わたしの軌跡

わたしは片平に同情した。この人は家族といても独りなんだ。寂しいだろうな…

その時のわたしは、浮気性の男が浮気相手に話す典型的な作り話ってことに気付かなかった。

片平の話をすっかり信じたわたしは、片平に対して好意を持つようになった。

メールがくれば返信し、電話があれば何時間でも話した。

それもすべて同情から始まったことだったんだけど

いつからかわたしは、片平を独占したいと思うようになった。

『あなたの辛さはわかる。でもね、あなたのしていることは、やっぱり良くないこと。
あたしが男なら、こうしてメールや電話で相談に乗ることは良いと思う。でもあたしは女だし、奥さんが勘違いするかもしれないよ。あたしはそれじゃ困るから、もうこれで終わりにしようよ。』

あたしはズルかった。こう言えば片平は、奥さんと別れてあたしのところへ来てくれるって思った。

もともと片平夫婦は、あたしと片平が出会う前から終わってたって言ってたし…。

片平からの返信は

『そうだよね、俺ケジメ無いよね。少し考えさせて』

それから１週間ほど、片平からメールも電話も無かった。

あたしは、自分の考えの甘さに後悔した。

奥さんとは気持ちがすれ違っているとは言え、片平には２人の子供がいる。

子供を犠牲にしてまで、バツ１のわたしのところへなんて、来てくれるはずなんて無かった。

実際わたしだって健人と離れるなんて考えられないし、前の結婚だって健人が反対したら考え直してたかもしれない。

まだ３歳の健人には自分の意見なんて無かったし、子供がわけもわからないうちに父親を奪ってしまったことを、初めて後悔したのもこの時だった。

片平から１週間ぶりにメールが来た

『会って話したいことがある』

わたしは、健人が寝たら連絡するから家に来て

って返信した。

会って話したいことって何だろう…

その日は仕事が手につかず、ミスばっかりしてた。

そして夜１０時

片平が家に来た。

片平は、真剣な顔でわたしに言った

『俺はこの１週間でケジメをつけてきた。
aikoちゃんとまっすぐ向き合いたいから。
奥さんに言ったんだ、今でも俺と別れたいって思ってるなら
その願いを叶えてやるよって。』

わたしはドキドキしながら片平の話を聞いた。

『そしたら奥さん、やっとその気になってくれたって嬉しそうに言ってたよ。
俺、少し寂しかったけど、
私たちが別れても、子供の父親はアナタよって言われて吹っ切れたんだ。』

『それって…？』

片平は、突然あたしを抱きしめて

『俺、奥さんと別れる。aikoちゃんと一緒にいたい』

って言った。

あたしは嬉しくて泣いた。

片平とあたしは、その日初めてキスをした。

片平の話では

奥さんは、同じ市内にある奥さんの仕事場近くにアパートを探している。
上の子供が転校することになるから、いろいろな手続きのために引っ越しは少し先になる。

あたしとは、再婚前提で付き合いたいから、健人に自分を紹介して欲しい。

もう家には未練なんて無いから、すぐにでもあたしと一緒に暮らしたい。

あたしは、もう一人じゃない、片平があたしのために奥さんと話をつけてくれたことが嬉しくて嬉しくて

片平の話を、うん、うんって聞いた。