　
「全くウーロン臭くない」

「………」

ねぇ.これ素なの？
この人は素で言ってるの？

いやわざとだよね？
うん.もうなんていうか
凄く疲れたんだけど

「あんた美人だよな」

え？

そう言うと男は煙草に火をつけ吸い始めた

　
あぁ…今度は誉めて
からかうんですね

馬鹿にするのもいい加減にしてほしい

「抱きに来たんじゃないなら何の目的で来たんですか？
凄く迷惑なんですけど」

煙草を吸いながら男は下を向いた

「あんたさー…」

　

「何ですか」

男は顔を上げると微笑を浮かべ

「俺が貰ってやるよ」

と言い煙草を消した
　

　

“俺が貰ってやるよ”

一瞬思考が停止した

これは…どういう意味？
私を買うってこと？

「そーゆーこと」

「えっ待って！貰うってどういう事ですか！」

　
「そーゆーこと」
「意味分かんないです!」
「なんで？」
「なんでって…」

「あんたは何で売りやってんの？」

男の顔がさっきまでの微笑から無表情に変わった

「それは…お金が必要だから」

　
「借金返済が理由ー？」
「違います」
「じゃあ何」

私が体売ってる理由…

望実を育てる為
それしかない

望実の為なら自分の体なんか惜しくない

だって私の子だもの。

　
「あなたに関係ないですから」

「いくら？」
「え？」
「いくら必要なんだよ」

男はじっと私を見てくる

「いくらって言われても…分かりません」

「なんだそれ」

私は男の瞳から逃げるように視線を逸らした

　
「とりあえず今日から俺んとこに引っ越しね」

「は…？」

「貰うって言っただろ」

いやいや！ちょっと待て
「それって一緒に住むってこと…？」

「そーだけど」

　
「いや無理です！お断りします！」

この人絶対おかしい!

他人と一緒に住むなんて考えられない

「金なら毎月欲しい分やるよ
あんたは家事だけしてくれればいい
もちろん借金も俺が返しとく」
金額に上限はないの！？
どんだけ金持ちなんだ

家事だけでいいって…家政婦？

　
「どーすんの？」

男はネクタイを緩めてまた煙草を吸い始めた

上限がないなら今より稼げる
しかも家事するだけ

でも望実は？
私がこいつの家に行ったら１人になってしまう

いくら金を稼いだって
望実と会う時間が減る

いや.会うことさえ
出来なくなるかもしれない