１番になりたくとも

｢あたし聞きたかったんだけどさ、ハッシーはなんで今更あんなこと言ったのかなって…あたしは２年前本当にケジメつけたつもりでいたんだょ…今大切にしたい人もいる。けど正直あんなことがあってあたしもテンパってるんだ…｣

あたしの気持ちを伝えたくて上手く言えないけど全部言いたいって思った。

ハッシーはじっとあたしを見つめたかと思うと、重い溜め息をついた。

｢悪い。俺のせいで彼氏とこじれちまったんだろ…？｣

なんとも返答しづらい質問にぐっと息を飲む。

｢あの時俺が有を泣かしたことずっと気になってた。でも彼氏がいるお前に今更なんて話したらいいかわからなくて連絡できなかったんだ。｣

｢あ、あれはあたしが勝手に泣いたことだから…｣

｢いや。それでも俺はお前の幸せを壊すようなこと言った。無責任な言葉で傷つけた結果泣かすとか…本当にどうしようもないよ。ごめん、有。｣

ぽつりぽつりと重低音なその声がやけに心臓に響く。

｢彼氏にはバレちゃったの。あたしの変な態度のせいで…そしたらいつも優しい彼が感情剥き出しになってさ。初めて彼の知らない部分を見たってゆうか…ずっと不安にさせてたってこと今更知った。バカだよね。｣

｢本当にごめん。お前にも周りにも迷惑かけて。
俺さ…わかんないんだ。
彼女だっていた。お前と会わずに２年も経った…なのに…｣

ぐっと黙ったハッシーは今まで見たこともないような苦しい顔していた。

そんな顔が見たいわけじゃないのに。

スカートの裾を握る手にぎゅっと力がこもる。

｢俺…｣

｢待って！｣

なんとなく、というか自惚れなんかじゃなく。
今から紡がれる言葉が怖くて制止する。

｢ハッシー待って。｣

｢有…｣

｢ごめん。これ以上聞きたくない…怖い。｣

もう決めたの。
あとはあなたに厳しいこと言ってサラッと切るだけ…そう。そうしなきゃいけないから。

俯くと同時にハッシーの口から謝罪の言葉が投げ掛けられる。

｢有。ごめん。でも…｣

でもという言葉に無意識に顔をあげる。

｢もう決めたんだ。本当に自分勝手だけど俺はもう迷わないって。…お前が好きだ。｣

低く落ち着いたその声はやけに耳に残り、リフレインする。

固まったのは身体も心も同時だったと思う。

｢有と出会って嫌われてもおかしくないような最低なことをして。お前のこと沢山傷つけた。いっぱい泣かせた。本当に謝っても謝りきれない。ごめん。｣

ポロポロと頬を涙が転がる。

｢でも今更だけど、やっと…やっと気付いたんだ。
俺は誰が大切か。誰を好きなのか。俺にはお前が必要なんだ。｣

涙は止めどなく流れる。
でもなぜかこの涙は温かい。

｢…狡いよ。｣

やっと出た言葉。

｢ハッシーは狡い！自分勝手過ぎるよ!!今更…本当に今更そんなこと言われても困る！！｣

タカが外れたように溢れだす言葉は何年間も押し潰した思い。

｢あたしには大切にしたい人がいるの！大切にしなきゃいけないの！あたしが何年間想ってたと思うの？どんな気持ちで…どんな…ｩｯ…ｸｯ…こんなに…こんなに好きだなんて…悔しい…むかつく…ハッシーなんて大嫌い!!…ｧｰｯ…｣

涙がこれでもかと流れ落ちる。カッコ悪いくらい…最後は子どもみたく喚いた。一体どの位泣いたんだろ。

今いる場所が個室で良かったと気付くのは、もう少しあと…

｢有…本当にごめん。でも俺今嬉しい…不謹慎だけどすげぇ嬉しい…｣

ぎゅっと強く握られた手は温かくて余計に泣ける。

｢ハッシー…無理だよ…今更無理なの…｣

泣きながら呪文のようにあたしは呟く。

｢…待つ。何年でも。今度は俺がお前を追いかける番だから…｣

あぁ。

謙太郎さん。
ごめんなさい。

あたしはどう頑張ったってこの人が忘れられないよ。
あたしはこの人の１番になりたいんだ。