Living Will

「これは夢なのですか？」
芹香は自分の意思がしっかりしてるのを確認しながら言った。
「近いけど違うね」
「私は死んだのかしら」
独り言のように呟いた。
「まあ、答えに急がなくてもいい。まだ時間はあるんだし、ゆっくりいこう」
一夜と話していると落ち着けるのが自分でもわかった。
「今日は何する？」

「天気もいいし、散歩でもしようか。散歩を喜ぶあなただから」
食事を終え外へ出ると、昨日は冬に感じた風景が春の訪れを思わせる風景へと変わっていた。
綺麗な花や噴水のオブジェなどを一通り見て、ベンチに腰をおろした。
見るもの全てが新鮮で懐かしかった。
一夜の言う、生まれたてで思い出す感覚なのだろう。

数週間が過ぎた頃には自分がどういう人間だったのかを思い出せた。
好きな音楽、料理、漫画、作家、夏には海で泳ぎ、冬にはスノーボードをしたりと鮮明に思い出せた。
しかし、一夜の事だけはもう少しのところで思い出せないという感じだった。
一夜が自分の事を多くは語らなかったためかもしれない。
でも、大切な人なのはわかっていた。

生きているものはいくら願っても現れない。それがここのルールだった。人間ならわかりやすいのだが、例えば漫画のキャラクター等は連載中なら現れない。そういった感じだった。
それなら自分は死んでいるのか？一夜は？
自分達は話す事ができるし一夜が違うと言っていた。
一夜に関しては、彼が何かをする度に思い出せそうだったが、後少しのところで出てこなかった。

芹香の好きなＱｕｅｅｎを願った時、ボーカル以外は生きていたので実際は無理だった。しかし、一夜がギターとドラムの音を作ってくれて、ベースは一夜自身が演奏した。
「昔、楽器ができる人がカッコいいって言ってたでしょ。どう？」
ベースを持ちながら悪戯に笑ったその表情が懐かしかった。
「一夜くん、カッコいいよ」

一夜と一緒に寝るのはこの場所で唯一暖かさを感じれる時だったから大好きだった。朝は必ず一夜が先に起きていた。
朝食はショパンを聞きながら取るのが決まり事のようになっていた。何度聞いても感動し、飽きなかった。
そして日が暮れるまで外を散歩したり、運動したりと過ごした。
日が暮れたら室内で読書したり、遊んだりと毎日が楽しかった。
ここには何も不安はない。
ただ一つ、この場所の出口のような門だけは開けてはいけないと一夜が言っていた。
この場所で唯一の法だった。

そこから出たら全てが終わるかのように、見ているだけで恐怖心が煽られた。そんな時は一夜の優しく笑った顔を見て落ち着いた。
寒さを感じないのに両肩に手を置いた。
一夜はジャケットを脱いで自分に被せてくれた。

「ありがとう。でも、寒くないよ。他の場所へ行こ？」
一夜に目を移すとマフラーの隙間から銀色に光るものが目に入った。
「芹香と交換したんだ。芹香にも付いてるよ」
今まで気付かなかったが、自分の首にも同じものが付いていた。
それは銀色のチェーンに指環が付いてるものだった。
「思い出した？」

その瞬間、すべてを思い出せた。
「一夜くん…私は死んだの？」
「前にも言ったけど、違うよ。でも、ここは僕達が生きていた世界じゃない」
今まで何も語らなかった一夜が言い出した。
「何で私達はここに居るの？」
「僕達がじゃない。ここに居るのは芹香だけだ。現実の君は植物人間になってしまったんだよ」

小説ですよね？
でしたら小説板に書いたほうがいいですよ。
ここは感想を書く所なので…
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