ポニーテール

髪を結ぶのが大嫌いだったわたし。

中学生の頃から伸ばし始めた、自慢の長い髪。

いまでは腰あたりまである、長く黒い髪。

あなたの好きな、
長く、黒い髪。

「由季っ！じゃーん、彼氏出来ましたぁ！」

ふたりで仲良く写る待ち受け画面。実花の左には、見知らぬ男。

昨日まで、ふたりの写メだったんだけどなぁ、呆気なく奪われた。
実花のとなり。

画面を見ながら、嬉しそうに話す実花。
現実って、苦しいんだ。

「おめでとう」

振り絞った言葉、これしか出て来なかった。
これ以上言葉にしたら、きっと声が震えるから。

今日は、実花の笑顔を見たら、泣き出しそうになる自分がいた。

「…ほんと、おめでとう！もっと話し聞きたいんだけど、わたし帰るね。」
初めての、作り笑い。

魂が抜けてしまったように、無表情のまま歩く。

ふと目についた美容室。

「この子みたいな色にしてください。」

若者向けの雑誌を指差し、店員さんにお願いした。

「綺麗な髪なのに、ほんとにいいの？」

…実花みたいなこと、
言わないでよ。

「っ…え！？ゴメン、なにか悪いこと言った？」

は？と思って正面を見る。鏡に映ったのは、泣いてるわたし。

無意識のうちに出る涙って、ほんとにあるんだ…(笑)

目が痛い、などと適当に嘘を吐いてなんとか誤魔化しが効いた。

思った以上に呆気なく、痛みを知らない黒が色を変えた。なんて情けないんだろう、すべて阿呆らしく思えた。

「はいっ、でーきた！初めての茶髪の感想は？」

「ちょっと切っちゃってください。」

あまりにも大胆にスルーしたもんだから、店員はそれ以上なにも言わなくなった。

茶色くなって
肩まで短くなった。

強くなろう、
そう思った。

次の日、由季を見て愕然とする実花がいた。

「うそー…」

ごめんね、実花。

「どう？イメチェン。」

悲しそう、実花。

「…やっぱり、由季はなんでも似合うね！」

無理して笑う、実花。

「実花、ちょっと、こっち来てみ。」

おいでおいで、の仕草をして、こちらに来るように促す。

「…？なぁに？」

キョトンとしてから、素直に私の元にやってくる。

「肌綺麗だね～、実花！たまには濃い化粧してみない！？」

急にどうしたの、と意味がわからない様子で目をパチパチさせていた。

「ん～、一回見てみたかったんだよね。ね、だめ？」

お願い、とウインクを飛ばしたら、快く引き受けてくれた。

化粧道具を出し始めると、じーっと手元を見つめてくる。それからはずっとおとなしかった。