月の裏側

百合が顔を上げ、俺を見た。

目元がベチャベチャに濡れていた。

「こんな女、もういらないでしょ？」

「何言ってんの」

「もうミナトと美優に迷惑かけたくない」

「だから帰ろうって言ってんじゃん」

百合の目からとめどなく涙が流れている。

「帰れないよ」

「迷惑かけたくないなら、帰ってこいよ！帰って来ない方が迷惑だってわかるだろ？」

堂々巡りの会話。

どんどん…辛くなってきた。

百合と話すのが。

「もうミナトの奥さんも、美優のママも…自信ない」

百合は全てを放棄した。

「何、何で？たかがヨースケが夢に出てきたぐらいで俺と美優を捨てんの？」

つい、声をあらげてしまった。

「そんなに百合にとってヨースケは大きいの？」

誰にでも忘れられない人がいる。

俺は忘れるもなにも、目の前にいる百合が１番大切な人。

だけど百合は、きっと、ヨースケを忘れられない人として心に残してたんだ

「ヨースケに未練はないの。でもね、生まれて初めて大恋愛だったの。結局遊ばれただけだったし、相手にもされてなかったけど…ミナトの言う通り、私にとって大きな人だったのかもしれない」

「ヨースケとは何もないって…」

「本当に、何もないよ。ミナトと付き合ってから会ったのはあの日だけ。殴って、気持ちがスッキリしたってのも本当。でもね‥」

「もういい！わかった…」

これ以上、聞きたくない。

俺を好きだけど、ヨースケも好きって事なんだろ？

だから俺と美優に会わせる顔がない、って。

もう、いいや。

これ以上百合を泣かせるのもいやだし、これ以上…百合に幻滅したくない。

「自分の気持ちに整理ついたら改めて話そう。今の百合とじゃ話ててもキリないや」

「…」

「頭冷やしな」

「…美優は？」

「今の百合に美優の事、無理なんじゃないの」

わざと憎まれ口を叩いたのに百合は目を伏せた

そんなことない！と反論さえしてこない

やっぱり百合は弱かったんだ

気付かなかった俺が悪いのか。

「美優は俺が面倒見るから」

百合は何も言わない

これ以上、一緒にいると百合をもっと傷つける

俺は部屋を出た。

お義父さんに挨拶をしてから、お義母さんにも今回の騒ぎの理由を話した