幸せの形

こうﾁｬﾝを掴む手はいつの間にか汗ばんでいて落ちないようしがみつくのに必死だった。

きっとそんなにスピードは出てないのだろうけれど体感速度は半端ない。

『こうﾁｬﾝ聞いてる?!』

どうやら何度声をあげてもこうﾁｬﾝには届いてないようで、返事は勿論無い。
仕方なく訴えるのは諦めどうにか早くバイクが停車する事を願った。

ようやくこうﾁｬﾝがブレーキを握ったのは高速を降りて信号に引っかかった時だった。

『大丈夫??』

こうﾁｬﾝは振り返りようやく口を開いた。

『大丈夫じゃないわ!!』

まだ10月だというのに鼻水を垂れ流し、髪の毛はボサボサ。目は乾燥して涙が出て化粧もボロボロ。

『恐かった??』

意地悪そうな笑みをうかべる彼。

私は縦に首を大きく振った。

『ごめん、ごめん。
じゃ、ちゃんと掴まっとき!!』

こうﾁｬﾝはそう言うと左手で私の左手を掴み、
そのまま無理やりお腹の方に移動させた。

『ほら、こっちも!!』

同じように右手も回し気付けば完全にこうﾁｬﾝに抱きつく形になった。

恥ずかし…

結局手は回したものの照れが勝って掴む事も出来ず、そのままの触れるか触れないかの形で固まったままだった。

『ついた!!』

ようやく目的地についたらしくエンジンが切られた。

でも周りには何も無くて真っ暗。

『こっち』

言われるがままこうﾁｬﾝの後ろをついて歩くと目の前には綺麗な夜景が広がっていた。

『綺麗―…』

自然と口が動いた。

毎日店の下から見上げる空を綺麗なんて感じた事なんて一度も無かった。

鬱陶しいくらいギラギラ光るネオンに
薄汚れた空気。

でも上から見下ろす街は
キラキラ光りいくら見ていても飽きなかった。

『寒いしそろそろ行こか』

地面に腰掛けていたこうﾁｬﾝが立ち上がる。

『ほら??乗って?!』

催促されるままバイクにまたがりもう一度後ろを振り返った。

また来たいな…

そう思った。

何となく元気になった気がする。

『ありがとう』

小さな声で呟いた。

やっぱりこうﾁｬﾝには聞こえてないようで返答は無かった。

静かな山奥をこうﾁｬﾝのバイクの必要以上に五月蝿いマフラーの音だけが鳴り響く。

『ありがとう』

もう一度、次は声を張り上げて口に出した。

こうﾁｬﾝは一瞬振り返って
大きく首を縦に振った。