13年後のクレヨンしんちゃん
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#8 [畄ちゃん]
33 :第三話(1/4) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 01:54:26.96 ID:60VRmiQN0
「しんのすけ、良く聞け。いいか、生き物は何時かは死ぬんだ。
それは、俺たちも同じだ。……もちろん、ひまやお前の母さんもそうだ。
それが今。その時が、いま、来ただけなんだよ。解ってたことだろう?」
しんちゃんは、なにも言わない。しんちゃんのお母さんも、続ける。
「あのね、ママが最初ペットを飼うのに反対したのはね、そう言う意味もあるの。
しんちゃんに辛い思いをさせたくなかったから…ううん。
私自身が、そんな辛いお別れをしたくなかったから。だから、反対してたの。
でも、もうこうなっちゃった以上、仕方ないでしょう?
せめて、最期を看取ってあげることが、私たちに出来る一番良い事じゃないの?」
「最期って!!!」
しんちゃんが泣いている。ぼろぼろ泣いている。手をぎゅっとにぎりしめて。
僕よりもずっと大きくなってしまった手を、ぎゅっとかたく。
34 :第三話(3/4) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 01:55:04.41 ID:60VRmiQN0
僕の体のことは、たぶんだれよりも僕自身が一番知っていて。
でも、いいと思っていた。
このままでもいいって。
だって夢の中はあんなにもあったかくてあまくって。
だからずっとあそこにいても、かまわないと思ってたんだ。
それじゃだめなの?
:08/10/20 15:10 :N905i :p2aDiDTI
#9 [畄ちゃん]
36 :第三話(4/4) ◆TmK8dn3Gxg [2間違えた… sage] :06/04/07(金) 01:56:13.74 ID:60VRmiQN0
しんちゃんがこっちを見た。
しばらく目をきょろきょろさせたあと、僕を見付けて、顔をくしゃくしゃにさせる。
「シロ。」
名前を呼ばれた。本当に、ひさしぶりに。
わん。
なんとか声が出た。本当に小さくて、ガラスごしじゃあ聞こえないかと思ったけれど。
でも、たしかにしんちゃんには届いた。
しんちゃんが近付いてくる。窓を開けて、僕に手をのばして。
「大丈夫、オラが、何とかしてやるぞ。」
やっと抱きしめてくれたしんちゃんの胸は、いっぱいどくどく言っていて、
夢の中の何十倍も、とってもあったかかった。
ねえ、よごれたわたあめでも。
39 :第四話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg [どこまでいけるかな… sage] :06/04/07(金) 01:58:12.06 ID:60VRmiQN0
僕は夢を見る。
何度目になるかはわからない夢。でも、それは今までとはちがう夢。
41 :第四話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg [どこまでいけるかな… sage] :06/04/07(金) 01:58:27.31 ID:60VRmiQN0
僕は段ボール箱に入っていて、そのはじをしんちゃんがヒモで三輪車に結びつけている。
三輪車がいきおいよく走る。
箱ががたがたゆれて、ちょっときもちが悪い。
ふいに、その箱から引っぱり出され、僕は自転車のかごに乗せられた。
小さな自転車。運転しているのはしんちゃん。せなかにはまっ黒なランドセル。
シロに一番に見せてやるぞって、嬉しそうにしょって見せてくれたランドセル。
まだまだ運転は下手だったけど、とってもあたたかかった、春。
:08/10/20 15:10 :N905i :p2aDiDTI
#10 [畄ちゃん]
42 :第四話(3/6) ◆TmK8dn3Gxg [又間違えた… sage] :06/04/07(金) 01:59:03.35 ID:60VRmiQN0
自転車のかごが一回り大きくなる。
くるりとまわると、しんちゃんが今度は、まっ白なシャツを着ていた。
自転車も、新しくなっている。もうよたよたしていない。スピードも、速い。
そういえば、よくお母さんに怒られたとき、
ナイショだぞって僕を、こっそりフトンの中に入れてくれたよね。
もちろん次の日には、お母さんに怒られるんだけど、それでもやめなかった。
二人だけのヒミツがあった、きらきらしてまぶしい、夏。
43 :第四話(4/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 01:59:41.64 ID:60VRmiQN0
ぼんやりしていたら、ひょいっとかごから下ろされた。
代わりに自転車を押しているしんちゃんのとなりに並んで歩く。
しんちゃんはずいぶん背が伸びて、お父さんと変わらないくらいになった。
お母さんといっしょに使っている自転車が、ぎしぎしと音を立てる。
でも、どんなに大きくなっても、きれいな女の人に目がいくのは変わらない。
こまったくせだなあと思いながらも、どこか安心してる僕がいる。
いつまでも変わらないでいて欲しかった、少しだけ乾いた風が吹く、秋。
:08/10/20 15:11 :N905i :p2aDiDTI
#11 [畄ちゃん]
44 :第四話(5/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:00:07.68 ID:60VRmiQN0
寒い冬。
あんまり話してくれなくなった。
おさんぽも、少なくなって。こっちを見てくれることも少なくなった。
見えるのは横顔だけ。
楽しそうな、悲しそうな。ぼんやりした、困った。怒っているような、悩んでいるような。
そんな、横顔だけ。
寒い冬。小屋の中で、ひとりで丸くなっていた、冬。
45 :第四話(6/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:00:29.17 ID:60VRmiQN0
寒かった冬。でも、冬は春への始まり。あたたかな春への始まり。
僕は丸まって、わたあめのようになって、あったかいうでの中で。
春の始まりをまっている。
たとえそれがほんのいっしゅんのものでも。
:08/10/20 15:11 :N905i :p2aDiDTI
#12 [畄ちゃん]
48 :第五話(1/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:02:11.66 ID:60VRmiQN0
かしゃん、という、なにかがたおれる音がして、僕は目を開けた。
電灯がぽつりぽつりとついた、暗い道の真ん中で、見なれた自転車が横になっている。
のろのろと首を上げると、しんちゃんの前髪が顔に当たった。
道のはじっこのカベに、もたれかかるようにしてしゃがみ込むしんちゃん。
その体はひっきりなしにふるえていて、とても寒そうだった。
僕を抱きしめたまま、動こうとしないしんちゃん。
しんちゃんに抱きしめられたまま、動くことができない僕。
ああだれか僕の代わりに、しんちゃんを抱きしめてあげて。
49 :第五話(2/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:02:35.86 ID:60VRmiQN0
「ごめんな、ごめんなシロ。オラ、何にも出来なかった。」
ぽつりぽつりと、しんちゃんが話しかけてくれる。
「いっぱい病院回ったんだ、でも、どこも空いて無くて。
空いてるトコもあったんだけど、大抵シロを一目見ただけで…何も。
あいつらきっとお馬鹿なんだぞ。お馬鹿だから、何にも出来ないんだ。」
しんちゃん、泣いてるの? ねえ、泣かないで。
「でも、ホントにお馬鹿なのは……オラだ。」
しんちゃんなかないで。
「オラっ……シロがこんなになってるの、気付かなくて…!!
ずっと、一緒にいたのに…親友だって……思ってたのに、なのに!!!」
なかないで、もういいから。
「シロっ…………。」
:08/10/20 15:12 :N905i :p2aDiDTI
#13 [畄ちゃん]
50 :第五話(3/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:03:01.37 ID:60VRmiQN0
しんちゃんが泣いている。僕はなにもできない。
せめて元気なところを見せようと思って、僕はしんちゃんのほっぺたをなめた。
しんちゃんのほっぺたは、少しだけ早い春の味。
51 :第五話(4/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:03:28.44 ID:60VRmiQN0
僕がメスだったら、しんちゃんのために子供を作っただろう。
僕が居なくなっても、寂しくないように。
僕がわたあめだったら、しんちゃんのためにせいいっぱい甘くなっただろう。
僕が食べられても、甘さが少しでも長く口にのこるように。
僕が人間の手を持っていたら、しんちゃんを抱きしめただろう。
僕がしんちゃんにもらった、温もりを返すために。
僕が人間の言葉をしゃべれたら。
きっと、いっぱいいっぱいのありがとうとだいすきを、君に。
:08/10/20 15:12 :N905i :p2aDiDTI
#14 [畄ちゃん]
52 :第五話(5/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:03:57.22 ID:60VRmiQN0
ひっきりなしにこぼれるナミダをなめながら、僕はあることに気が付いた。
僕はここを、今しんちゃんがすわりこんでいるここを、知っている。
ここは、僕と君が初めて会ったところ。
僕と君との、始まりの場所。
54 :第五話(6/6) ◆TmK8dn3Gxg :06/04/07(金) 02:04:19.48 ID:60VRmiQN0
僕は待っていた。
あきらめながらも、いつか。
いつか、おっこちたわたあめでも。
おいしいそうだって言ってくれる人が。
ひろいあげて、ぱんぱんってして。
まだ食べられるぞって、言ってくれる人が、来てくれるって。
:08/10/20 15:13 :N905i :p2aDiDTI
#15 [畄ちゃん]
最終話みたい?
:08/10/20 15:14 :N905i :p2aDiDTI
#16 [我輩は匿名である]
ぼくはしんちゃんに抱きしめられながら、さいごの夢を見る。
もういちど、わたあめになる夢を。
もういちど、おさとうになって、とかされて。
くるくるまわって、あまい、あまいわたあめになる。
目ざめたときに、だれよりも、
君がおいしそうだって言ってくれるわたあめになるために。
ふわふわのわたあめ。さくらいろの、あったかなわたあめ。
君が大好きだっていうキモチをこめた、君だけのわたあめ。
62 :最終話(3/3) ◆TmK8dn3Gxg [ありがとうございました sage] :06/04/07(金) 02:06:58.49 ID:60VRmiQN0
僕はシロ、しんちゃんのしんゆう。十三年前に拾われた、一匹の犬。
まっ白な僕は、ふわふわのわたあめみたいだと言われて。
おいしそうだから、抱きしめられた。
僕はシロ、しんちゃんのしんゆう。
今度はさくらいろの、ふわふわのわたあめになって。
君に、会いに行くよ。
:08/10/20 15:56 :P905i :LAhv7jVM
#17 [ゆーたそx]
感動しましたホ
辛いですね‥(;_;)
:08/10/20 16:47 :INFOBAR2 :OfnzHeyo
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