危ナイ兄弟愛ノカタチ:)BL
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#801 [東脂ヤ転
『よく考えてみろよ…この写真が公になった時、静人の仕事には支障が出るんじゃないか?』
その時ふ、と北原の言葉を思い出し俺の顔からは笑みが引いていく。
そしてその言葉が、母さんにも当てはまることに気付く。
[もしも…あの写真が母さんの目に入ったら…]
それだけじゃない。
母さんの会社に出回ったりしたら多大な迷惑をかけることになるだろう。
「やっぱ…北原と付き合うしか方法は無いんだよな…」
溜め息混じりにそう呟くと寂しさと不安で急に押し潰されそうになり、俺は足早に階段を駆け上がった。
:08/10/05 20:03
:W52P
:3IIvUxCU
#802 [東脂ヤ転
ーガチャ…ッ
嫌な不安を取り払うように俺は一番近くの部屋のドアノブを回し、飛び込むように中へ入った。
「…あ」
すると、妙に気持ちが落ち着く香りがすると思ったら間違えて静兄の部屋に入ってしまったことに気が付く。
「ハッ…疲れてんのかな…俺」
そう自分自身に苦笑すると向きを変え、部屋を出ようと再びドアノブに手をかけた。
しかし不思議なことに、この部屋ではさっきまで自分の中にあった変な緊張感が少し和らいだように思えた。
[これって…静兄パワー!?]
なんてふざけたことを考えて小さく笑うと俺は静兄のベッドに飛び込んだ。
:08/10/06 08:48
:W52P
:7OV0eUGI
#803 [東脂ヤ転
俺のよりも遥かに広いベッドは、一番静兄の香りが強くて俺の心を落ち着かせてくれる。
「これってちょっと変態チックだよな…」
ベッドにうつ伏せたまま俺は一人呟いてはまた小さく笑い、そんなことをずっと続けていた。
その内静兄の香りの中に居るにつれ、目に見えない静兄に抱きしめられているような思いに駆られる。
心地良いまどろみの中、目を閉じていると突然睡魔が襲ってきた。
俺はそれに逆らうつもりも無く、ゆっくりと眠りに落ちていく。
:08/10/07 08:20
:W52P
:1nGIacXs
#804 [東脂ヤ転
暫く目を閉じていると静兄の姿が浮かんできた。
少しくせのかかった黒髪に黒い瞳、スラッと長い手足に高そうなスーツ。
俺の中の静兄はいつも決まってそのスタイルだった。
カッコ良くて優しくていつも側に居てくれる静兄。
そんな静兄は今や俺にとって、男としても理想の人となっていた。
それなのに…
『当たり前だろ。俺はお前さえ手に入れば、それで十分なんだから』
北原の言葉が再び俺に襲いかかる。
俺はそんな優しい静兄を裏切ろうとしているんだ。
:08/10/12 00:28
:W52P
:VW4YMCrU
#805 [東脂ヤ転
俺が北原と付き合う、と言ったら静兄は何と言うだろう。
多分俺に理由を問いただして、北原を殴りに行くに違いない。
いや、それよりも先に失望されるかもしれないな。
静兄に何の相談もせず、勝手に決めてしまったことだ。
「本当に俺のことを好きなのか?」と疑われたっておかしくない。
でも…本当は分かって欲しい。
静兄のことが大切だからこそ、守りたいって思うんだ。邪魔をしちゃいけない、迷惑をかけちゃいけないって思うから…。
こんな不器用なやり方でしか静兄を好きな気持ちを表現出来ない俺は、何て情けないんだろう。
眠りと思いの狭間で俺はまた苦しくなって涙が溢れた。
:08/10/13 00:11
:W52P
:WavzRs0Q
#806 [東脂ヤ転
その時だった。
「……ッ!…んん…ッハァ…ッ!!」
俺は突然息苦しくなり身体を捩(よじ)らせた。
しかし上から何かの重みがかかり、思うように身体が動か無い。
寝ぼけまなこな俺も流石に変だと思い恐る恐る瞳を開けてみる。
するとそこには、俺が今会いたくてたまらなかった人が妖しい笑みを浮かべていた。
「……静…兄」
俺はゆっくりと口を開いた。
その名前を呼ぶだけで何故か胸が酷く締めつけられる。
:08/10/13 08:16
:W52P
:WavzRs0Q
#807 [東脂ヤ転
「クスッ…全然抵抗しないなんて、よっぽど疲れてたんだな」
そう言って笑った静兄はゆっくりと俺から身体を離す。
その言葉の意味も分からず俺がまだ茫然としていると、静兄は自分の唇を舌で舐めた。
「……あ!!」
何となく自分の唇に触れてみるとうっすら湿っているのが分かり、その時初めて静兄にキスされていたことに気付く。
同時にとてつもなく恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じる。
「顔、赤いぞ?」
静兄は締めていたネクタイを緩めながら目を細める。
俺はその余裕の態度に腹が立ち、近くにあった枕を静兄目掛けて投げつけた。
:08/10/13 12:43
:W52P
:WavzRs0Q
#808 [東脂ヤ転
「あれか…鳴は照れると枕を投げるんだな」
「うるさい!!
人の寝込みを襲うとか卑怯だぞ!!」
「卑怯って…クスクスッ」
「笑うなぁーーーッ!!!!」
俺はベッドの上にあるだけの枕を投げつけた。
でも効果は全く無くて、むしろ静兄は楽しそうに俺を見つめていた。
その後もありとあらゆる、静兄に対する不満を抗議したんだけれど、静兄はただ微笑みながら着々と着替えをしていた。
そんな静兄の様子から本当は目を離すことが出来ない俺は、照れ隠しにくだらない話を続ける。
:08/10/13 17:15
:W52P
:WavzRs0Q
#809 [東脂ヤ転
「大体、静兄はいつもさぁ…」
そこまで言うと俺は言葉を飲み込む。ちょうど静兄がシャツを脱ぎ、その肌が露わになった時だった。
男の俺が見ても思わず「綺麗だ」と言ってしまいそうになる程、静兄の身体は美しい。
同じ男なのに俺とは全く違う造りをしているようだ。
「いつも…さ…」
頭では話を続けようとしているのに目が静兄から離せない。
そんな俺の異変に気付いたのか、いつの間にか静兄は俺の方に向き直って居た。
「何?見とれてるの?」
静兄は俺の心を見透かすような笑みでそう言う。
:08/10/13 21:40
:W52P
:WavzRs0Q
#810 [東脂ヤ転
「バ…ッ…だから…!」
静兄のその言葉で一気に現実に戻った俺は、再び近くにあった物を投げようと手を振り上げる。
しかし今度はさっきと違って、その腕をしっかりと静兄に掴まれてしまった。
更に勢い余って俺は静兄に押し倒されたような体制になってしまう。
「…鳴」
さっきまでの余裕しゃくしゃくな静兄から一転して、静兄は真剣な表情で俺を見つめる。
突然の静兄の変化に俺は急に不安になる。
「鳴…お前何かあったのか?
さっきお前、泣いてただろ…?」
静兄は真剣な眼差しで俺に訊く。
いきなり率直な質問に俺は言葉が出ず応えられない。
頭では北原のことが浮かんでいるのに。
:08/10/13 21:50
:W52P
:WavzRs0Q
#811 [東脂ヤ転
「別に…ちょっと嫌な夢見てただけだから…」
静兄の真っ直ぐな瞳から逃げるように目をそらすと、俺はとっさに嘘をついた。
今ここで北原のことを打ち明けるわけにはいかない。北原のことだ。そんなことをしたら、本気であの写真を流出しかねない。
俺は必死でいつも通り笑ってみせて静兄から身体をのける。
「っていうか…制服のまま勝手に寝ちゃっててごめん!部屋にもどるよ」
この空気に耐えられなかった俺は適当に言葉を濁し、ベッドから降りようと立ち上がった。
これ以上静兄に追究されたら隠し通せる自信が俺には無い。
:08/10/14 08:30
:W52P
:Un.tnOc6
#812 [東脂ヤ転
「じゃ…ってうわぁ…ッ!?」
部屋を出ようと足を前に踏み出したその時、突然後ろ向きに強く引っ張られ俺は再びベッドに倒れ込む。
ゆっくり顔を上げると、真顔の静兄がすぐ近くに居た。
今度は本当に押し倒されたようだ。
「着替えならここでしていけば良いよ」
静兄はそう言うと俺のシャツのボタンに手をかける。
:08/10/14 09:21
:W52P
:Un.tnOc6
#813 [東脂ヤ転
「ちょ…ダメだっ…んぁ…ッ!」
俺は静兄の手を振り払おうともがいたが、いとも簡単にその手を交わすと静兄は俺のシャツを剥ぎ取り、首もとに吸い付く。
覆い被さるようにして静兄は俺の首筋から鎖骨へ舌を這わし、その度俺の口からは情けない声が上がる。
このままじゃまた静兄のペースに飲まれる、と頭では警告しているのに身体が思うように動かない。
まるで全神経を静兄に捕らえられたようだ。
そして静兄の舌は更に下へと進み、俺が弱い部分まで到達する。
「静兄…ッほんとダメだ…って…!んあ…ッ!!」
今の静兄が止めてくれないのを知っているクセに無駄な抵抗を続ける俺。
:08/10/15 08:42
:W52P
:etgL//ik
#814 [東脂ヤ転
そんな俺のことを知り尽くしているかのような笑みを静兄は浮かべ、そのまま乳首を甘噛みしては舌で転がすように舐め上げる。
「ダメじゃなくて、気持ち良いんだろ?」
すすり泣くように喘ぐ俺を見ながら静兄は笑う。
そんな余裕の態度がいつもは嫌なのに今はそれが逆に俺を熱くさせる。
いつだってそうだ。
静兄にはかなわないと見せつけられる度、静兄のことを好きになっている自分が居る。
だから静兄は嫌なんだ。
俺がそうやって悩んでいる姿をいつも愉しそうにからかって来る。
俺はこんなに好き過ぎて辛いのに。
:08/10/15 11:54
:W52P
:etgL//ik
#815 [東脂ヤ転
「も…ヤダ…ッ…あ…ッ」
しかし、こんな時でさえ身体は正直に感じてしまう。
俺は自分のイヤらしさに情けなくて涙が滲んだ。
するとさっきまで肌を舌で弄っていた静兄は、徐に顔を上げて動きを止める。
俺は上がる息を抑えながら両腕で顔を隠した。
泣いていることを静兄に悟られたら絶対に怪しまれるだろう。
俺はあくまでもいつも通りで居なくちゃいけないんだ。いつも通り普通に、静兄の側に…。
ひたすらそんなことを考えていた俺は、その間ずっと俺を見つめる静兄に気付いて居なかった。
:08/10/17 10:28
:W52P
:GaCgF0OM
#816 [東脂ヤ転
「鳴…」
「…ッ…!!」
静兄の手が俺の腕に触れる。それだけのことなのに身体は酷く過剰に反応する。
「鳴…腕どけて」
そんな俺の心境を知ってのことなのか、静兄は俺の腕をなぞるように触れる。
「……何で…?」
俺はゆっくりそう尋ねると、よりいっそう腕に力を入れる。
その間も腕越しに静兄の視線を痛い程感じる。
:08/10/27 08:55
:W52P
:d2OJxAbY
#817 [東脂ヤ転
「こんなんじゃあ、鳴の顔がよく見えないだろ?」
静兄はそう言うと俺の髪を優しく撫でた。
そんな静兄の優しさが嬉しくて悲しくて余計に涙が溢れる。
その瞬間俺の力も抜けて、静兄にゆっくりと腕をどけさせられる。
蛍光灯の灯りに目が眩みながらも俺は焦点を静兄に合わせると、そこにはいつもと変わらぬ笑顔の静兄が居た。
静兄は俺を真っ直ぐ見つめながらその手で俺の頬に流れる涙をすくう。
「ほら…俺って泣き虫だからさ…!」
何をごまかしたいのかは分からないけれど俺は慌ててそう言い、慣れない嘘を並べた。
:08/10/27 09:20
:W52P
:d2OJxAbY
#818 [東脂ヤ転
「確かに」
小さく呟いた静兄は、無理な笑顔を作るその頬に軽くキスをした。
「鳴は本当、泣き虫だよな」
静兄の唇が触れた場所が少しずつ熱くなり、俺の胸も同時に熱くなる。
その唇も瞳も髪も全てが愛おしくて、だから守りたくて大切にしたくて。
俺は静兄の首元に手を回すと身体を起こし、自分からキスをした。
「止めないで…静兄」
俺はそれだけ言うと静兄の胸にもたれかかる。
:08/10/28 09:18
:W52P
:J0EVNoXE
#819 [東脂ヤ転
「鳴がそう言うなら…」
静兄はそう言うと俺を再びベッドに押し倒す。少し驚いてその表情(カオ)を見ると、何故か微かに哀し気な表情に見えた。
「その希望に応えなくちゃな?」
俺はその表情の意味を読み取ろうとしたが、その前に静兄はいつもの奪うようなキスを俺に施した。
こういう時の静兄に俺は特に弱い。
上に静兄の身体の重みを感じながら、俺はゆっくりと瞳を閉じる。
同時に息も絶え絶えに、静兄の唇に応えようと必死によがって見せた。
「…鳴」
静兄の甘い声が脳内に響き俺の身体は熱を増していく。
:08/11/23 17:22
:W52P
:☆☆☆
#820 [東脂ヤ転
「静…兄…ッんぁ…ッ!」
その名を呼ぼうと口を開いた途端、大人しかった筈の静兄の手が俺のズボンを下着ごと引き剥がした。
急に空気に触れたソレは異様に熱を帯びていて、さらに大きさを増したような気がする。
突然のことに俺は凄まじく恥ずかしくて赤くなる顔をまた隠した。
「クスッ…聞き分けのないヤツだな」
そんな俺の反応を愉しむように静兄は笑うと俺のモノに口付ける。
:08/11/23 23:19
:W52P
:☆☆☆
#821 [東脂ヤ転
「静兄ぃ…ッ…ダメだ…って!」
突然襲う快感に俺は戸惑い、気持ちとは逆の言葉を口にする。
しかし静兄はそんな俺の想いを見透かすように目を細めると、ねっとりとしたその舌と唇で執拗に俺のモノに吸い付く。
「もっとシテって言ってみたり、ダメだって言ってみたり…」
静兄は小さく呟きながらも舌の動きを止めない。
「忙しい奴だな…鳴は…クスッ」
静兄の口が動く度、俺は思わず腰を少し浮かしてしまう。
いっぱいいっぱいの俺に対し、静兄は相変わらず余裕の笑顔で愉しそうに俺に話し掛ける。
「静…兄…ッ…あぁ…ッ!!」
そして静兄が口の中で激しく吸い上げた瞬間、頭の中が弾けるような感覚と共に快楽の波が俺を襲った。
:09/02/04 12:49
:auSN3G
:☆☆☆
#822 [東脂ヤ転
:09/02/04 12:50
:auSN3G
:☆☆☆
#823 [東脂ヤ転
「静…兄…ッ…ハァッ」
乱れる息を整えながら、俺は静兄に向けて両手を広げる。
少し驚いた表情を見せたものの、静兄はそれに応えるように俺の身体をしっかりと抱き締めてくれる。
「クスッ…次は甘えん坊か?」
「そ…ッそんなんじゃないよ…ッ!」
照れたようにそう言うと、静兄はまた小さく笑った。
静兄の身体は俺より広くてシッカリしている。俺は静兄の体温に抱かれるというより、その大きな優しさに包まれているような感覚を覚えた。
「…鳴」
抱きあったまま静兄が耳元で俺の名を呼ぶ。
:09/02/05 00:13
:auSN3G
:☆☆☆
#824 [東脂ヤ転
「何か俺に隠し事してないか?」
その時だった。耳元に響く声がさっきまでの甘い声とは一変、鋭く探るような声で静兄は俺に訊ねた。
「え…なんで?」
俺はなるべく悟られぬよう、平然を装って訊き返す。いたって冷静に言ったつもりだったのに、静兄の目にはそう写っていなかったのを俺は気付いていなかった。
「いや、無いなら別に良いんだけど」
そう言って静兄は俺の耳に軽く口付ける。同時に、落ち着いていた筈の身体が再び熱くなる。
「何かあるなら…必ず俺に言えよ?」
「…ッ…ハァ…ッ」
静兄の手が器用に俺の下腹部をまさぐる。心の動きが静兄にバレないよう、俺は目を瞑って熱っぽい声を上げる。
:09/02/07 12:24
:auSN3G
:☆☆☆
#825 [東脂ヤ転
「何があっても俺は、鳴の見方だから」
けして大きくない静兄の声がやけに胸に響いて、俺はまた泣きそうになる。何で静兄はこんなに真っ直ぐで居られるんだろう。静兄を好きだと彩華にさえ正直に伝えられなかった俺に、何でこんな優しいんだろう。
[静兄…ごめん…]
また零れそうな涙を堪えながら、俺は小さく呟く。心の中で。
「静兄…ありがとう」
でもその代わり静兄の腕の中で俺は小さくそう言った。
静兄が俺の中へ入ってゆくのを感じながら。
:09/02/07 12:43
:auSN3G
:☆☆☆
#826 [東脂ヤ転
×見方
○味方
すみませんm(__)m
:09/02/07 12:56
:auSN3G
:☆☆☆
#827 [東脂ヤ転
―――――――――――――
― ピピピ…ッ ピピピ…ッ
「…ん…?」
枕元で鳴り響く機械音に気付いた俺は、無意識に携帯へと手を伸ばす。適当なボタンを何度か押すと耳障りな音が止んだ。
徐々にハッキリしてくる意識の中で何となく、俺は時計に目をやると一気に現実へと引き戻される。時計は既に8時を過ぎていた。
「…っ!ヤバい…遅刻…!!」
:09/02/07 17:19
:auSN3G
:☆☆☆
#828 [東脂ヤ転
「─…ッい!?」
慌てて勢い良くベッドから飛び降りた瞬間、腰に激痛が走り不自然な声を出してしまった。
情けないことに目に涙まで少し浮かべながら腰に手をやる。
[そっか…昨日静兄に…]
そこまで考えると急に顔が火照るのを感じた。昨日は嫌な不安を消し去りたくて、夢中で静兄に抱かれたんだった。でもまさかその代償がこんなカタチで来るとは…。
俺は腰に負担が掛からぬようゆっくりと立ち上がった。
ふ、と隣に寝ていた静兄を見ると穏やかな表情で熟睡しているようだった。
:09/02/07 21:04
:auSN3G
:☆☆☆
#829 [東脂ヤ転
黒く長いまつ毛とその端正な顔に思わず見とれてしまった俺は、ハッと気が付くと静かに静兄の部屋を出た。本当はいつまでもあの寝顔の隣で一緒に寝ていたかったけど、そんな余裕が今の俺には無いことを時計が示していた。
俺は大きく溜め息をつくと急いで自分の部屋へと戻った。とりあえず新しいシャツに着替えようとクローゼットに手をかけたその時、机の上に置き直した携帯がチカチカと光っていることに気付く。
どうやらメールを受信していたようで、俺は乱暴に携帯を手に取った。
:09/02/08 21:20
:auSN3G
:☆☆☆
#830 [東脂ヤ転
しかし次の瞬間、思考回路が一瞬停止するのを感じた。
そこに表示されていた受信メールの送り主は、
「…北…原」
出来れば今最も会いたくない相手だ。その名前を見た途端昨日遭った様々なことが蘇り、再びとてつもない不安を身体が覚える。俺は微かに震える指先でボタンを押し、恐る恐る受信メールを開いた。
― 鳴、おはよう。 まだ家?
メールの内容はたったこれだけだった。しかしその1行のメールの返事に俺は戸惑う。そして少し考えた後、当たり障りの無い返事を返した。
:09/02/09 21:11
:auSN3G
:☆☆☆
#831 [東脂ヤ転
― おはよう。俺今日寝坊したから先行っといて!
送信完了の表示を見て、何故か安堵の溜め息をついた俺は新しく出したシャツに腕を通す。
この家からそう遠くない所に住んでいる北原とは、ここに越して来てから時間が合えば一緒に登校していた。
[でも…さすがに今日は…]
昨日の今日では気持ちの整理がつく筈もなく、今日は出来るなら学校も休みたい程気分は憂鬱だった。
まぁ小学生じゃあるまいし、そんなワガママが通るわけないことを分かっていた俺はなるべく急いで教科書をカバンに詰め込む。
:09/02/10 12:31
:auSN3G
:☆☆☆
#832 [東脂ヤ転
― ピピピ…ッ
「…っ!?」
突然の着信音に俺は驚き、思わず手に持っていた教科書を落としてしまった。
この音はメールの受信音。
[またメール…?]
何となく嫌な予感がしながらも、再び携帯を手に取り開くと案の定送り主は北原だ。さらにメールの内容はさっきと同じように1行だけ書かれていた。
― 今お前んちの前だから、待ってるよ。
「俺の…家の前…!?」
:09/02/10 17:20
:auSN3G
:☆☆☆
#833 [東脂ヤ転
[……なんで…]
俺の頬を嫌な汗が伝う。
恐る恐る、閉めっぱなしだったカーテンに手を掛けそっと開いてみると、丁度向かいの自販機の前に見覚えのある学生服を来た男が立っている。
「北原…」
俺はその姿に小さく呟く。
北原は下を向いたまま携帯をいじっていてこちらには気付いていない様子だ。
― ビビピ…ッ
その時、手に持っていた携帯が再び鳴り始める。
目で北原を見ながら携帯を開くと受信メールが1件。
― 早く出てこないと、インターホン鳴らすよ?
:09/07/30 18:24
:W64S
:ZTYjh7sc
#834 [東脂ヤ転
その文面にドキッとして外を見ると、さっきまで携帯を見ていた北原は真っ直ぐ俺の方を見ていた。
その笑顔から微塵も悪意は感じられず、逆に変な胸騒ぎを覚える。
― すぐ行くからそこで待ってて
素早くそれだけ打ち込んで送信ボタンを押す。
「送信しました」の画面を確認した後、急いで制服のズボンを手に取った。
インターホンなんか押されたら静兄は絶対起きてしまう。今の俺にとって、静兄に気付かれないように家をでることが重要なのだ。
:09/07/30 20:55
:W64S
:ZTYjh7sc
#835 [東脂ヤ転
「よし…っ」
簡単に制服に着替えると制カバンを手に取る。
教科書や辞書なんかは全部学校に置いてあるので、持って行く荷物など僅かなものだ。
忘れ物がもしあったとしてもそんなこと大したことじゃない。どうせ遅刻なのだ。それなら1秒でも早くこの家を出なければ。
慌て過ぎて思わず転びそうになりながらも俺はドアを開けた。
すると、
「あ…おはよ、鳴」
何も知らない笑顔の静兄がそこに居た。
:09/07/31 21:40
:W64S
:Q0uThy8w
#836 [東脂ヤ転
「静…兄」
「…ん?どうかした?」
あまりに驚いてしまったせいで声も出ず一瞬、思考回路まで止まってしまったかのように思えた。
油断してた。
寝てる、と思っていたのに。
それでも意外と早くに頭の中は動き始め、どんどん冷静になっていく自分が居た。
「ゴメン…ちょっと急いでるから」
:10/07/14 01:30
:W64S
:mhPY5WmM
#837 [東脂ヤ転
家を出なくちゃならない。
そればかりが頭の中にあったせいか、静兄が怪訝な表情で俺を見ていたことに気付かぬまま、部屋を飛び出す。
階段を駆け降りて、玄関まで後ろも振り返らずに走り出した俺の頭には北原の顔しかなかった。
焦る気持ちに比例するように心臓の音が早くなる。急いで皮靴に足を入れ、玄関の扉を開けた。その時、
「───鳴…っ!」
カバンを持つ左手がギュッと強く握られかと思うと、開けた扉をそのまま静兄によって再び閉められてしまう。
しかし、バタン、という音を立てて閉じられた扉を前にしても、俺の焦る気持ちは鎮まらない。
:12/01/06 18:39
:W64S
:qAq1Kv9g
#838 [東脂ヤ転
「静兄…離して…」
握られた左手が熱くて、痛い。
掌から伝わる温もりから静兄が俺のことを本気で心配してくれていることが伝わってくる。
いつもならこんなに嬉しいことなんて無いのに…。
「…鳴」
今はその優しさが俺を苦しめる。
「ホントに遅刻しそうなんだって…!」
何とか力を振り絞って言い訳じみたことを口にしてみたけれど、静兄の前では何の意味も果たせずに言葉だけが宙に舞って消え入ったようだった。
:12/01/10 17:25
:W64S
:p.4EmC32
#839 [東脂ヤ転
「鳴、ちゃんと俺を見て」
何も言えなくて俯く俺に、静兄は穏やかな声で話し掛ける。この声に俺が逆らえないのを知っているからだろう。あまりに優しい声色だから思わず泣きついてしまいたい衝動に駆られそうだった。
「静兄…俺……」
でも、
「鳴、何してんの?」
出来るわけなかった。
:12/01/10 17:36
:W64S
:p.4EmC32
#840 [東脂ヤ転
「メールの返事はくれたのにさぁ…出てくるの遅いっての」
後ろから聞こえているのは聞き慣れた声なのに、自分の身体が言うことを利かなくて怖い。まるで身体中の血の気が引いていくような感覚に苦しくなる。
せっかく静兄が閉めてくれたドアに鍵は掛かっていなかったのだろう。さっきまで俺が握っていたドアノブに、今は北原の手が重ねられていた。
「……君は…確か、」
張り詰めた空気の中で先に口を開いたのは、静兄。
「“初めまして”じゃないですよ?」
そして、静兄の言葉に返答したのは、何故か可笑し気に笑っている北原だった。
:12/01/17 16:35
:W64S
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#841 [東脂ヤ転
「北原直樹って言います。鳴と同じクラスなんで、参観日の時に俺のこと見ませんでした?」
淡々と、不自然な程落ち着いた声で話す北原の方を見ると、何を思っているのか読み取れないような笑みを浮かべている。
「……あぁ、思い出したよ。北原っていう名前だったんだね」
そんな北原とは反対に静兄の声は俺でも分かるくらい、静かな怒りに満ちていた。
1番怒らせたくない人を怒らせてしまった。小さな罪悪感は徐々に膨らんで、俺の全てを呑み込んでいくような感覚になる。
そして右手は北原に、左手は静兄に握られた状態のまま俺はどうすることも出来なくて、ただただ床を見つめていた。
:12/01/17 17:13
:W64S
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