ねねねのね。

『ねねちゃーん！お客さん来られたよー』
「はーい」
―――あたしはねね。このお店の看板嬢。
今日も誰かの明日を支えるの。

こんなねねだから、女の子達には嫌われる。
『あの子本番してんちゃう』
『ねね整形しまくり』
『あいつホスト狂い』
夜の仕事の人達が集まる掲示板で、あることないこと叩かれる。
本番なんかするわけないじゃん。
ねねは100％天然です。
ホスト？はいはい。
…勝手にやってろ。

こんなこと気にしてたら看板なんてはってられない。
努力を怠る奴に、ねねを否定なんてさせない。
ねねは強いの。
泣かないの。
振り返ったり
したくはないの。

―――――
泣いたら負け。
悲しくない
寂しくない
虚しさなんて
感じたりしない。
ねねは強いの、頑張るの。…なんのために？
そんな問いかけ
必要ないわ。

いつも通り仕事をこなして、送りで家まで送ってもらった。
マンションの下で「お疲れさまでぇす」、いつもの笑顔。
スタッフさんに愛想を振りまくことも忘れちゃいけない。
オートロックをあけてエレベーターで11階へ。
家賃が結構するだけに、夜景が綺麗って評判らしい。
ねねは１度も見たことない。
お家は寝てお風呂に入れたらいい。
首を鳴らしながら鍵を開けると、見覚えのあるパンプスがあった。

「あぁ、きてたんや。」
やっとあたしはあたしに戻る。
無駄な笑顔も甲高い声もいらない、素のあたし。
全身の筋肉が緩んで思わず猫背になってしまいそう。
『おつかれ～☆ビール貰ったで～』
「おん。」
ちらっと目を流してあたしも冷蔵庫からビールを取り出す。

こいつの名前はさち。小学生の頃からのあたしの友達。
親友ってやつ？…ううん、なんか照れくさい。腐れ縁ってやつなんかな。
さちはずっと公立の学校だったから、一緒に授業を受けたことなんか１度もない。
小学生の頃、家に帰りたくなくて学校の近くの公園でぼーっとしてたとき、「なぁ～ドッチ入ってくれん？」と声をかけてきたのが出会い。

それからは付かず離れずの関係で、高校生になってからよく遊ぶようになった。
さちは高校中退で、１７になりたてで家を出て夜の仕事を始めた。
始めはキャバクラだったけど、あたしが風俗を始めたのをきっかけに、さちも風俗の世界に入った、『あんただけずるいやん！』と言って。
…あほやねんな。