月と負け猫

私のご主人様は本当はとても優しい
でも私の前でだけ...
ツンツン尖って冷たいフリをして
いつも強がっている

本当に冷たい人は
雨の中びしょ濡れになって薄汚れた
シッポの切れた野良猫を
拾って帰ったりしないでしょ？

有名なブランドのショップに入った。
制服の女子高生を追い出しはしないが、誰も接客につかない。思ったとおり。
でもこんなお店に近寄った事もないから買い方も分からないし、触っていいのかも分からない。

「あの、、、」

「え？あ、はい？
何かお探しですか？」

やる気のない素っ気ない返事と対応にムカついて、

「これとこれとこれとこれと、
あれとあれとあれとあれ下さい」

って目に入ったやつ全部指差してみた。

「は！？全部ですか？」

「まだあるからそれも」

店員を連れて気になったもの全部用意させたら奥にある個室に通された。フカフカのソファーに座ってクローゼットで服や靴を試着して現金で買った。

通学カバンから大金が出てきて店員さん達はみんな「何の金だ？何か悪い金じゃないのか？」みたいな顔をしていたから可笑しかった。

まだまだ私から貧乏の臭いがプンプンするんだろう。お金がなかったから自分で切って染めた髪や覚えたてのツケマやメイクじゃあそれも仕方ない。

そこを変えてみようと思った。

目の前にあった美容室に入った。

「今日はどんな感じにされますか？」

「全部変えて下さい
今とは全然違う感じ、
お金持ちに見えるようにというか
お金ならいくらでもあるから
私に似合うようにお任せします」

「そうですね、、
前髪は長くされてるのも
とてもお似合いですが
パッチリした目を強調して
お人形さんぽく切っても可愛いかな」

「お人形？」

「そう、髪は長さは残して
バラバラになってるのを整えて
色はアッシュ系の明るめに染めて
ふわふわって巻いて...」

よく分からないから全部任せた。
カラーの待ち時間を使ってハンドケアやネイルもしてもらって、ヘッドスパやエステやメイクも全部お願いした。

お姫さまになったような気分になって、お金持ちってこんなに気持ちがいいんだな。頭から足の先まで全部磨けるところを磨いて新しい私が鏡の前にいた。

「うわ...これが私？」

「そうですよー
土台が良かったから磨き甲斐があって
こんなに楽しい仕事をしたのは
久し振りでしたよ
めっちゃ可愛いです！」

本当に可愛い。
自分だと思えなくて誰かを見て可愛いと思うような不思議な感覚。これが私？

「お人形みたい」

「メイクも無理をして
ツケマするよりエクステで
端に長さを持たすだけでいいです
ラインも細く間を埋めるだけで
元々の素材が引き出されますよ」

他にも色々アドバイスもらった。
オシャレって大変だな。でもこんなに可愛いくなるんだったら頑張らないと。化粧品も全部変えよう。
今の私に相応しい物に全部変えよう。

全部全部棄てて全部新しくしよう。

生まれ変わって生きる。

過去は棄てた。
あの汚ならしい奴らも記憶も。

「今夜行ってもいい？」

先生から連絡がきた。

「いいよ」

この私を見たら何て言うかな。まあ、私のこんな変化に興味ないか。

私も先生が髪を切っても全然興味ないし。坊主にしても興味ない。女装して現れたらさすがに突っ込むと思うけど、何を着ようが何を持とうが興味がない。

それは当然だよね、だってただの遊びで気持ちいい事する為だけの相手だもん。そこには、私の悪意しかないから。

帰り道にある色んな店のショウウィンドウに映る自分を何度も何度も見ては自分の変わった姿に満足した。

もっと可愛くなりたい。
自分に似合う物を知りたい。

そして男を利用してやる。どうせ男なんてヤりたいだけの生き物で、可愛くてスタイルが良い女に発射したくてたまらないだけの馬鹿な存在。

今すれ違った男も今声をかけてきた馬鹿も男は皆ヤりたいだけ。だから私は私が優位で選んだ良い男と私の好きな時にだけ、セックスさせてあげる。

先生は記念すべき第一号。

第一号に相応しい相手だと満足してる。見た目も回りの評判も、妊娠中の奧さんがいるって状況も先生と生徒っていう関係とか禁断な感じも全部完璧。

妊娠中で禁欲状態でしかも里帰りしてて、絶対タブーな相手としかもピチピチなJKとまるでAVのようなセックス三昧な日々。
私とこの生活を始めるまではそんなAV見ながら自分でシコッてたんでしょ？好きな場面のタイミングを計りながらを右手で握って、左手は玉とか乳首いじりながら気持ち良くなっては我慢して気持ち良くなって我慢して。ウケる。

今日はセックスしてあげない。
毎度ヤれると思ったら大間違い。

スーパーに寄って色んな食材とお酒を買って帰った。今日は手料理を振る舞ってあげる。そろそろ手料理とか温かい事に飢えてるはず。
別に喜ばせたいんじゃない。私が作りたい気分だったのと、先生をより私に癒着させたいだけの作戦。

いつかどんな形で来るか分からない落とし穴の時の為の演出。どうせ来るのなら盛大に落としたいし、一生私という存在を忘れられなくさせたいから。