【一緒に】球体関節人形【つくろう】
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#26 [七氏]
「稲川さん、こちらです。稲川さんこちらです。」小さな声で誘導してくれる。舞台が暗転、つまり真っ暗闇のうちに稲川さんは舞台に上がり、所定の場所まで歩いていく。だが暗くて足元が見えないために舞台監督さんが誘導してくれるのだ。舞台の真中辺りに稲川さんが差し掛かった時である。稲川さんはハッ!とした。少年人形、少女人形の黒子さん6人は自分のすぐ間近に居る。舞台監督さんはホリゾントの後ろ、つまり小さな光が2つある場所とはまったく違う、舞台の反対側の袖に居るのだ。居候の彼が言っていた事は証明されてしまったのである。12 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:39やがて稲川さんがスタート位置に付き、ホワイトスポットが稲川さんに当たり舞台が始まった。その瞬間。パーン!という乾いた音と共に少女人形の右手が割れたのである。中からは骨組みが見えていた。舞台も佳境に入り、ある役者さんがその少女人形を棺桶に入れて引っ張るというシーンでの事である。棺桶は丈夫な木で作られた物で重さが8kgもある。しかし大の大人が二人掛りでも持ち上がらないというほどの重さでもない。しかし、持ちあがらない。まったくビクともしないのだ。
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#27 [七氏]
やがて棺桶からはフワ〜ッとドライアイスを入れたように霧が立ち込めてきた。「わ〜・・・。すご〜い。」お客さん達は上手な演出だと思いこみ、拍手をしながら見つめている。仕方が無いので棺桶はその場に置いておくこととなった。やがて棺桶を引っ張る役の役者さんが戻ってきて舞台監督さんに尋ねた。「・・・ドライアイスなんていつ入れたの?」「・・・いや・・・入れてない。」そして舞台は最後の場面を迎えた。声優の杉山和子さんという女性が、後ろを向いたかと思うと老婆の格好から綺麗な女性に一瞬にして早変わりする、というとても美しいラストシーンでの事である。なにしろ外国の取材人が見て絶賛したほどの、最後の見せ場であった。杉山さんが後ろを向いた瞬間の事だ。なんと杉山さんがかぶっている頭のかつらに火が付いたのだ。確かに演出で火は付く事になっていた。しかしそれは本当の火ではなく、例えばボール紙を切りぬいて火の形を作り色を塗ったような、作り物の火なのである。舞台は騒然。お客さん達もそれが演出ではなく事故だという事に気が付き大混乱となった。そうでなくともあまりにも不可思議な現象が多発していた為にスタッフですらパニック状態である。
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#28 [七氏]
結局この日を境に舞台は、事情をお客さん達に説明して、公演その物を中止せざるを得ない状況にまでなってしまった。そんな事があってしばらく経った頃。稲川さん達が行なったこの公演で不吉な出来事が多発しているという事を知った東京にあるTV局の人間が、「その怖い話を、TVで紹介するみたいな、そういう番組をやらせてくれないか?」と、稲川さんに連絡してきたのである13 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:40「いや〜・・・。それは・・・やめた方がいいんじゃないかな〜・・・。」そう穏やかに警告した稲川さんだったが、TV局の人は熱心に稲川さんに相談してくる。その熱意に押され稲川さんは結局、(前野さんという、今は人形の責任者みたいな人がいるから、その人に聞いてみてあげる。)と約束してしまったのだ。前野さんはすぐにTV局の人の要望を承諾したのだが、前野さんは最後にもう一度だけ、中止になっていた舞台をやってからTVに出たい、と言ってきたのである。しかし稲川さん自身は、あまりにもその舞台には不吉な出来事が起きていたので、TVの仕事も舞台とも、縁を切りたいと思っていた。
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#29 [七氏]
しかし、いつもらしくない前野さんの半ば強引な勧誘に誘われ、シブシブ承諾してしまったのだ。「じゃあ稲川ちゃん、明日TV局だよ。忘れないでよ!」そういって前野さんは自宅に一度帰って行った。自宅には、その日の朝まで元気だった父親が原因不明の死を遂げている事を知らずに。この事を知った稲川さんは、人形について少し自分なりに調べてみようと思い立った。従兄弟に続いて今度は前野さんの父親が死に、ますます状況は良くない。それを聞いたTV局の人も「それはますます凄い!」と、不謹慎にも大喜びしている。あの少女人形には何かあるはずだ・・・。稲川さんの耳に不気味な話が入ってきたのはその頃だ。行方不明となっていた、少女人形を製作した本人。彼が見つかったのだ。京都の山奥で一人仏像を彫っているというのである。しかし彼は東京から京都まで、いつどうやって行ったのか?何の目的があったのか?完全に記憶が失われていた。まるで世捨て人のように。その場所にTV番組のレポーターとして小松方正さんがスタッフと共に向かう事になった。小松方正さんを含めた関係者達は取材の前日、同じホテルに全員分を予約している。
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#30 [七氏]
しかし、ホテルに着いた関係者全員が今でも首を傾げるというのは、いざ皆で取材に行こうと皆で待ち合わせ場所に行っても、全員がそろわなかった事だという。同じ日に同じホテルである。インターホンもあるし、連絡はいくらでも取れるはずだ。現にスタッフの一人が、「これから皆で現場に向かうので、1階のロビーまで来て下さいね。」と、確認の電話を全員に入れたらしいのだ。後日稲川さんが小松方正さんに聞いてみたところ、小松さんの場合は集合の電話をもらってまもなく1階のフロントまで行ったのだが、誰もいないのでしばらく待っていたそうだ。それでも誰も来ないので場所を間違えたかと思い、スタッフ達を探しに周ったらしい。あるスタッフによれば、やはり集合の電話をもらってから間もなく1階のロビーまで行ったのだが誰もいない。つまり全員が全員「行き違い」だったのだ。結局この撮影ではスタッフ達が集まらない為に撮影は中止。全員で東京に引き上げたのである。14 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:41しばらくしてから、今度は一度スタッフだけ先行して現地に向かおうという事になった。しかしである。
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#31 [七氏]
TV局の人間が手配した新幹線の切符は、全員が全員、乗る時間、乗る電車、目的地がバラバラで使い物にならないという事態が起きていた。切符の手配をした人にもJRにも、まったく不手際はないのだ。
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#32 [七氏]
そういった混乱がありながらもTV局も今度は強行日程である。全員で到着するなり京都にいる人形の製作者にインタビューをして、日帰りで東京まで帰ってきたそうだ。ところが、東京に戻った彼らを恐ろしい出来事が待ち構えていた。自宅に戻ったこのTV番組のディレクターの奥さんの、首から下が真っ赤に腫れ上がっていた。原因は不明。そして新幹線の切符を手配した女性の息子さんが交通事故に遭って入院していた。更に脚本の構成家、彼の家で飼っている犬が、前足がガクガクになってしまってまったく立てない。同じく原因は不明。誰ともなしにそれらの出来事が起きた時刻を話してみると顔色が変わった。ほぼ同じ時刻だったのだ。稲川さんも含めたTVスタッフ達の間にも重苦しい雰囲気が立ち込めていた。しかし撮影は進んでしまっているし番組も放送の構成をされてしまっている以上続行しなくてはならない。稲川さんの家にもカメラは入って少し撮影して行ったそうだ。そしていよいよ、今度はTV局のスタジオ収録の日がやって来た。収録はそのTV局の最上階にあるリハーサル室で行われる事となった。15 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:42
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#33 [七氏]
スタジオ内のほぼ中央にあるイスに腰掛けて合図を待つ。目の前のカメラを操作している人や照明さんは、稲川さんとは旧知の間柄。和やかに準備は進む。やがて開始の合図が出て収録が始まった。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」「ごめ〜ん。カメラ止まっちゃった。」仕方なく別のカメラを持ってきて撮影は再開された。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」「・・・また止まっちゃった・・・。」故障が立て続けに起きてしまったのだ。今現在使えるカメラがここには無い、という状況になった為、倉庫においてある古いカメラを持ってくる事となった。用意されたカメラは、太いワイヤーの付いた巨大なカメラ。今から20〜30年前くらいに使われていたようなカメラである。しばらくのセッティングの後、撮影は再び始まった。しかし、この頃になると稲川さんを含めたその場にいる人間たちの間にいいじれぬ恐怖が漂っている。そうでなくても色々な事故や不吉な出来事が起きているお芝居の話であり、今はその話を扱うTV局にも降りかかってきているのだ。
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#34 [七氏]
しかし稲川さんは恐怖を我慢して気分を落ち着かせ、冷静に話し始めた。「・・・え〜、私つい最近人形と一緒に芝居をする事になりまして・・・。これは人形にまつわる」ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!突然リハーサル室の扉を叩く音がスタジオ中に響き渡った。カメラは回っている。外の壁には「本番収録中」を知らせる赤いランプが点灯している。それにそもそもここはTV局である。そんな事をする人間はTV局内には一人もいない。しかし扉を叩く音は段々と大きくなって行く。ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!16 名前: あなたのうしろに名無しさんが・・・: 2001/01/24(水) 02:43稲川さんもその音のあまりの大きさに驚きながらも、カメラは回り、本番の撮影中であったため話を続けた。しかし、ふと稲川さんは視線を感じた。番組のディレクターである。彼は稲川さんの様子を見て、観客を見て、スタッフを見た。明らかに困惑しているのである。尚も扉を叩く音は鳴り止まない。ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!するとディレクターが真っ青な顔をしながら扉の方に向かって走って行き、扉を勢いよく開けた。バーン!!!誰も居ないのである。
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#35 [七氏]
現在稲川さんたちが居るここのスタジオは通称「Aリハーサル室」と呼ばれており、廊下を挟んだ向かい側にもう一つ「Bリハーサル室」がある。しかしこの時「Bリハーサル室」は使用されておらず、扉には鍵がかかっていた。さらに、この階は廊下が1本道で、奥の突き当たりにエレベーター、そしてエレベーターの横に階段が一つあるだけで他に隠れるような部屋は無いのである。それにも関わらず誰も居ないのだ。パタパタパタッ・・・!と走り去るような音が聞こえるのであればまだ、いい。そんな音すら何も無かったのだ。結果的にこの番組は、その後関係者達やTV局に事故があまりにも多発したために収録は中止。放送もされる事は無かった。しかししばらくすると、今度は東京にあるもっと大きなTV局から稲川さんの元に依頼があった。その少女人形にまつわる色々な怪奇な出来事を、紹介してくれというこの前のTV局とほとんど同じような内容であった。当時稲川さんはこのTV局で放送されていた芸能人の私生活追跡!みたいな番組で突撃レポーターといった役で出演していた。そして時期も丁度夏場であった為、この番組のディレクターが稲川さんに声をかけたのだ。
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