ゆきな

寒い日のことでした。
一人の女性が涙を流しながら道端に倒れていました。
しかし、その顔は誰が見てもわかる綺麗な笑顔だった。
道行く人はみな、不思議そうに
気持ち悪そうに、誰も女性を救おうとはせず女性を囲むように見ていた。

｢勉強しなさい!!｣
｢ゆきな、もっと早く帰ってきなさい!!｣
｢はぁ、お母さんだってゆきなの方が
頭いいって、かなに言いたいわ。
でも、実際妹のかなの方が頭いいし。
恥ずかしくないの!?｣

私が学校から帰ってくるたびに、そう怒鳴る母親。
どんなに勉強したって敵わないなは敵わないのだ。
いっそ、逃げ出したい…

ゆきなはいつも、青空を見上げそう思っていた。

そんな日常を抱えていた時だった。
ゆきなはこの日、学校から家に帰ってる途中だった。

｢きゃっ、ぐわー｣
奇声を発しながらこちらに向かって
歩いてくる少女がいた。
ゆきなは怪訝そうな顔でその少女を見た。

その少女もゆきなに気づき、二人は見つめあった。
見つめあったといっても数秒間だけだ。
少女はまた奇声を発しながらゆきなの横を
通りすぎた。

｢っ…｣
ゆきなはその少女を見て、
今までの自分の考え方、認知が
覆された気分になった。

学校の前で
あのようにはしたない声を発して。
見つめあった時、あの少女の目。
人がいる。
でも透き通った目をして人がいても
関係ない。
奇声を発しながら歩きだしたから
恥ずかしいという感情さえも感じないのか、
すごく生き生きとしていた。

ゆきなは小学生5年生だ。
小学生5年生だから羞恥心が出てくる時期でもある。
しかし、母親が言う｢恥ずかしくないの!?｣
は羞恥心という感情より
傷つく言葉というか、ゆきなにしか分からない感情が
ゆきなの胸を縛り付ける。

ゆきなはその少女のあとを追いかけた。
｢あのう!!｣
大きい声で少女に向かって叫んだが
気づかないなか振りかえってくれない。
ゆきなは必死に追いかけ、
少女の肩をひいた。

その時だ。

｢キャー！｣
少女はそう叫びながら泣き出し、
地べたに寝ころび両手をバタつかせ
暴れだした。

とんでもないことをしてしまった…
ゆきなは怖くなり、
学校に戻って職員室にいた先生をに
助けを求めた。

隣のクラスの先生と校長先生が
ついてきてくれた。
｢あっ、あの子は…｣
隣のクラスの先生、堀田先生が校長先生に
耳打ちをした。

｢○小学校特殊学級の生徒です。
なぜここに？｣
｢うむ。どうするべきか。｣
先生たちは○小学校に電話をした。

その間、ゆきなはその少女をじっと
見つめていた。

ゆきなは早速、今日会った少女について母親に話した。

｢すんごくビックリしちやった！｣
｢ゆきな、そういう子とはあまり
関わっちゃダメよ。｣
｢どうして？｣
｢女の子だからよかったけど
大の男の人だったら逃げるのよ。
わかった？｣
｢うん…｣

その日、ゆきなはあの少女の姿を
何度も思い出してやっと眠りについた。

ゆきなは今日の放課後、○小学校に行く決心をした。
あの少女についてもっと知りたい。
そう思ったからだ。

○小学校の先生にバレないように、
工夫しながら門を通り、校舎へ入った。
中庭まで歩いた所だった。
｢君、だあれ!?｣

背筋が凍るようだった。
声からして低学年の子どもだろう。
ゆきなは顔を合わせないように答えた。
｢ここに用があって。｣
｢ふうん。でも先生に見つかっちゃうよ｣

えっ!?
ゆきなは焦り、何度も何度もその場を
離れたり戻ったりした。
｢ここにおいでよ!!
一緒に遊ぼう♪｣

男の子があまりにも人懐こい話し方なので、
ゆきなはその声に引かれて行った。

｢ぼくねー2年生なんだ。
お姉ちゃんは？｣
｢5年生だよ！｣
二人で塗り絵をしながら
テレビのこと、学校のことについて話した。