人を嫌った犬の一生
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#62 [太郎]
ゴンは左目を手でかきむしるようになった。かゆそうに目を気にしている。
今からバイトだったので、気にしながらもバイトに行った。
蜂にでも刺されたかな?
そんな事を考えながらバイトの終わった俺は、家に着いてゴンを見た瞬間驚いた。
左目の色が白く濁っている。平たく言えば、左目は死んでいた。
白内障。高年齢の犬がよくかかる病気だ。目が白く濁り、視界を奪われるとゆう恐ろしい病気。
「ゴンの左目はもう見えてないみたいよ。」
お母さんが言った。
:09/04/16 13:10
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#63 [太郎]
確かに好物のジャーキーを投げてあげても、いつものように口でキャッチする事ができない。
片目を失った事で遠近感覚が取れないのだ。
それを見て、俺は涙が出た。昔から白内障の存在は知っていたが、このゴンがその病気にかかるなんて…。
ゴンは、半分になった目で俺を不思議そうに見つめていた。
もうゴンは、14歳になった。
:09/04/16 13:15
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#64 [太郎]
視界が半分になろうと、ゴンは今までと変わらなかった。
訪問者にはヒステリーのように吠えるし、餌も山ほど食べるし、水もがぶ飲み。
その姿に俺は元気付けられた。その頃に知り合いに白内障の話をすると、「人間と違って、犬にとっての視力ってものは前感覚の20%くらいなんだよ。だから目が見えなくなる事は、あまり痛手ではないんだ。」
とおしえられた。
俺はやけにホッとした気分になった。やはり犬が一番恐れる事は、嗅覚がなくなる事なんだろう。
:09/04/16 13:23
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#65 [太郎]
それから数日経った朝。ゴンは右目をかきむしっていた。
俺は青ざめた。病気とは残酷なものだ。
心配でたまらなかったがバイトを休む事はできず、俺は家を出た。
バイト中、ゴンの事ばかり考えていた。早く家に帰りたい。早くゴンに会いたい。
バイトを終えた俺は、すぐに家に帰った。
「ゴンっ!」
玄関に行くと、ゴンは壁に向かって座り壁を見ていた。いや、ゴンは「壁」を見る事さえできなくなっていた。
:09/04/16 14:20
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#66 [太郎]
左目と同じ色に濁った右目。
「ゴン!こっちにおいで。」
俺が声をかけると、
「クゥゥン…」
と鳴いてそこを動かない。俺がどこにいるのか、どの方向にいるのか分からなかった。
俺は涙が溢れた。14年間付き添ったゴンは、もう俺の顔を見る事ができない。そう考えると胸がしめつけられた。そして寂しかった。
ゴンは急にパニックを起こしたように「キャンッキャンッ」と鳴きながら暴れだした。
俺の匂いはするのに姿は見えない。怖かったのだろう。
:09/04/16 14:26
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#67 [太郎]
「ゴン!俺はここにおるよ!大丈夫!ここにおる!」
そう言いながらも俺は涙が止まらない。暴れるゴンをなだめようと、ゴンの横腹に触れるとゴンはビクッと驚いた。
「ゴン、俺はここにおるから大丈夫よ。怖がる事ないよ。」
何度も何度も言った。言う度に涙は流れ落ちた。次第に落ち着きを取り戻してきたゴンは、俺の腕をペロッと舐めた。
ジャーキーを投げてあげたが、見つける事ができない。今思えば、嗅覚も鈍っていたのかもしれない。
:09/04/16 14:37
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#68 [太郎]
白内障。普通の犬なら手術をして治すという手もあっただろう。しかし、ゴンは他人に対し凶暴だ。麻酔という手もあるが、もうすぐ15歳とゆう高齢には体への負担が大き過ぎた。
家族の誰もが、手術という手は考えなかった。
それからしばらくして、目の見えない生活に慣れたゴンは、比較的元気に生活していた。たまに階段を踏み外したり、壁にぶつかったりする事もあったが、餌もガッツリ食べるし、水も飲む。骨型の硬いガムも一気に食べるほど。
その頃の俺は、バイトをしながら自動車学校に通っていた。自動車学校やバイトが休みの日は、将来の為の勉強を始めた。
:09/04/16 14:52
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#69 [太郎]
お兄ちゃんは立派な社会人に。お母さんも仕事を始めた。お父さんは別居したままだが、両親のトラブルは減っていった。
まるでそれと比例するように、ゴンは弱りはじめた。
外を怖がるようになった。
前までは、ドアを開ける仕草をするだけで尻尾を振って喜んでいたゴンだが、視力を奪われてからは外に出るのをいやがった。縄を引っ張って外に出そうとしても、玄関から出ようとしなかった。
あれだけ元気で凶暴だったゴンは、見る影もなくなっていった。
:09/04/16 15:00
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#70 [太郎]
歩き方もヨロヨロになった。しかしそれでも誰かが家に帰ってくるとヨロヨロと立ち上がり、尻尾を振って出迎える。
「出迎えなくていいよ。ゆっくり寝ときなさい」
そう言っても出迎えをやめなかった。それが愛しくて可愛かった。
俺は日に日に弱っていくゴンが目に見えて分かった。餌や水はよく摂取していたが、歩き方、表情、吐息、その全てから、昔のような元気さを感じ取る事はできなかった。
:09/04/16 15:09
:D905i
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#71 [太郎]
4月7日朝7時半。
なぜかいつもより早く目の覚めた俺は、玄関に行き、ゴンに骨型の硬いガムを一つ投げてあげた。
ゴンは少しヨロヨロとガムを探し、見つけて口にくわえると、自分専用のマットに乗って噛み始めた。
俺は朝食を済ませ、二階の部屋に戻った。今日の予定は昼過ぎから自動車学校だ。まだ時間はかなりあったので二度寝をした。
1時間後――朝8時半。
「ゴンの様子がおかしいみたい!ちょっときて!!」
お母さんの叫ぶ声で目が覚めた。
:09/04/16 15:16
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