クソガキジジイと少年。みそ汁編
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#22 [ザセツポンジュ]
田畑の目立つのどかな田舎。
そこに海につながった
1本の長い土手があり
その道を通ると
稲穂が風になびき
草木は順々に揺れる。
見上げれば水色の澄んだ空が
一人一人を出迎えてくれるのだ。
:09/02/18 01:25 :W61S :QP.UDvFQ
#23 [ザセツポンジュ]
田畑にかこわれた中に
家がポツポツと立ち並び
その中に4階立ての
白くて古いマンションが
ひょっこり飛び抜けている。
:09/02/18 01:29 :W61S :QP.UDvFQ
#24 [ザセツポンジュ]
そこの1階に
マンションの管理人の
おじいちゃんと、
おばあちゃん。
お父さんに、
看護婦のお母さん。
そして幼き日の
三ツ八 九は
5人で暮らしていた。
:09/02/18 01:35 :W61S :QP.UDvFQ
#25 [ザセツポンジュ]
しかしキュウの父親は
東京の親戚の家に
出稼ぎに行って
あまりに帰って来なかったため
実際は4人で暮らしているようなものだ。
どこに行くにも何をするにも
キュウはおじいちゃんに
引っ付きまわって生活していた。
:09/02/18 01:39 :W61S :QP.UDvFQ
#26 [ザセツポンジュ]
そんなキュウに突然不安な予感が頭をよぎった。
いつも通りの朝
じぃちゃんの朝ご飯を食べて、カバンを持って、じぃちゃんの車に乗って保育園に行く。
何も変わらない朝だった。
家を出て車に乗った瞬間
キュウは突然思ったのだ。
『きょうおかあさんはかえってこない』
:09/02/18 01:46 :W61S :QP.UDvFQ
#27 [ザセツポンジュ]
なぜかそう思ったけれど
じぃちゃんには言わず
保育園に着いたのだった。
そわそわして
早くオウチに帰りたいキュウ。
:09/02/18 01:47 :W61S :QP.UDvFQ
#28 [ザセツポンジュ]
1日中何も手につかず
やっとじぃちゃんがお迎えに来て自分んちのマンションへ帰るのだった。
『きょうおかあさんかえってくる??』
何回も
何回も
キュウは
じぃちゃんに聞いた。
ばぁちゃんにも聞いた。
:09/02/18 01:52 :W61S :QP.UDvFQ
#29 [ザセツポンジュ]
『おかあさんは??おかあさんかえってくる??』
時間はどんどんたちます。
『もうすぐ帰ってくるよ。』
そう言ってキュウをなだめるが
日は暮れる。
星も出る。
『なんでおかあさんかえってこないの??』
キュウは泣いた。
:09/02/18 02:00 :W61S :QP.UDvFQ
#30 [ザセツポンジュ]
何回も
何回も
何百回も
何千回も
お母さんはどこにいるのか
いつ帰ってくるのか
みんなに聞いて回るのだった。
『帰ってくるよ。』
そう言いながら
泣いている、ばぁちゃん。
:09/02/18 02:02 :W61S :QP.UDvFQ
#31 [ザセツポンジュ]
帰ってくるよ
と言うくせに
泣く祖母の姿を見て
キュウは余計に
泣くのだった。
:09/02/18 02:03 :W61S :QP.UDvFQ
#32 [ザセツポンジュ]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
キュウ、トミー、ジョウジロウちゃん達の住む家のすぐそばに土手がある。
その土手を挟んだ反対側には
広場やお墓、
雑木林や川があった。
:09/02/18 02:09 :W61S :QP.UDvFQ
#33 [ザセツポンジュ]
シャンシャン。
シャンシャン。
『キュウ!今日は乗れるようになるといいね。』
ジョウジロウちゃんは
すいとうの中の
氷の音がお気に入りの様子。
『うん!今日乗れるようになる!』
かごに入れたおにぎりを気にかけながら補助無し自転車を押す。
:09/02/18 02:12 :W61S :QP.UDvFQ
#34 [ザセツポンジュ]
『オレも補助無し乗りたーい!』
トミーはムシトリアミを
ブンブン振り回す。
『ボクこわーい。』
:09/02/18 02:13 :W61S :QP.UDvFQ
#35 [ザセツポンジュ]
補助無し自転車に乗りたいが
なかなか許可がおりない
トミーと
別に今乗れなくてもいいと
少しコワガリなジョウジロウちゃん。
そして、どうしても
今乗れるようにならなければならないキュウ。
:09/02/18 02:15 :W61S :QP.UDvFQ
#36 [ザセツポンジュ]
広場についた3人は
並んで石段の階段に座り
ひとやすみ。
12時ピッタリに鳴る
お昼のサイレンが
ちょうど聞こえてきた。
『今日のおにぎり誰が作ったのー?』
ジョウジロウちゃんは
すいとうのフタをまわし
お茶の準備。
:09/02/18 02:17 :W61S :QP.UDvFQ
#37 [ザセツポンジュ]
『ばぁちゃん。。。』
少し寂しそうなキュウ。
『何入りのオニギリかな!!ジョウジロウちゃんあとで氷ちょうだいね!!』
トミーはキュウがお弁当箱をあけるのを間近で見つめる。
『わー!シャケ!!オレシャケ!』
『ボク、コンブにする!』
『あたしのりたま!!』
:09/02/18 02:20 :W61S :QP.UDvFQ
#38 [ザセツポンジュ]
トミーは息を吸った。
『みーなーさん手を合わせましょう!いーたーだーきーます!』
。。。必要以上に大声だがまぁいい。
『いーたーだーきーます!』
保育園でいつも言うセリフだ。
:09/02/18 02:23 :W61S :QP.UDvFQ
#39 [ザセツポンジュ]
腹ごしらえを終えた3人は
それぞれの行動を開始する。
トミーはムシトリアミを持って雑木林へ。
ジョウジロウちゃんは
キュウの自転車の後ろを持って練習に付き合った。
:09/02/18 02:25 :W61S :QP.UDvFQ
#40 [ザセツポンジュ]
『ジョウジロウちゃん!ムシカゴ忘れちゃった!』
トミーはさっそく何かを捕まえ
虫が逃げないように
網の部分をギュッと握る。
『えー。じゃあ虫とってもダメじゃん。』
:09/02/18 02:27 :W61S :QP.UDvFQ
#41 [ザセツポンジュ]
『なんでだよ!ムシトリアミは虫をとるためにあるんじゃん!なぁキュウ!』
キュウはユラユラと
自転車のペダルをこぐ。
『うーん!ムシとるアミー!』
キュウにとって
この時、ムシトリアミなんざ
どうでも良かった。
『ジョウジロウ見て!これナニ虫?』
:09/02/18 02:30 :W61S :QP.UDvFQ
#42 [ザセツポンジュ]
ジョウジロウちゃんは
自転車を持っていた手を離し
ムシトリアミに近づいた。
『これカメムシだよ。くさいの。』
『え?くさいの?ん?くさくないよう。』
ガッシャーン。
『いてー!!』
キュウはコケた。
:09/02/18 02:33 :W61S :QP.UDvFQ
#43 [ザセツポンジュ]
足や腕には
いくつものスリ傷が出来ていた。
『ダイジョーブー!?』
トミーとジョウジロウちゃんはかけよる。
『またカットバン増えるねえ。』
ジョウジロウちゃんはキュウの足についた砂を優しくはらう。
:09/02/18 02:35 :W61S :QP.UDvFQ
#44 [ザセツポンジュ]
『カットバンおばけ!キャーハハハハ。』
トミーは網を
握ったまんま笑った。
『いいもん!お母さんが帰って来たら、お母さんがなおしてくれるもん!』
おや?
ジョウジロウが眉間に
シワを寄せる。
『クサーイ。』
みんなで鼻をつまんだ。
:09/02/18 02:38 :W61S :QP.UDvFQ
#45 [ザセツポンジュ]
『トミーがいじわるするから!』
ジョウジロウちゃんは
トミーの虫とりあみを
指差す。
『わー!カメムシがプーした!』
トミーはムシトリアミを
放り投げた。
:09/02/18 02:40 :W61S :QP.UDvFQ
#46 [ザセツポンジュ]
すいとうの中の氷も
すっかり溶けてなくなった頃
辺りは茜色に染まっていた。
広場まで迎えに来たのは
トミーのじいちゃん。
きーさんだった。
『おーい!もう帰ってこーい!』
トミーと
ジョウジロウちゃんは
きーさんにかけよった。
:09/02/18 02:43 :W61S :QP.UDvFQ
#47 [ザセツポンジュ]
『じいちゃん見て!オレのバッタ!』
『きーさん!ボクもバッタとった!』
『ほうほう。すごいすごい。いい緑色をしておる。』
ガッシャーン。
『またぁ。』
この日何回目だろうか。
キュウの足から
血が流れ出てしまった。
『うー。。。』
:09/02/18 02:46 :W61S :QP.UDvFQ
#48 [ザセツポンジュ]
キュウは泣くのをグッとこらえた。
きーさんはキュウを抱っこする。
『キュウちゃん。今日はもうオウチ帰ろう。』
『いやだー!』
目にたくさんの、涙をためて。
『キュウ。もう帰ろうよ。ボクがまた明日、持っててあげるから。』
『オレも一緒に来るから帰ろうよー。』
:09/02/18 02:50 :W61S :QP.UDvFQ
#49 [ザセツポンジュ]
きーさんに抱っこされた
キュウを二人は見上げた。
『いやだ!自転車乗りたい!』
きーさんの抱っこを
嫌がるように暴れだす。
ひき止めるきーさんの手を
はらいのけ、
鼻先が真っ赤なキュウ。
『お母さんが帰って来たら見せるもん!』
:09/02/18 02:52 :W61S :QP.UDvFQ
#50 [ザセツポンジュ]
きーさんは
カットバンだらけの
キュウの足を見て
キュウの両手をつかんだ。
『キュウのお母さんは、もう帰って来んのじゃよ。』
:09/02/18 02:53 :W61S :QP.UDvFQ
#51 [ザセツポンジュ]
キュウは
今まで溜めていた涙が
こぼれ落ちた。
大きな口を開けて
目を
鼻を
真っ赤にさせて。
『きーさんのうそつき!うわーん!』
きーさんは
キュウの背中を優しく撫でた。
『ほんとうじゃ。キュウ。』
:09/02/18 02:56 :W61S :QP.UDvFQ
#52 [ザセツポンジュ]
きーさんは
知っていたのだ。
きーさんだけではない。
大人達は
みんな知っていたのだ。
キュウのお母さんは
この先ずっと
マンションには
絶対に帰って来ないと言う事を。
:09/02/18 02:57 :W61S :QP.UDvFQ
#53 [ザセツポンジュ]
だけどキュウは
帰って来ると
信じていた。
待っても待っても
帰って来ない
お母さんを
来る日も来る日も
待っていたのだ。
:09/02/18 02:58 :W61S :QP.UDvFQ
#54 [ザセツポンジュ]
その間に出来る事を。
お母さんにほめてもらいたい
全ての事を。
キュウは小さいながらに
一生懸命やったのだった。
:09/02/18 02:59 :W61S :QP.UDvFQ
#55 [ザセツポンジュ]
『お母さんが帰って来たらね、お母さんの名前書いてあげる!』
ひらがなの読み書きを。
『お母さんが帰って来たらね、今何時か教えてあげる!』
時計のお勉強を。
『お母さんが帰って来たらね。。。』
:09/02/18 03:02 :W61S :QP.UDvFQ
#56 [ザセツポンジュ]
『自転車に乗れるとこ見せてあげる!』
補助無し自転車に乗る練習を。
:09/02/18 03:03 :W61S :QP.UDvFQ
#57 [ザセツポンジュ]
お母さんは
もう帰って来ない。
お母さんは
もう見てくれない。
お母さんは
もうほめてくれない。
それを幼い子供は
受け入れなければ
ならなかった。
:09/02/18 03:05 :W61S :QP.UDvFQ
#58 [ザセツポンジュ]
キュウに
突然おとずれた予感は
あたってしまったのだ。
キュウは
漠然とあんな事を思ったから
いけなかったんだ
と思ったのだった。
それを口に出して
おじいちゃんに
問わなかった自分を
責めていた。
:09/02/18 03:27 :W61S :QP.UDvFQ
#59 [ザセツポンジュ]
お母さんは
どこに行ったのかたずねる
キュウに
おじいちゃんは
『おでかけだよ。』
と言って
頭をなでるので
キュウはそれを
無理矢理信じていた。
:09/02/18 03:28 :W61S :QP.UDvFQ
#60 [ザセツポンジュ]
実際のところ
祖父にベッタリと
くっついて暮らしていた
キュウは
母親との会話はあまり
無かった。
一緒にお風呂に入ろうものなら
『後ろを向いててね。』
と、言われ
何のために裸で
お風呂に入っているのかも
分からず
部屋には鍵がかけられていて
お母さんの部屋の中に
入れなかった。
:09/02/18 03:29 :W61S :QP.UDvFQ
#61 [ザセツポンジュ]
キュウが
結局すがりつくところは
おじいちゃんのところだった。
しかし
いざお母さんが
帰ってこないと
寂しかったのだ。
:09/02/18 03:30 :W61S :QP.UDvFQ
#62 [ザセツポンジュ]
物静な母親だったが
出稼ぎに行く夫が
家にいない間
その夫の親と暮らし
おじいちゃん、
おばあちゃんの部屋に
いりびたる娘との生活は
さぞ肩身が狭かった事だろう。
東京から帰って来るなり
毎回夫婦ゲンカをしていたのだった。
:09/02/18 03:33 :W61S :QP.UDvFQ
#63 [ザセツポンジュ]
『えーん。』
今度はジョウジロウまで
ポロポロ泣き出してしまった。
『おい!ジョウジロウちゃん!アンタ一体何が悲しかったんじゃ!』
きーさんはキュウを抱きかかえ
しゃがみこんだ。
『わかりませーん!うわーん!』
『。。。分からないなら泣くな、アホか。』
:09/02/18 03:35 :W61S :QP.UDvFQ
#64 [ザセツポンジュ]
続いてトミーまで
目をおさえて
鼻をシュンシュン
言わせている。
『トミオ!次はどうしたんじゃ。わかりませんはナシだぞ。』
『うぅ…ひっく…ううう…。』
きーさんは二人を
自分のもとへ寄せた。
:09/02/18 03:37 :W61S :QP.UDvFQ
#65 [ザセツポンジュ]
『あぁあぁ。ワシがイタズラして泣かせたと思われるじゃろ!困ったなぁ。警察が来たら逮捕されてしまう。うーん。よし。』
きーさんは空を指差した。
『川までお散歩して、夕日が沈んだらおうちへ帰ろう。』
チビ共3人は
涙をゴシゴシふいて
近くの川まで歩いて行くのだった。
:09/02/18 03:40 :W61S :QP.UDvFQ
#66 [ザセツポンジュ]
『キュウ、きーさんの事、嫌いじゃろ?』
『きらーい。』
『フン。それはそうと鼻ちょうちんができておるぞ。ほれ。』
パチンッ。
『キャーハハハハ。』
夕日が沈むまでの間
きーさんは
子供達のご機嫌とりに
懸命に励むのであった。
:09/02/18 03:44 :W61S :QP.UDvFQ
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