…ごめんね…

今までにこんなに悲しい

【ごめんね…】

という言葉を聞いた事が
あっただろうか…

あなたからこの言葉を聞いた時
あなたにも周りにいた人にも
わからない様に声を押し殺して
泣いたのを私は今でも
覚えています…

｢ここを見ていただくと解ると思うんですが..卵巣に悪性の腫瘍が見つかりました…｣

そう言ってレントゲン写真を指差していた｡

一番聞きたくなかったこの言葉…一気に現実を突き止められた｡
部屋がシーンと静まり返っていた｡

一通りの病状とこれかの治療についての説明を聞いた｡

｢この事はご家族から直接ご本人にお話された方がいいかと思います｡良く話し合ってみてください｣

この言葉を最後に話しは終った｡
先生に挨拶をして部屋を後にした…

皆重苦しい表情をしていた｡
ロビーに戻り椅子に越しを下ろす｡

母にどう説明するか話し会う…

母はどんな結果であろうと包み隠すさず全て話して欲しいと以前言っていた｡
母は強かった｡
真っ直ぐな人間だった｡

全て正直に話そう｡
そう決めて病室に足を運んだ｡

病室に入ると母は笑顔で向かえてくれた｡

｢皆お揃いで｣

そう言っていた｡
でも…きっとわかっていたんだよね？
これから何が起こるのかきっとわかっていたはずだよね？
自分の事は自分が一番解っているはず…
なのに笑顔だった…

この時私は決めたんだ｡
母の前で消して涙は見せないと｡
一番辛いのは母だから…
涙なんか見せたらきっと心配させてしまうから…

おばあちゃんが母に病気の事を話した｡
母は“うん.うん”とだけ真剣に話しを聞いていた｡

｢そっかそっか…｣

話しが終った後に母はこう言っていた｡
なのに表情は明るかった｡

でもきっと心の中では辛かったんだと思う｡

母は強いから弱い所は決して見せないんだ…

手術の日まで暇があれば必ず病院に行った｡
面会ギリギリまで病室にいた｡

ある日いつもの様に病院に向かう｡今日は今まで母に｢カラコンは目が悪くなるからダメだよ｣って言われていたカラコンを付けていた｡病室に入って少しした時｡

｢あれ？化粧変えた？｣

母はいつもと違う私の異変に気が付いた｡

｢カラコン付けちゃった｣

怒られる.と思いながらも私は笑って言った｡
母は｢どれ？｣って私の顔を除きこんでいた

驚く事に母の表情は穏やかだった｡いつもならきっと怖い顔して否定するはずなのに…

｢あ～あ.目傷つくよ～？｣

って私の頬をムニュ～って優しく摘んだ｡

この日から母は優しくなった｡

きっと残り少ない時間を共に笑顔で過ごしたいと思っていたからだろうか…

手術の日がやってきた…

母はこの日も笑顔だった｡
手術室に向かう前｢頑張ってね｣と握手をして別れた｡

待ち時間皆そわそわしていた｡

難しい手術だったらしく予定よりも手術が終わるのが遅かった｡

手術が終った時外はもう真っ暗になっていた｡

手術から戻った母は既に目を覚ましていたが麻酔が完全にきれていないせいか虚ろな目をしていた｡
話し声も微かに聞こえるだけ｡

私達は先生に呼ばれ部屋を移動した｡

手術着のままの先生が話しを始めた｡
袋から手術で取り除いた腫瘍を取りだした｡

｢これが卵巣にあった腫瘍です｣

目の前に置かれた腫瘍はとても大きな塊だった｡

拳くらいの大きさのそれをみてただ涙が溢れた…

母はこんなものをたった一人で抱えていたんだ…
だいぶ前から進行していたであろう病気を私もそして本人も気がつかなったなんて…

後悔にも似たような気持ちだった｡