『野球バカと恋愛バカ』

　　　　　　　　　　　　高校野球は恋愛に似ていると私は思う

キラキラしていて、毎日一生懸命で、悔しい思いをしてもまた立ち上がる
最後の最後まで何が起きるかなんて分からない

もし神様がいるならば、勝敗はどんな風に決められているんだろうね

　　　　　　　　　　　　ところで、どこの学校でも最初に座らされる席は、出席番号順っていうのが普通だ

私の名字は和田で、いつも１番後ろの席だった

私はその事に感謝している

　　　　　　　　　　　　一つは、先生に隠れて居眠りや内職(授業に間に合わなかった課題をする事)、メールがしやすかったから

今考えると、バレバレだったのだろうけれど…

そしてもう一つの理由は、一人の野球少年、脇坂ゆうきとの出会い

　　　　　　　　　　　　『あ、ども』

『どーも』

これが脇坂くんと交わした最初の言葉だ

隣同士になったあいさつみたいなもんなんだろうけれど、短すぎる上にそっけなすぎた

　　　　　　　　　　　　『なつきちゃん、今日部活の後デートしよっか？』

『絶対いーや！帰って寝なよ、ハゲ』

これが半年後の会話

最初のそっけない感じからこんな風に話せるようになるまで、そんなに時間はかからなかった

きっかけは、高校野球だった

　　　　　　　　　　　　『和田さんは何の部活はいるか決めた？』

入学式が終わって間もなくの頃、私達１年生は部活の入部届けの提出を求められていた

『んー、野球部のマネージャー』

　　　　　　　　　　　　プロ野球にはなかなか興味が湧いてこなかったけれど、高校野球は中学時代から憧れていた

でも野球の知識はほぼ０

そんな私がマネージャーを希望した理由は、情けないことに、見知らぬ野球部の先輩に頼まれたから

『脇坂くんは部活何したいの？』

　　　　　　　　　　　　『小学生ん時からやってたサッカーしたかったんだけど、この学校サッカー部は同好会しかないし、あんまりまともに活動してねぇしなぁ…』

脇坂くんは小学３年の時から中学３年まで、サッカーオタクだったらしい

私は対照的に、何でもすぐ飽きて、続いたものが一つもなかった

そんな私からしたら、サッカーの事を暑く語る脇坂くんが、恋愛感情は抜きにして、かっこよく思えた

　　　　　　　　　　　　入部希望提出日、私はグランドに向かった

私が行くと、野球部員の視線が一気に注がれる

『まじマネージャーやってくれんの？ラッキー』

頼みに来た先輩が寄ってきた

『お願いします』

　　　　　　　　　　　　それにしても、むさっ苦しい

男子だけの空間

ふと、新入部員の固まりに目をやると、ある男子がにこっと笑ってた

『どーも』

『脇坂くん！』

　　　　　　　　　　　　サッカーは？

なんでここにいるの？

入部したの？

一気に色んな質問した記憶があるけれど、はっきり何聞いたか覚えていない

『へへっ、俺今日から野球バカになってみますわ』