3億当たった男の愛人になった

彼がまだ、サラリーマンだったとき、

彼はいつも、目先のことを考えてた。

でも結局、脱サラした後も、

落ちぶれた今も、これからも、

根本的なトコは変わらない。

確かに、その案件はキツかった。

包み隠さず言うと、

まぢで、ちょー、ハンッパなくキツかった！！

二度とやるかこんな仕事！！

ふざけんな！
大体2年目だぞ！！

訴えるぞ！

って感じだった。

毎日帰りが遅く、お父さんお母さんが心配してくれていた。

終電を逃した日は彼氏に実家まで送ってもらっていた。

睡眠時間は3時間なんて日がカナリ続いた。

出勤すれば朝から客の電話の嵐。
問い合わせの資料作成。
メーカーとの打合せ。

現場の様子を見る時間がほとんどなかった。

そんな中、現場を支えてくれたのは水口さんだった。

水口さんは現場になかなか行けない私に、進捗報告と、問題を教えてくれてた。

水口さん「もりやん。」

みんなが私を下の名前で呼ぶ中、水口さんは私を上の名前で呼ぶ。

水口さん「あんま無理しないで。」

私「...。」

はー？？
こんっな弱ってるときの私にその低い声で、優しいこと言わないでっ！

私の中で何かが倒れた。

私はその場で泣きじゃくった。

ひっひっひってなった。

こんな泣いたのは社会人になって初めてだ。

そうだ。
今、私が潰れたらこの案件は滞るかも。

けど、自分が潰れてもお客さんは待ってくれないし、今更できませんなんて言えない。

自分にしかできないことがある方が悪いんだ！

泣きながら、自分が抱えてるもの、人に頼り切れていないところ、全部に腹が立ってきた。

水口さんはそれを伝えたかったのかな？

よく、分かんないけど。

私はまず水口さんに自分が抱えてることを落とすことにした。

次の日からどんどん水口さんに事務作業を落としていった。

やっぱり、現場をやってると理解速度が速い。
メーカーの気持ちも、お客さんの気持ちも、現場の気持ちも分かる。

現場をやってるからじゃなくて、水口さんだから分かるのかな。

お客さんとの打合せで、水口さんを初めて同席させた。

打合せ慣れしてない水口さんは、ちょっとヒヤヒヤする場面もあったけど、上手く現場のことをお客さんに伝えてくれた。

現場を理解してくれないお客さんに、水口さんがちょっとヒートアップしちゃう場面もあったけど、それは私が抑制してた。

課長「あれだな。森谷と水口は名コンビになってきたな。」

打合せ後に課長が笑顔で言ってきた。

課長「あのうるせー客を黙らせたんだから、大したもんだよ！」

課長がぼんっと背中を叩いた。

なんか、嬉しかった。
課長なりに誉めてくれてるってことと、水口さんとコンビになれたことが、嬉しかった。

約5ヶ月に渡る案件だったけど、無事に完了した。

次回もうちの会社にお願いしたいと、森谷にお願いしたいと、お客さんが言ってくれた。

誇らしかった。

お客さんにとっては、窓口が私なだけで、他のメンバーの名前は出てこなかったけど、みんなを認めてもらえた。

それが誇らしかった。

あったりめーだばかやろ！
どんなメンツが揃ってるか確認してから再度お礼に参りやがれ！

って心の中では思った。