人を嫌った犬の一生
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#61 [太郎]
俺は一切勉強する気はなかった。一回道を踏み外したんだから、もう元の道には戻れない。…言い訳だった。

そんなどうしようもない俺でも、ゴンはやさしく接してくれた。全て分かっているような目で。

「ゴン、お前はやさしいなァ。」

そう言うと、ゴンは俺の肘をペロっと舐めた。ゴンはいつでも俺の味方だった。

そのまま一年以上たった。ゴンに大きな異変が起きた。

⏰:09/04/16 13:04 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#62 [太郎]
ゴンは左目を手でかきむしるようになった。かゆそうに目を気にしている。

今からバイトだったので、気にしながらもバイトに行った。

蜂にでも刺されたかな?

そんな事を考えながらバイトの終わった俺は、家に着いてゴンを見た瞬間驚いた。

左目の色が白く濁っている。平たく言えば、左目は死んでいた。

白内障。高年齢の犬がよくかかる病気だ。目が白く濁り、視界を奪われるとゆう恐ろしい病気。

「ゴンの左目はもう見えてないみたいよ。」

お母さんが言った。

⏰:09/04/16 13:10 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#63 [太郎]
確かに好物のジャーキーを投げてあげても、いつものように口でキャッチする事ができない。

片目を失った事で遠近感覚が取れないのだ。

それを見て、俺は涙が出た。昔から白内障の存在は知っていたが、このゴンがその病気にかかるなんて…。

ゴンは、半分になった目で俺を不思議そうに見つめていた。

もうゴンは、14歳になった。

⏰:09/04/16 13:15 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#64 [太郎]
視界が半分になろうと、ゴンは今までと変わらなかった。

訪問者にはヒステリーのように吠えるし、餌も山ほど食べるし、水もがぶ飲み。

その姿に俺は元気付けられた。その頃に知り合いに白内障の話をすると、「人間と違って、犬にとっての視力ってものは前感覚の20%くらいなんだよ。だから目が見えなくなる事は、あまり痛手ではないんだ。」

とおしえられた。

俺はやけにホッとした気分になった。やはり犬が一番恐れる事は、嗅覚がなくなる事なんだろう。

⏰:09/04/16 13:23 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#65 [太郎]
それから数日経った朝。ゴンは右目をかきむしっていた。

俺は青ざめた。病気とは残酷なものだ。

心配でたまらなかったがバイトを休む事はできず、俺は家を出た。

バイト中、ゴンの事ばかり考えていた。早く家に帰りたい。早くゴンに会いたい。

バイトを終えた俺は、すぐに家に帰った。

「ゴンっ!」

玄関に行くと、ゴンは壁に向かって座り壁を見ていた。いや、ゴンは「壁」を見る事さえできなくなっていた。

⏰:09/04/16 14:20 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#66 [太郎]
左目と同じ色に濁った右目。

「ゴン!こっちにおいで。」

俺が声をかけると、

「クゥゥン…」

と鳴いてそこを動かない。俺がどこにいるのか、どの方向にいるのか分からなかった。

俺は涙が溢れた。14年間付き添ったゴンは、もう俺の顔を見る事ができない。そう考えると胸がしめつけられた。そして寂しかった。

ゴンは急にパニックを起こしたように「キャンッキャンッ」と鳴きながら暴れだした。

俺の匂いはするのに姿は見えない。怖かったのだろう。

⏰:09/04/16 14:26 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#67 [太郎]
「ゴン!俺はここにおるよ!大丈夫!ここにおる!」

そう言いながらも俺は涙が止まらない。暴れるゴンをなだめようと、ゴンの横腹に触れるとゴンはビクッと驚いた。

「ゴン、俺はここにおるから大丈夫よ。怖がる事ないよ。」

何度も何度も言った。言う度に涙は流れ落ちた。次第に落ち着きを取り戻してきたゴンは、俺の腕をペロッと舐めた。

ジャーキーを投げてあげたが、見つける事ができない。今思えば、嗅覚も鈍っていたのかもしれない。

⏰:09/04/16 14:37 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#68 [太郎]
白内障。普通の犬なら手術をして治すという手もあっただろう。しかし、ゴンは他人に対し凶暴だ。麻酔という手もあるが、もうすぐ15歳とゆう高齢には体への負担が大き過ぎた。

家族の誰もが、手術という手は考えなかった。

それからしばらくして、目の見えない生活に慣れたゴンは、比較的元気に生活していた。たまに階段を踏み外したり、壁にぶつかったりする事もあったが、餌もガッツリ食べるし、水も飲む。骨型の硬いガムも一気に食べるほど。

その頃の俺は、バイトをしながら自動車学校に通っていた。自動車学校やバイトが休みの日は、将来の為の勉強を始めた。

⏰:09/04/16 14:52 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#69 [太郎]
お兄ちゃんは立派な社会人に。お母さんも仕事を始めた。お父さんは別居したままだが、両親のトラブルは減っていった。

まるでそれと比例するように、ゴンは弱りはじめた。

外を怖がるようになった。

前までは、ドアを開ける仕草をするだけで尻尾を振って喜んでいたゴンだが、視力を奪われてからは外に出るのをいやがった。縄を引っ張って外に出そうとしても、玄関から出ようとしなかった。

あれだけ元気で凶暴だったゴンは、見る影もなくなっていった。

⏰:09/04/16 15:00 📱:D905i 🆔:l/weZALU


#70 [太郎]
歩き方もヨロヨロになった。しかしそれでも誰かが家に帰ってくるとヨロヨロと立ち上がり、尻尾を振って出迎える。

「出迎えなくていいよ。ゆっくり寝ときなさい」

そう言っても出迎えをやめなかった。それが愛しくて可愛かった。

俺は日に日に弱っていくゴンが目に見えて分かった。餌や水はよく摂取していたが、歩き方、表情、吐息、その全てから、昔のような元気さを感じ取る事はできなかった。

⏰:09/04/16 15:09 📱:D905i 🆔:l/weZALU


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