人を嫌った犬の一生
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#56 [太郎]
病院までは15分くらいの道のり。ゴンを病院につれて行くのは初めてで、ゴンも落ち着かない感じだ。もちろん俺もお母さんも不安でいっぱいだった。
病院につくと、女性の獣医さんが出迎えてくれた。案の定、その獣医さんにゴンは飛びかかろうとした。
ゴンの縄は俺が持っていた。ゴンはあっちこっちに行こうと引っ張ったが、俺の引っ張る強さの方が上だった。
獣医さんによると、今日は来診する動物が多いので少し待ってほしい、との事だ。
俺とお母さんとゴンは駐車場で順番を待つ事にした。
:09/04/15 21:57
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#57 [太郎]
駐車場には、次々と受診の終わった犬や猫が出てくる。その度にゴンは飛びかかろうとしたり、吠えたりした。
病院から出てくるペット達は、ヒステリーに吠えまくるゴンを蔑むように見ていく。
みんなおとなしくて、服を着たり、オシャレをしたり、上品なペットばかり。まるで飼い主の着せ替え人形だ。
そんな犬達を見ても、ゴンの可愛さに勝てる犬はいなかった。親バカならず、飼い主バカなのかな。
数10分して、先程の獣医さんがやってきた。
:09/04/16 09:06
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#58 [太郎]
ゴンはまた飛びかかろうとした。獣医さんもどうやって検査・予防接種をするか悩んでいた。
今思えば悩んでも一緒だった。ゴンがおとなしくなる事などないのだから。
「不意をついて注射をするしかないですね。」
獣医さんは言った。正論だった。
まず持ってきたジャーキーをゴンの前においた。そして「待て」をさせて、ゴンの意識をジャーキーに向かせた。
静かに後ろから近づく獣医さん。まさに一瞬だった。
:09/04/16 12:11
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#59 [太郎]
「よしっ」の声とともにゴンはジャーキーを食べる。それと同時に獣医さんは後ろからゴンの腰あたりに注射を刺した。一気に予防接種を打ち込み、即座に逃げるようにゴンから離れた。
ゴンはジャーキーに夢中だった。食い意地のはった犬だ。無事予防接種は終わった。
それから狂犬病検査なのだが…
申し訳ないが、どう検査したか覚えていない。
確か唾液かないかを採集しての検査だったと思う。
そしてゴンをまた車に乗せ、支払いを済ませてから家に戻った
:09/04/16 12:47
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#60 [太郎]
検査結果。ゴンに狂犬病の疑いはなかった。それをゴンが噛んだおじさんに伝えると、ホッと胸をなで下ろしていた。
病院から帰ってきた俺はどっと疲れていた。ゴンと一緒に外出すると、歩行者などにかなりの注意をはらわなければならないので、俺の気の張り方は尋常じゃなかっただろう。
ましてや、先日他人を噛んだばかりだったから。
それから一時は、平和な日々が続いた。
その頃の俺は、フリーターとして何も考えずバイトをしていた。将来の事でお母さんと毎晩のように喧嘩していた。その喧嘩をゴンは玄関で聞いていただろう。
:09/04/16 12:58
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#61 [太郎]
俺は一切勉強する気はなかった。一回道を踏み外したんだから、もう元の道には戻れない。…言い訳だった。
そんなどうしようもない俺でも、ゴンはやさしく接してくれた。全て分かっているような目で。
「ゴン、お前はやさしいなァ。」
そう言うと、ゴンは俺の肘をペロっと舐めた。ゴンはいつでも俺の味方だった。
そのまま一年以上たった。ゴンに大きな異変が起きた。
:09/04/16 13:04
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#62 [太郎]
ゴンは左目を手でかきむしるようになった。かゆそうに目を気にしている。
今からバイトだったので、気にしながらもバイトに行った。
蜂にでも刺されたかな?
そんな事を考えながらバイトの終わった俺は、家に着いてゴンを見た瞬間驚いた。
左目の色が白く濁っている。平たく言えば、左目は死んでいた。
白内障。高年齢の犬がよくかかる病気だ。目が白く濁り、視界を奪われるとゆう恐ろしい病気。
「ゴンの左目はもう見えてないみたいよ。」
お母さんが言った。
:09/04/16 13:10
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#63 [太郎]
確かに好物のジャーキーを投げてあげても、いつものように口でキャッチする事ができない。
片目を失った事で遠近感覚が取れないのだ。
それを見て、俺は涙が出た。昔から白内障の存在は知っていたが、このゴンがその病気にかかるなんて…。
ゴンは、半分になった目で俺を不思議そうに見つめていた。
もうゴンは、14歳になった。
:09/04/16 13:15
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#64 [太郎]
視界が半分になろうと、ゴンは今までと変わらなかった。
訪問者にはヒステリーのように吠えるし、餌も山ほど食べるし、水もがぶ飲み。
その姿に俺は元気付けられた。その頃に知り合いに白内障の話をすると、「人間と違って、犬にとっての視力ってものは前感覚の20%くらいなんだよ。だから目が見えなくなる事は、あまり痛手ではないんだ。」
とおしえられた。
俺はやけにホッとした気分になった。やはり犬が一番恐れる事は、嗅覚がなくなる事なんだろう。
:09/04/16 13:23
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#65 [太郎]
それから数日経った朝。ゴンは右目をかきむしっていた。
俺は青ざめた。病気とは残酷なものだ。
心配でたまらなかったがバイトを休む事はできず、俺は家を出た。
バイト中、ゴンの事ばかり考えていた。早く家に帰りたい。早くゴンに会いたい。
バイトを終えた俺は、すぐに家に帰った。
「ゴンっ!」
玄関に行くと、ゴンは壁に向かって座り壁を見ていた。いや、ゴンは「壁」を見る事さえできなくなっていた。
:09/04/16 14:20
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