漆黒の夜に君と｡[BL]

アイツが通る度にみんな振り返る。

教師だって生徒だって、
みんなアイツをチヤホヤする。

そうだ。
俺の知ってるアイツは、
そう言う奴だった。

今朝まであんなに近かったはずの存在が、急に遠くに感じた。

よく考えてみれば、

俺とアイツが出会ったのは今年の春で、ちゃんとした言葉を交わしたのは昨日の夜が初めてで。

そんな俺がアイツの眼中にあるわけないよな。

振り返った先に居るアイツは誰かと優しい笑顔で話してる。

そんな光景を見た瞬間、
なぜか胸が軋んだ。

なんなんだろう、これは。

昨日知り合ったばかりの奴になんの感情を抱いているんだろう･･―

全身が熱くなった。

見たくないのに目はアイツを追ってしまう。

これじゃ、まるで･･――

ｷｰﾝｺｰﾝ
　　ｶｰﾝｺｰﾝ..

予鈴が鳴ってふと我に返った。

｢あれ、冥？｣

声の主は透。

｢お前一人？｣

｢あ、うん。ちょっと担任に呼び出されてたから。｣

｢そっか。俺もちょっと部長と話しててさあ。
次移動だよな？一緒に行こーぜ。｣

｢うん..｣

そう頷いてもう一度振り返る。

アイツはもう居なくなっていた。

｢冥？どうかした？｣

｢･･いや、なんでもない。行こっ｣

俺は何を気にしてるだ。
馬鹿みたいに。―――‥

_

俺は少し先にいる透にかけよって、早足でそこを去った。

早くこの場所から離れたくて。

この気持ちを忘れたくて。

―――――‥‥‥
―――――――――――

SHRが終わって帰る支度をする。

いつもなら水曜日は慌ただしく教室を出る筈なのに、店を辞めさせられた俺にはもうその必要はない。

『じゃ、また帰りにね｡』

朝のアイツの言葉が蘇った。

今は会いたくない。

そう思いながら俺は机に顔を伏せた。

｢はぁ･･｣

口からは自然にため息が
零れる。