これが二人のハッピーバレンタイン
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#1 [我輩は匿名である] 12/02/14 00:07
さて、記念日だしSSでも投下するか。
拙い文章ですが、読んでくださると幸いです。
#2 [我輩は匿名である]
「うー、さみぃ〜」
誰が考えたかバレンタイン――
女の子が好きな男の子にチョコレートを渡すなんていうくだらない行事は、今年もやって来た。
いつもと同じように街を歩いているだけなのに、今日はやけにむなしくなる。
それもこれも、傍目に映るカップル達のせいだろう。
しばらくして目的の場所に着く。
ここは片側三車線の交差点。昼夜を問わず交通量は多く、交通事故も後を絶えない。
所々へこんだガードレールが目立ち、花が供えられたりもしている。
「うーん、今日は平和だな」
その交差点の一角に腰を下ろし、車の流れを追うのが俺の日課だった。
バレンタインに独りぼっちであろうと、俺はこの日課を休むつもりはない。
:12/02/14 00:08 :P01A :dIseR72.
#3 [我輩は匿名である]
『これあげるね』
ふと聞こえてきた声に、俺は跳ねるように振り返った。
『五年ぶり……だね』
そう言いながら彼女は屈み込み、側にある電柱の脇に小さな包みを置いた。
『ねぇ知ってる? 最近、ここで事故が起こる回数が減ってるんだって』
白のダッフルコートを身に纏った彼女は、次々と言葉を紡いでいく。
『五年前に比べて三分の一になったんだって。車は減ってないのに……なんだか嘘みたいだね』
優しげ笑顔の中に、どこか儚さを含んだ彼女の顔を見て、俺は彼女のことを抱き締めてやりたい衝動に駆られた。
『私はね、ここで事故が減ったのはキミが守ってあげてるからだと思ってるんだ。優しいキミには見過ごせないだろうなって』
そっと包み込むように彼女を抱き締めようとするも、それは敵わない。
『でもね……私、思うの。いくら事故が減ったところで、もう……――』
そこまで言って何かが切れたのか、彼女はポロポロと涙をこぼし始めた。
『もう……っ、五年も前なのに……私はまだ、キミの事が、忘れられないの……っ』
人目をはばからず涙をながし、それでも笑顔を作り続ける彼女に向かって、
「ありがとう」
届くはずのない感謝の言葉と、
「でもな、もう五年も経つんだ。俺の事は早く忘れて、お前の幸せを考えてほしい。――それが俺の幸せだから」
別れの言葉を手向けた。
その日以来、この交差点で彼女の姿を見ることはなかった。
【これが二人のハッピーバレンタイン】〜fin〜
:12/02/14 00:10 :P01A :dIseR72.
#4 [我輩は匿名である]
エピローグ
――十年後。
『これあげるねっ』
今日も今日とて日課に励んでいた俺の後ろから、可愛らしい声が飛んできた。
「あっ――」
振り返って見つけた小さなお姫様を見て、俺はにっこりと微笑むのだった。
:12/02/14 00:11 :P01A :dIseR72.
#5 [我輩は匿名である]
もう一つのエンディング。
人目をはばからず涙をながし、それでも笑顔を作り続ける彼女に対し、俺はそっと頭を撫で続けた。
「ごめんな、悲しい思いさせて……」
『……っく、……ひっく』
『――おいっ、危ないぞっ!!』
二人だけの世界を引き裂くように、上ずった声が聞こえてきた。
はっと振り返って交差点に目を向ける。
「――っ!!」
そこで視界に入ってきたのは、蛇行運転をした車が今まさにこの空間に飛び込んでくるところだった。
:12/02/14 00:15 :P01A :dIseR72.
#6 [我輩は匿名である]
折れた電柱。
ガードレールごと歩道に乗り上げた車。
割れたガラス張りのショーウィンドウ。
血まみれになった彼女の死体。
『ひどい有り様だな……』
『おいっ早く救急車呼べっ!』
『救急車って何番だ?』
集まってきた野次馬の喧騒の中、俺は悠然と空を見上げる。
「これでずっと二人一緒だな」
乾いた笑い声を漏らしながら、俺はゆっくりと天に昇った。
バレンタイン――
それは俺にとって誕生日であり、命日であり――
新たな記念日になった。
【これ“も”二人のハッピーバレンタイン】〜fin〜
:12/02/14 00:18 :P01A :dIseR72.
#7 [我輩は匿名である]
終わりです!
えっ? 短い?
……ごめんなさい、それは許して。
皆様の今日という日がハッピーであればと願います。
それではお休みなさい。
ちなみに俺は独りぼっちだけどなっ!
くそぉ〜〜
:12/02/14 00:22 :P01A :dIseR72.
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