシとは同級生で、彼らはいつも冒険の空想を語り合っていた。彼らの冒険世界の設定では《馬の背》は巨大な悪魔がまたがると正に暴れ馬の如く町を破壊し尽く怪物ということになっている。彼らは建設現場で盗んできた木片やパイプをライフルかマシンガンに見立てて《馬の背》に攻め込むというイメージプレイで毎日遊んでいた。
:12/01/27 09:15 :K006 :04vdUPt6
#4 [直人]
有動神社の高橋という神主は、毎日地鎮祭に追われていた。昨今のニュータウン開発のお陰で忙しい日々を過ごしていた。しかしここ何日か体の調子が優れないでいる。彼はそれを仕方のないことだと思っている。土地の神様を鎮めるために儀式をやっているのだが、そう何回も言うことを聞いてくれるはずもない。そう思うようになってから、毎夜のように同じ夢を見る。有動神社の上空を、とても大きな影が覆い被さり、そのあと大量の土石流と天地がひっくり返るほどの地震に襲われる。そして山の雄叫びのようなものが聞こえてき、闇の中からニュウっと伸びて来たひとの手が彼の首を絞めるのだ。
「裏切るのは無しだぜ、この悪魔が! まさかまだ足らんと言うのか!?」
高橋はハッと天井を掴んで起き上がった。しばらく呼吸を忘れていたのか、喉を許容量いっぱいの酸素が通過する。心臓も破裂しそうだ。彼は自分の首を触った。絞められた感触が残っていた。
:12/01/30 07:43 :K006 :90U92pJY
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