月と鼈
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#1 [鴉] 12/08/31 17:34
月と鼈
つきとすっぽん
どちらも形は丸くて似ているが、実質は比較にならぬほどかけ離れて違っていることのたとえ。
#2 [鴉]
『月』
田村真琴。
ごく普通のサラリーマンとごく普通の主婦の間に産まれ、ごく普通の家庭で育ち、ごく普通の高校に通っている、ごくごく普通の男子高校生だ。
そんな真琴が通う黒沢高校に天使が舞い降りた。
腰まである長い黒髪。透き通った白い肌。長い睫毛。ピンクの唇。
彼女が噂の転校生、3年A組の城田菜穂子だ。
:12/08/31 17:56 :N03B :☆☆☆
#3 [鴉]
真琴はすぐに菜穂子に惚れた。
いわゆる一目惚れだ。
もちろん真琴だけではない。
大半の男子が彼女に心を奪われた。
しかし高嶺の花に手を出そうとする者はいなかった。
真琴も同じだ。
自分みたいな普通レベルの人間が手を出してはいけない、と思った。
遠くから眺めているだけで十分だった。
通学中、前方に菜穂子の姿を発見した。
美しいロングヘアーをなびかせながら自転車を漕いでいる人物を彼女だと気付くのに時間はかからなかった。
真琴はペダルを漕ぐ速度を落とした。
二人は一定の距離を保ちながら自転車を漕いでいる。
すると気配を感じたのか、菜穂子が後ろを振り向いた。
キキッ
「わっ。」
菜穂子が急に止まった為、真琴も慌てて急ブレーキをかけた。
菜穂子は大きな瞳をさらに見開き、驚いた表情で真琴を見ていた。
「健…?」
彼女の微かに動いた唇がそう発した。
:12/09/01 21:03 :N03B :☆☆☆
#4 [鴉]
「へ?」
思わずまぬけな声を出してしまった自分を真琴はひどく悔やんだ。
「あら、ごめんなさい。知り合いに似ていたので…。人違いでした。」
「あぁ、そうですか…。いえ、大丈夫です。」
菜穂子は軽く微笑むと再び自転車のペダルを漕ぎ始めた。
真琴は自転車に跨ったまま立ち尽くしていた。
あの憧れの彼女と言葉を交わした。
何とも言えぬ気持ちが胸の中に広がった。
しかしすぐにその気持ちは消えた。
「健…?健って誰だ?誰と間違えたんだ?」
元彼だろうか。
そんなに自分と似ていたのか。
真琴は気になって仕方がなかった。
:12/09/01 21:11 :N03B :☆☆☆
#5 [鴉]
「っあー!健って誰なんだよ!」
バンッと机を叩いた手がジンジンと痛んだ。
「あぁ?誰だよ、健って。」
「俺が知りたいよ!」
その日の放課後、真琴は親友の長田和也の家にいた。
「…なるほど。そういうことか。ていうか城田菜穂子に惚れてること、何で俺に教えてくれなかったんだよー。」
にやにやしながら長田はコーラを一気飲みした。
「別に付き合いたいとか告白したいとか思ってないし、もしかしたら長田も城田さんのこと好きかもしれないかもじゃん。」
「そんなこと心配してたのかよ。俺はな、もっと可愛らしい感じの女が好きなんだよ。確かに城田はスタイル抜群だし恐ろしいくらい美人だけどよ。」
:12/09/01 21:27 :N03B :☆☆☆
#6 [鴉]
その言葉を聞いて真琴はほっとした。
「好きなんだろ?付き合いたいとか思わないのかよ。」
「いや、そりゃ付き合えるものなら付き合いたいよ。けどそんなの無理に決まってんじゃん…。」
「なんだよ、そんなのわかんねーじゃん。最初から諦めんなよ!」
そう言い、長田はバシッと真琴の背中を叩いた。
:12/09/01 21:37 :N03B :☆☆☆
#7 [鴉]
「頑張ってみろよ。応援するからよ。」
長田はニカッと笑った。
黒い肌に白い歯が映えている。
「うん、ありがとう。よーし!ダメ元で頑張ってみるかー!」
「そーだそーだ!当たって砕けろー!」
二人の少年は、朝が来るまで狭い部屋で暑苦しく女子のように、いわゆる恋ばなに花を咲かせていた。
:12/09/01 21:43 :N03B :☆☆☆
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