略奪る。

歳上の食えないやつが辞めると言ってきた。
事情を聞けば、実家を継ぐとのこと。
止める気もないが、後任がいるか不安になる。

上司に相談した。

色々あったが、後任が決まった。

9つ下の女性社員だった。

彼女のことは知ってた。
有名だった。

なんで有名か知らないが、うちの会社で彼女を知らない管理職はあまりいなかった。

彼女の悪い噂は聞かない。

むしろ、その若さで30人もの癖のある連中を束ねてると聞いてる。
俺以上じゃねーか。

見た目は今時のギャル。
顔は可愛い。
細くはないが締まってる。
ネイルにカラコンに茶髪。

俺のタイプではない。

彼女がいた課の課長に言われた。

「永井（彼女）、もう結婚して1年経つからそろそろ子どものこと考えてんだよ。
今の職場じゃ帰りも遅くて子どもなんか作れないだろ？
藤さんのところだったら永井のためにもなると思ってな。」

子どもか。

俺は結婚して7年になるが子どもがいない。
どうやら嫁に原因があるらしい。

嫁はそれを気に病んでる。
年齢のこともあり焦ってる。

俺としては、子どもがいないならいないで構わない。
ただ、女性は違うんだよな。

永井がいたところはライン部門で、正に第一線で働いてた。
俺のいるところはスタッフ部門で一日中パソコン触ってるような感じだ。

永井は現場では男以上に働いてたが、こっちではやっていけるだろうか。
そんな心配はすぐなくなった。

「永井美緒です。今日から宜しくお願いします！」

永井はにやにやしながら挨拶を終えた。
しばらくは前の仕事の引き継ぎもあるから、俺は仕事を振らず様子を見ることにした。

と言っても、こちらでも食えないやつの引き継ぎもあり、そいつとの接し方も見てみたかった。

さっそく食えないやつの引き継ぎが始まり、そいつと永井は会議室にこもった。

2時間は軽く経った。
うわーすげー可哀想。
どんな顔して出てくるか楽しみだった。

3時間手前くらいで2人が出てきた。
食えないやつは相変わらず食えない表情してたが、永井はうんざりしたような表情を浮かべてる。

永井は席に着くなりすごいため息を吐いた。

俺の席からは永井の横顔が見える。
眉間にシワを寄せて唇をとんがらしてた。

その表情を見て俺は笑いを堪えてた。
永井は感情が素直に顔に出るタイプだ。

きっと、井上（食えないやつ）うぜー、とか、やってること意味分かんねー、とか思ってる。

そんな日々の中、永井は必死に食えないやつの仕事を取ろうと食らいついてた。

永井が食えないやつに何かを質問した際、食えないやつは食えない言葉を発した。

「えーだってそれ今説明したって理解できないでしょ？」

出ました。引き継ぎ中とは思えないその言葉。
永井を見てみると、みるみる顔がむうっとしてきた。