ぎんいろのおおかみ〈}イラスト付きBL}〉
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#220 [☆Cocomo☆MILK☆]
不意に頭に響く声色
ハッとして男を見るが、変わらず狼に向けて刃物を振り回している
どうやらこの声は自分だけに聞こえるものだと確信し、輝夜は慌てて立ち上がった
「そう…だけど」
もしもここでそうだと答えるのなら、男は間違いなく噛み殺されてしまうだろう
背後に転がったもう一人の男の死体に、輝夜は言葉を飲み込んでしまった
:07/08/31 12:34 :W51S :☆☆☆
#221 [☆Cocomo☆MILK☆]
確かに男達に陵辱されかけたのは事実だ
暴行を受け、媚薬まで飲まされた
しかし、だからといって殺してしまうなどという決断は下せない
「だけど…」
乱れた羽織の裾を握りしめ、歯切れの悪い輝夜に狼がウロウロとせわしなく動き回る
「でも…」
(だが、なんだ!)
苛立ちにも似た声色と共に、狼がガァッと牙を剥き吠える
「ひぃっ…!!」
男は目の前で威嚇され、 余りの恐怖に刃を投げ出した
:07/08/31 20:30 :W51S :☆☆☆
#222 [☆Cocomo☆MILK☆]
(こいつは生かす価値もない!いずれお前を殺すつもりだったんだぞ!)
鋭い牙を剥きグルグルと睨み付ける狼に、男は殺さないでくれと何度も首を振った
そのあまりにも無情な姿に、輝夜の胸がつきんと痛む
(こんな奴、噛み殺してやる!)
「うわぁぁ!!」
「やめて!」
狼が男に襲いかかるのと、輝夜が走り出したのはほぼ同時だった
:07/08/31 20:35 :W51S :☆☆☆
#223 [☆Cocomo☆MILK☆]
伸ばした両手がガシッと白銀の尾を捕まえた
半ば倒れ込む形でその長い尻尾にしがみついた輝夜に、男の喉元へ口を開いた狼が振り返る
(なんのつもりだ)
「確かに…ひどいことされた…けど…殺すなんて…出来ないよ」
蜂蜜色の瞳から、ポロリと涙が零れ、狼の尾を濡らす
「駄目だ、セツ…お願い…」
(……………)
祈るように見つめられ、狼はスッと口を閉じた
:07/08/31 20:42 :W51S :☆☆☆
#224 [☆Cocomo☆MILK☆]
そのまま静かに身を引いた狼に、小刻みに震える男の体から力が抜ける
そうして余りの恐怖に解放され、そのまま気を失うように地面へと倒れた
(…………)
狼はしばらく倒れた男を見つめ、握りしめられた尾を離せと言うように、ぴしゃりと長い尻尾を振った
もしかして怒らせてしまったのだろうか
「あの…セツ……」
絞り出すような声に、狼はクッと顎を反らせ、輝夜の胸に擦り寄った
:07/08/31 20:52 :W51S :☆☆☆
#225 [☆Cocomo☆MILK☆]
フワフワした堅い毛並
グイグイと胸に身体を押し付けられ困惑していると
(乗れ)
「え…?」
首をかしげた輝夜に呆れ、狼は無理矢理グイと輝夜の身体を自分の背に押し上げた
「う、わっ…」
ぐらりと身体が傾くも、どうにかバランスを保ち首にしがみつく
「セツ…一体…」
(帰るぞ)
「えっ…帰っ…?わぁっ!」
聞き返す前に身体が大きく揺れる
そのまま狼は地を蹴り走り出した
:07/08/31 20:59 :W51S :☆☆☆
#226 [☆Cocomo☆MILK☆]
―――――――――――――――………
辺りはすでに真っ暗だった
厚い雲が月をぼんやりと霞めるなか、狼は森を駆け抜けた
その背に乗った輝夜はめまぐるしく変わる景色とスピードに耐えるように必死にしがみついていた
目を閉じてもぐんぐん感じる風の速さ
経験したことのない感覚
もう気力が持たないと感じた頃合いにゆっくりと狼の歩が緩まった
(大丈夫か?)
:07/08/31 21:44 :W51S :☆☆☆
#227 [☆Cocomo☆MILK☆]
声をかけられ目を開くとそこには見覚えのある洞窟
たった1日なのに、もうずっとここへ来ていないような気がする
同時にホッとする安堵感
輝夜はゆっくりと地に足を着けた
「うん、なんとか…大丈――――…」
言いかけ、ぐらりと目眩が襲い足元が崩れた
(輝夜!)
「ごめん、なんか安心しちゃって…」
労るように低く喉を鳴らし擦り寄った狼に笑みを向ける
:07/08/31 22:14 :W51S :☆☆☆
#228 [☆Cocomo☆MILK☆]
そのぎこちない笑顔に狼はふっと息を吐き
(少しここで待っていろ)
と倒れた輝夜を一人残し、洞窟の中へと消えて行った
輝夜はゆっくり息を吐き、天を仰いだ
雲が厚いせいか、星はひとつも見えなかったが、またこうして夜空を見上げることが出来るなんて思いもしなかった
初めに思ったのは生け贄の儀式の前夜
次に地下牢に閉じ込められたとき
もう二度も死を覚悟していた
:07/08/31 22:21 :W51S :☆☆☆
#229 [☆Cocomo☆MILK☆]
それでも、まだ自分は生かされ続けている
母親の復讐の為だけに今まで生きてきた
それも今となっては意味を成さない
『妖魔の子供だ』
あの老人が言った言葉が胸に突き刺さる
まるで化物のような目で自分を見つめ、嫌悪する
輝夜はふと目を閉じ、頭を抱えた
一体この先自分はどう生きていけばいいのか―――――…
「…考え事か?」
足音と共によく通る声が響き、顔を向ける
:07/08/31 22:30 :W51S :☆☆☆
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