人を嫌った犬の一生
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#77 [太郎]
そのまま車の後部座席に乗せ、病院へ急いだ。ゴンは動かない。
「このまま死ぬのか?ゴン…お願いだから死ぬな!」
そう話し掛け続けた。俺の涙は止まらなかった。
10分ほどで病院に着いた。獣医さんが駐車場で待ってくれていた。
「ではすぐに第一診察室に連れて行ってください!」
病院に入ると、診察を待つペットたちとその飼い主たちがいた。
皆こっちを見ていた。「あぁ…可哀想に…」どこからか声が聞こえた。その声に俺は再び涙が出た。
:09/04/16 15:51
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#78 [太郎]
ゴンの入ったクリアケースをお母さんと二人がかりで診察室まで運んだ。
ゴンは獣医さんたちの手によって、診察台に乗せられる。家族以外がゴンに触れるなんて初めての光景だった。
すぐに獣医さんはこう言った。
「瞳孔が開いています。脳はもう機能していません。危篤状態と言えます。」
それを聞いた俺は涙でグチャグチャだったろう。そこから色々な検査が始まった。
:09/04/16 15:57
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#79 [太郎]
注射で血液をぬかれても動かない、何をされても動かないゴン。もうそこには昔のゴンはいなかった。
エコーで心臓を見る。少ししか動いてない。血圧が異常に下がっていた。点滴を始める。
急に獣医さんが「こっちにきて、ゴンちゃんの足先を触ってみてください」と言った。
言われる通り触ると……冷たかった。
「血圧が非常に低い為、血液を足先にまで送る事がてきていないのです。大変危険な状態です。最悪の覚悟はしておいてください。」
:09/04/16 16:05
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#80 [太郎]
そう言うと獣医さんはまたエコーで体内を見始めた。
「この子は我慢強いんでしょうね。この子が今日倒れたのは、急にきつくなった為ではないと思います。今までは段々ときつくなっていくのを我慢してたのでしょう。そして今日、我慢の限界がきたのでしょうね。」
お母さんも泣いていた。この言葉はつらかった。そんなにつらかったゴンに気付いてあげれなかった俺は、飼い主失格だと感じた。
「では、ゴンちゃんは今日1日入院させます。原因はまだ分かりませんが、やれる事は精一杯やりましょう。ただ、入院したからといって、治る保証はありません。先程も言いましたが、覚悟はしておいてください。」
:09/04/16 16:17
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#81 [太郎]
獣医さんは入院室に連れて行こうとゴンを抱きかかえた。ゴンの手足、首はぐったりしていた。
「よろしくお願いします…。」
お母さんはそう言った。俺は言葉にならなかった。
ゴンを入れて持ってきたクリアケースを手にとり、診察室を出る。
待合室には、元気な犬や猫がいた。それを見ると悲しくなった。
俺とお母さんは家に帰り、ゴンのいた玄関を掃除した。掃除の途中、食べかけの骨型ガムが落ちていた。朝、俺がゴンに投げてあげたやつだ。
:09/04/16 16:24
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#82 [太郎]
食べている途中にきつくなったんだろう。そう考えると胸が苦しくて涙が溢れた。
玄関の掃除を終えると、家の電話に一件の留守電が入っていた。俺とお母さんは再生ボタンを押した。
「○○動物病院です。先程12時50分に、ゴンちゃんの心臓、及び呼吸が停止しましたのでお電話しました。この留守電を聞かれましたらすぐに当院までご連絡ください。」
死神の声に聞こえた……
:09/04/16 16:31
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#83 [太郎]
お母さんはすぐに動物病院に電話をした。
俺は部屋に駆け上がり、整理できない気持ちを涙にして流した。
あまりに急過ぎるゴンの死。白内障にかかった時からどこかで覚悟はしていたが、まさかこんなにあっけないものとは想像もしていなかった。
15年間の思い出が一気に蘇ってくる。この気持ちのやり場はどこにもなかった。
「ゴンを迎えに行くよ」
階段の下からお母さんの力無い声がした。
:09/04/16 16:38
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#84 [太郎]
迎えに行く途中の車の中、お母さんが言った。
「ゴンは役目を終えたのよ。最近は家も落ち着いてきて、あんたも将来に向けて歩き出した。ゴンはきっと安心したんだと思うよ。もう自分がいなくなっても大丈夫だ、ってね。」
聞き耳をたてて、一番家の事を知っていたのがゴンなら、一番家の事を心配していたのもゴン。ゴタゴタが続く家族をなごましてくれたのもゴン。それがゴンの役目だったんだろう。
病院に着くと、ちょうどお昼の休診時間で来診客は誰もいなかった。
:09/04/16 16:55
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#85 [太郎]
待合室で少し待っていると、獣医さん2人にかかえられ、クリアケースで眠るように横たわったゴンが帰ってきた。
涙が出た。朝まで寝息をたててたゴンが、今ではもう呼吸もしていない。
「ゴン!」
と呼んだら飛び起きそうに思えた。
死因は不明。年齢からしても老衰と思えた。
眠るゴンは首輪をつけていなかった。いつか俺が買ってあげた首輪だ。
:09/04/16 17:02
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#86 [太郎]
「あの…首輪は…?」
とたずねると、獣医さんが布に包んだ首輪を渡してくれた。
「今日、ゴンちゃんは天国に旅立ちました。首輪をつけたままではお花畑を走りまわれませんので、外させていただきました。」
獣医さんは言った。
俺は今までこの首輪でお前の人生を我が家に縛り付けてきた。やっと自由に走り回れるんだな…。
そんな事を思っていた。
その場で獣医さんが華を手向け、合掌した。
そして持ってきた食べかけの骨型ガムを、口のそばに置いた。
:09/04/16 17:08
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