〇ニ番目の四季〇
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#123 [ゆり]
ピリリリ〜♪
いつもは嬉しいワン切りが
今日は別れの音。
「これで最後だ…」
あたしは呟く様に口にしてブーツを履いて家を出た。
ヘッドライトが光る。
やっぱり走って車まで行く。
もう癖になってる。
:06/05/30 05:58 :V703SH :vYkyxf/c
#124 [ゆり]
コンコンッ
初めて車に乗った日から
ずっと変わらずやってきた助手席のノック。
あたしなりの彼女さんへのざんげだった。
貴女の場所に座ってごめんなさいって。
ガチャッ
「おじゃましまーす!」
「どーぞ♪」
何の変わりもない
いつも通りの会話がやけに愛しい。
今日で最後なのに。
:06/05/30 06:01 :V703SH :vYkyxf/c
#125 [ゆり]
「高橋さ…
「さて!行くか」
高橋さんはあたしの言葉を遮ってアクセルを踏んだ。
「え?どこに?」
「内緒♪」
それから高橋さんは息つくヒマもないくらい
ずっとしゃべり続けていた。
着いたのは最初、二人で行った場所。
丘の上の宝石箱。
:06/05/30 06:02 :V703SH :vYkyxf/c
#126 [ゆり]
バタンッ
高橋さんは降りて、
助手席のドアを開けた。
そしてあの日と同じ笑顔で言った。
「着きましたよお姫様♪」
…離れられなかったのはこれかもしれない
:06/05/30 06:04 :V703SH :vYkyxf/c
#127 [ゆり]
毎日が目まぐるしく変わっていく中で
高橋さんと会う夜だけは
時間が止まっているみたいだった。
変わらない時間が心地良かった。
そんな日々がずっと
変わらない様に願っていたのに
変わらないんじゃなくて
変えられないんだと気付いてしまった。
もう時間は動き出してるんだ。
:06/05/30 06:06 :V703SH :vYkyxf/c
#128 [ゆり]
「…ありがとう…王子様♪」
あたしは手を重ねて下りた。
最後くらいお姫様と王子様の夢が見たい。
丘の上に着くと
ポツポツと雨が降ってきた。
「あー雨だ…」
あたしは空を見上げて言った。
:06/05/30 06:10 :V703SH :vYkyxf/c
#129 [ゆり]
高橋さんは何も言わなかった。
いつもそうだったよね
何も言わないで抱きしめてくれる。
どんな言葉を言われるより安心できた。
こんな偽りだらけの二人でも
鼓動だけは本物だから。
苦しいくらい高橋さんの抱きしめる腕に力が入る。
:06/05/30 06:12 :V703SH :vYkyxf/c
#130 [ゆり]
「高橋さん…あたし…」
「…うん…」
今日は唇塞がないの?
自分に都合悪くなると
すぐにキスして黙らせるくせに。
「…塞がないと言っちゃうよ…?」
あたしはこの日初めて高橋さんの前で泣いた。
:06/05/30 06:14 :V703SH :vYkyxf/c
#131 [ゆり]
高橋さんの肩が震えてるのがわかった。
完璧な高橋さんが
初めて見せた弱さだった。
あたしが言おうとしてる事気付いてるんだ…
あたしが最後を口にするのが恐くて、
あたしの言葉を遮ったの?
あたしが話すヒマないくらい
ずっとしゃべり続けていたの?
初めて来た場所に、
連れてきてくれたの?
:06/05/30 06:16 :V703SH :vYkyxf/c
#132 [ゆり]
「高橋さん…今日は天気悪いから…キラキラ見えないじゃん…」
胸に顔を押し付けて
声にならないような声で言った。
切なくてたまんなかった。
「うん…」
また強く抱きしめられる。
高橋さんだけ雨に濡れていて、
あたしは守られてるみたいだった。
:06/05/30 06:18 :V703SH :vYkyxf/c
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