月の裏側

野郎達が騒ぐ

「束縛とかねーの？」

「ない」

「マジで？」

「だって百合のこと信用してるしー。束縛するってことは信用してないって事だろ？」

「あぁ…まぁ。でも逆に彼女が不安がらない？私のこと興味ないのかな？って」

「そうならないように、ほどよい束縛ならするけど」

「やっぱすんじゃん」

みんなが笑った

男と連絡取るな、とか
男と喋るな、とか
露出するな、とか…

そんな束縛はしない。

たまーに、俺だけの百合でいろよ？とか…そんな感じ。

って！

何、恥ずかしい事言わせんだよ。

墓穴だわ、バカ。

飯食ってカラオケしてゲーセン行って…高校生らしい遊び方。

逆ナンされても俺は他人事のように、他の奴らのデレデレ顔を眺めてた。

「彼女いるの？」

俺の指輪を見て、チビ女がそう言った

「うん」

「ダサくない？彼女なんてダルいっしょ？」

昔の俺ならそうだった。

この女の言う事もわからんでもない。

でも今は違う

「あんた男を本気で好きになった事ないだろ」

「あるわけないじゃん！男なんてヤルだけしか考えてないのに、好きになるだけ無駄！」

「無駄？」

「うん。ヤリたいときにヤレる相手がいればいいよ。友達の話聞いてる限りじゃ彼氏なんかウザいしダルい」

「ふーん。ロクな友達いないんだな」

「え？」

「ダルさだって幸せになんだよ、本気で好きになった恋人っつーのは」

「…」

女は驚いた顔をしていた

「あんた何歳？」

「15」

「高１？」

「ううん、中３」

最近のガキはマセてんなー。

デレデレになってる野郎達と、このチビ女の友達が楽しそうに会話してるのを見ながら、俺は腰を降ろしてタバコを吸った

チビ女も俺の隣にチョコンと座る

「俺もあんたぐらいの時は女なんてヤルだけの生き物だと思ってたよー」

「…」

女は黙って俺に耳を傾ける

「付き合うって何？って感じで…毎日違う女と寝た」

俺は続けた

「高校入って３年なるまで女にダラしなかったけど、半年前に美人なクラスメイトと付き合ったの」

「今の彼女？」

「そ。最近はヤリモクだったけど…あ、ヤリ目的って事ね？」

「わかってるよ」

女は笑った

まだまだ幼い笑顔だ

「うん、ヤリモクだったのよ。でもねー彼女が当時好きだった男と破局して、衝撃受けたの」

「どんな？」

「興味ある？」

「ある」

なんだ。

口では偉そうなこと言っといて、本当は迷い子なんじゃん。

こんな真剣に食いつくなんてさ、こいつも過去に色々あったんだろうな。

「失恋で落ち込んでたから慰めたかったけど、恋愛したことない俺に心配されたくない！とか図星つかれてさ。まぁ軽くショックだよな」

「で？」

「恋愛って人をこんなに変わらせるんだなーって衝撃受けちゃって。普段すっげー強気の彼女が泣いてるからさ」

「へー」

「その時から他の女には感じないもん感じ始めて、何日か後にキスしちゃったんだよ。元カレでうじうじしてる彼女見てるとヤリモクなんかじゃなくて、救ってやりてーなって…」

短くなったタバコを地面で消した。