美男と猛獣
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#1 [mr-rite] 13/05/24 01:13
その年の夏は、例年以上に気温が高かったような覚えがある。

春からこのK中学に転入し、既に三ヶ月が過ぎようとしていた。

桜も散り果て、梅雨を超えた木々は青々と茂る。

窓際の席が好きなのは、爽やかな風が絶えず頬を冷やすから。

中学二年生の七月。
私は猛暑の中、家庭科室にいた。

#2 [mr-rite]
 

無理やり保健委員にさせられた私と、隣の席にいる坂本君はどこか似てる。

例えば、嫌な仕事をNOと突き返せないところ。
例えば、クラスでどことなく浮いているところ。
例えば、一度引き受けた役目は、しっかりと果たさないと気が済まない生真面目なところ。

そして、あんまり顔が良くないところ。

 

⏰:13/05/24 01:17 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


#3 [mr-rite]
 

互いの共通項に勝手に親近感を覚え、

「坂本君って下の名前何て読むの?」

と、話しかけると坂本君は

「読めないでしょ?モトキって読むんだけど。読めないってか迷うでしょ。
あ、田中さんって下の名前はマミで良いんだよね?俺らのクラスの担任ってさぁ」

…意外にフレンドリーだった。

打ち解けた坂本君は、確かに"イケメン"にカテゴライズされる人間では無いけれど、賢くて、ボキャブラリーの豊富な面白い男だった。

⏰:13/05/24 01:37 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


#4 [mr-rite]
 

坂本君に、「実は私、保健委員長のことが気になるんだよね」と打ち明けたのは先々週のことだった。

漫画の世界だったら、坂本君はきっとショックを受けて、「俺は田中さんが好きなんだ」と熱い眼差しを向けてきたことだろう。

現実の坂本君は、「まじで?無理だと思うよ」とあくまでにこやかに、私をバッサリと斬り落としただけだった。

⏰:13/05/24 01:41 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


#5 [mr-rite]
 

坂本君がそう言うのも無理はない。

私は紛うことなく、"ブス"だ。

坂本君の容姿をどうこう言える立場では無いのだ。

この容姿には、長年悩まされてきた。
この所為でイジメを受けたこともある。

母親は容姿にも恵まれた、可憐な人だ。

「心を美しく磨きなさい」

そう私に諭す彼女は美しかった。

なぜ、彼女の遺伝子は不細工な父親に負けたんだろう。

私は、心も体も醜い父親にそっくりだ。

⏰:13/05/24 01:46 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


#6 [mr-rite]
五月のある日の放課後。
私は発熱で、保健室で休んでいた。
熱は三十八度まで上がり、帰宅も困難だった。

そんな折、数名の男子が保健室に入ってきた。

と、同時に誰かが話を始める。

「なぁ、転入生の田中って子、モサいよな?」

ドキン、と胸が高鳴った。

…私のことだ。
また陰口を叩かれている。
どこに行ってもこんな目に遭う。

耳を塞ごうとしたその時だった。

⏰:13/05/24 01:56 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


#7 [mr-rite]
 

「愛嬌があると思うよ。美人の分類じゃないけど」

…そう、庇ってくれたその人。

確かにその人は、今目の前にいる委員長と同じ声だった。


美しい回想は、坂本君に「人違いじゃないの」と破られた。

いや、あれは確かに委員長の声だった。

その日以来嫌々ながら引き受けた委員会が、楽しみで仕方なくなった。

 

⏰:13/05/24 02:00 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


#8 [mr-rite]
 

「じゃあ、隣のクラスと協力してアンケートを進めて下さい。効率よくね」

陽気な委員長の性格に、皆が釣られて笑う。

「坂本君ごめん、何のこと?」

慌てて我に返った私に、「委員長のこと好き過ぎるぞ」と彼は笑った。

 

⏰:13/05/24 02:07 📱:SC-02C 🆔:WYjkAhw6


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