Ｆor you～約束～

覚えてますか？

『幸せはあんた次第だよ』

冷たい言い方の裏にある温かさを知ったのは、ずっと大人になってからだね。

次の日も、その次の日も、一週間経っても文音は誰とも話さなかった。

隣から来る変な緊張感に耐えられず、熱が出そうになった。

そして冬休みに入り、年が明けた頃、近所から離れた神社に家族と初詣に行った。

その近くにある小さな商店に文音がいた。

でも、思いがけない文音の姿を見たんだ。

笑ってた…。

背中丸めたおばぁちゃんと一緒に笑ってた。

私と目が合った文音。
すぐに商店の中に入った。

でもどこか安心した。
笑えるんじゃん…。

子どもらしい笑顔だった。

あの笑顔は今も忘れられない…。

文音？
文音はあの時のきっかけ、ちゃんと覚えてる？

新学期に入り、あの時の事があり文音に会うのが気まずかった。

案の定、文音はそれに触れることもない。
私もだ。

新学期に入り、何日かしてから初めて文音が話しかけてきた。

『ねぇ、消しゴム貸してくれない？』

一瞬誰かと思った。

隣を見たら恥ずかしそうにして言う文音がいた。

『いいよ』

私は笑ってみた。

もしかしてひきつってたかもしれない。
でも、今考えたら、きっと私は文音と友達になりたかったのかもね。

目が合った文音。

消しゴムを受け取った時、文音も少し笑った。

はにかんだ笑顔。

『笑ってたほうがいいよ』

思わず出た言葉。
文音は私に聞いてきた。

『うちの事嫌いじゃないの？』

『嫌いと言うか苦手？』

『そうだよね』

文音がまた笑った。

この時がきっかけだった。文音は私にだけ話すようになった。
席が隣じゃなければありえなかったと思う。

そんな文音を見て、クラスメイトもかなり戸惑ってた。
毎日話すようになり、テレビやジャニーズの話、バカげた話で文音は少しずつ笑顔を見せるようになった。

そんな私達を見て、ユキは言う。

『あんな子でも笑うんだね。何話すの？』

『普通の話だよ』

私はユキより文音と一緒にいる事のほうが多かった。