復讐山

午前2:53

田中肇はパソコンの電源をオンにした。
青白い光に照らされた田中肇はまるで死人のようだった。

2人の検死官はギャーっと声を上げた。若い男の遺体は眼球をキョロキョロ左右に動かし、ゆっくりと起き上がった。胸は切開されたままだった。

魂だけだった田中肇は、意外とあっさりと元の肉体に戻れることに少し驚いた。2人の検死官の驚きはそれ以上のようだが、彼はとにかくこの部屋から出たいと思った。

田中肇は、当然だが身体中に違和感を感じていた。しかし意外なことに切開された胸はさほど痛く感じなかった。恐らく、一度剥がした魂をもう一度定着させることはそう簡単では無いのだろう。そして、肉体をコントロールすることの難しさを改めて感じた。食欲や睡眠欲、そして性欲が一気に沸いてきたのだ。

ホラー映画に出てくるゾンビそのものだった。男性の検死官はメモ帳を放り出し、一目散で部屋から逃げた。女性の検死官が取り残され、彼女は目の前の理解不能の存在と対峙した。

「へっくふ…、やらへろ…、せっくふ…、やらせろ…」
田中肇は肉体の本能の赴くままに女性の検死官に覆い被さった。白衣を無理矢理剥ぎ取り、そこに見えた女性の肌に、強烈な興奮を覚えた。

だが、田中肇の肉体は、ホラー映画のゾンビのように腐っても動く代物ではなかった。切開された胸からの出血により、徐々に肉体の動きが弱まってきた。田中肇は、肉体に定着しきっていない魂の側から、死んで行く自分の肉体を哀れに思いながら見下ろしていた。しかし生殖器は命を繋ごうとしていた。

女性の検死官には、ひとには言えない秘密があった。それは、若い男性の身体にメスを入れると、濡れるということだった。

この状況に対して恐怖を感じる反面、自分の上で息を荒げる、胸を切開された若い男の肉体に興奮している自分もいた。
複雑な心境だったが、下半身は確実に、彼のものを受け入れる体勢になっていた。しかし突然、彼は二度目の死を迎えたのだった。

田中肇の魂は、完全に停止した自分の肉体に名残惜しい気持ちも当然あったのだが、ギリギリのところで童貞を卒業出来なかったことが何よりも悔やまれた。